14話
旅は続く。
乾いた風が俺達の行列を抜け、河水の水面を銀色に波立たせる。
風は冷たくなってきている。
狄を出発して一月程が経っていた。
この頃には皆旅に馴れてきたようで、一日に歩く距離も伸びたように感じる。
ひ弱な現代人である俺は田横、田広と交代で御者をやらせてもらっているので、他の人と比べて歩いている距離は少ない。
尻を犠牲に体力の消耗を抑えているのだ。
道は広く長い。すれ違う者は稀だ。
河に向かう漁師、畑に行く農民、そして見回りなのか官兵の兵車がたまに通るくらいだ。
そんな中、珍しく前から近づく旅人の姿が見えた。
一人がロバに乗り、従者が手綱を引いて歩いてくる。
…なんかロバに乗ってる人、フラフラしてるけど大丈夫なのか?
やがて顔が見えるところまで近づいてきた。
従者は老人のようだ。乗っているのは…
え、女?
よく見ようと目を凝らしたその時、
乗っている姿勢のまま、ゆっくりと横に倒れていった。
しかも従者の老人は耳が遠いのか、歩きながら寝ているのか、そのままロバを引いて近づいてくる。
「おい従者!落ちたぞ!」
田横が落ちた人へ駆けながら従者に言う。
その声で初めて気が付いたのか、老人は振り返り慌てて主人に駆け寄る。
今度はロバが手綱を離された事に気付いていないのか、そのままカポカポと歩いて俺達を通り過ぎていく。
おお…なんだこれ、カオス過ぎる。
「おい、大丈夫か?中、馬車へ乗せて診てやってくれ。突、引率の役人へ説明してくれ、すぐ追い付くと。広、ロバを追え」
田横の声に俺は馬車を止め、二人はすぐに駆け出した。
ヤバイな、以前医術の心得があるって言ってしまった。
とりあえず脈でも計るか?
俺は田横と共に倒れた人を馬車に寝かせ、声を掛けながら手首を取る。
意識はあるようだ。脈も安定している。
「大丈夫ですか?」
そう尋ねると、
「大事はございません。少し眩暈がしただけです」
そう言って体を少し起こした。
倒れた人を改めて見る。
艶のある黒い髪を上の方だけ結い、後は胸の辺りまでの長い髪を下ろしている。
病的なまでに白い肌は体調のせいか、青白く見える程だ。
眉は細く、唇も薄い。鼻筋は通っているが小さい。
その反面、半月の様な目とその瞳は大きい。
そして、それを覆い隠すように長い睫毛が揺れている。
絶世の美女、
の様な男だ。
男かよ!なんだよ、なんでこんな綺麗な顔の男がいるんだよ!
……わかってたよ。この時代、若い女性が従者の爺さんと二人だけで旅するわけないのは。
でも期待するじゃん、男だもの。
こっち来てから全く女っ気ないからさ……。
『大丈夫ですか?』
『ええ、優しいのですね…素敵』
とか期待するじゃん。
「孟、薬を」
美女の様な男は、老人に薬を持ってくるよう呼びかけた。
孟と呼ばれた老人は頷き、振り返って
「はぁっ?!」
ロバがいないことに気付いたようだ。
大丈夫か、この爺さん。