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17話

 狄を出て二ヶ月弱、俺達はようやく最初の目的地である陵墓(りょうぼ)予定地、驪山へたどり着いた。


 ここ驪山で半数、この先にある宮殿予定地の阿房で半数を送り届ければ引率の仕事は終わりである。


「半年もせずとも狄に帰れる。皆、養生しろよ」


 田横はここで別れる者達へ声を掛けた。人夫の中には涙を流している者もいる。

 この旅で田横を中心に、大きな連帯感が生まれていた。




 賦役の引渡しの手続きを待つ間、建設中の陵墓を見渡す。


 遠目からしか見えないが、とてつもなく大きい。働いている人夫の数も半端ではない。

 一つの街を造っているようだ。しかも重機もなしで、人力でだ。


「これが皇帝の、秦の力なのですね…」


 隣で見ていた田広は度胆を抜かれたようだ。


 あのような巨大建造物はこの時代の人間にとって想像力の及ばない物なのだろう。

 そして、あれだけの人夫を動員できる力を持つ秦を倒すことができるのか、倒さないまでも何か変えれるのか。


 そんな事を考えているのだろう。



「ここで意気消沈しては始皇帝の思うつぼですよ」


「……」


 田広が俯く。


「あの陵墓は皇帝の虚栄心を満たし、且つ権威を見せつけ、恐れさせ、反抗心を削ぐのが目的でしょう。今の広殿のように」


 引渡しを見届け戻ってきた田横が、田広の肩に手を置いた。


「そうだな。しかしそのために多くの賦役を強制し、人心を軽んじる者が、いつまでも人の頂点に立っていることは、天も地も、人も許さぬだろう」


「……そう、ですね」


「行こう。まずは咸陽に着いてからだ。人が動かねば天も地も認めてはくれまい」


「はい!」


 田広は先に歩き出した田横の後を足早に追った。



 その後一日かけて阿房に着き、残りの人夫を引渡した。

 ここでも田横は皆に声を掛け、別れを惜しんでいた。


 一方、田広はまだ建設中にも関わらず、迫ってくる様な巨大な宮殿に気圧されまいと、両拳を握りしめ、大股で歩いていた。


 その様子を田横は優しい笑顔で見つめる。


 いいなぁ、俺にもあんな甥っ子欲しいな。

 俺の姪っ子なんて…いや止めとこう、思い出しても腹が立つだけだ。


 むしろ田横みたいな叔父さんが欲しい。



 ~~~~~



 人夫達と別れ、後は咸陽へ向かうだけだ。ようやくこの旅も終わる。


渭水(いすい)を渡れば咸陽は目と鼻の先だ。渡し舟を探そう」


 田横はそう言い、渭水と呼んだ河沿いを移動し始めた。


 流石に首都近辺となるとちらほら旅人や商人らしき者を見かける。その者達が進んでいる方へ一緒に向かう。


 程なく舟は見付かり、船頭に幾らかを支払い舟に乗り込んだ。


 そういえば俺、金を一銭も持ってないな。

 咸陽に着いたらお小遣いくれないかな。俺だって何かと入り用なのだ。うん、何かいるはず。何かの時のために。


 ちょっと田横に交渉しよう。


 田横を探すと彼は舟の縁で河を見つめていた。


 そして腰に下げている剣の柄にある飾りから玉を取り、河へと投げ込み黙祷している。


「何をされていたのですか?」


 暫くの黙祷を終えた田横に問う。


「うん?ああ、この河の水神に祈りをな。生け贄がおらぬから代わりに玉を捧げた」


 そういって腰の剣を叩く。


「秦は五行で水徳の国だ。水神にあの国を認めるのか?護る価値があるのか?認めぬのなら俺達に加護を、とな」


 神だのみか、ちょっと意外だな。いや、そんな事ないか。この時代の人は皆信心深いしな。


「そうですか…、加護はありそうですか?」


「どうかな?あるといいけどな」


 田横は河を見つめ、


「広にもいったが、まずは人が動かねば加護も得られまい」


 そう言って少し笑って歩いていった。




 あ、小遣いの事言いそびれた。




 やがて舟は対岸にたどり着き俺と田横は馬車に乗り、他の者達も歩き始めた。



「もう少し進めば咸陽だ」


 隣の男は、馬車の上でそう言いながら少し寒そうに肩を竦めた。

やっとプロローグの場面までたどり着けました。

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