13話
6話に出てきた『焚書坑儒』の用語説明をあとがきに入れました。
他にも分かりにくい用語には、説明を入れていこうと思います。
この用語が分かりにくいなど、ご要望ありましたら随時入れて参りますのでご指摘よろしくお願いいたします。
「浅慮なことを申しました。やはり私は臆病者ですね…」
俺と田横の話を聞き、田広は項垂れた。叱られた犬の様だ。
「いやいや、それは臆病というよりは慎重だという事でしょう。最悪の事態を想定しておくのは大事なことですよ」
「うむ、その慎重さは人を纏める者として、配下を無駄に殺さないためにも必要なことだ。
まぁ慎重になりすぎてもいかんがな。その辺りはこれからゆっくり学べばいいさ」
「はい、ありがとうございます」
俺と田横がそう言うと、田広は嬉しそうに頭を上げた。
素直なええ子や。
きっと立派な人物になるだろう。田儋の息子の田市も見習えばいいのに。
本家のプライドが邪魔してるのか、あれで跡を継げるのかね。
…ん?
あれ?ちょっと待てよ。
田儋の跡を田市が継ぐのか? そしたら斉王ってことだよな?
田儋から田栄へ、田栄から田横へ、王位は移るんじゃないのか?
いやいや、息子がいるのに従弟に王位を継がせるのはおかしくないか?
よっぽど田市のできが悪いからか?
そして兄田栄から、弟田横へ?こんな将来有望な息子がいるのに?
なんか違和感があるな。
うーん…わからない。
こんなの学校で習ってないぞ。てか歴史の教科書に田氏なんか出てこんぞ。
「……ゅう、中」
おわっ、
気がつくと田横が目の前におり、訝しんでいる。
「どうした急に固まって。食事が出来たぞ」
「すみません。旅の事や咸陽での事を考えて不安になっていました。臆病者ですので」
「ふっ」
鼻で笑って椀を渡してくる。
そこは否定してよ。
「旅は始まったばかりだ。あまり先の事を考えてもしょうがないぞ」
そうだよな、どうせ大雑把にしか知らないんだ。なるようにしかならないか。
俺は小さくため息を吐いて、粥を口に運んだ。
マズッ!
~~~~~
それから数日、朝は日の出から歩き出し、日が傾くと邑に入り、近隣に集落がなければ交代で見張りを立て、野宿をする。
その繰り返しである。皆の足取りは重い。
今は大きな河沿いを歩いている。
対岸が見えない程大きな河だ。黄河かな?でも黄色くないな。
「この大河は、河水という」
河を見ながら歩いていると、田横が教えてくれた。
「河水は度々氾濫するが、上流から肥沃な土を運んでくれる。
だから邑も多い。洛邑などの大きな邑もこの河沿いにある。俺達中原に生きる者にとって、なくてはならない河だ」
田横の言うように、邑が多い。今日は邑の中で休めそうだ。
一つの邑に入ると田横は何やら村人と交渉している。
やがて、従者の田突と共に大きな籠を持って帰って来た。
「漁師から魚を買ってきた。
皆疲れているからな、精が出るものを食おう。沢山買ったから皆で分けよう」
そう言うと各組へ回って魚を分け始めた。
分けてもらった者達は皆、久しぶりの笑顔だ。
よく気がつくというか親分肌というか。恩着せがましくないのがまたね。
あ、役人にもあげてる。役人も笑顔だ。
「流石叔父上ですね」
田広も我が事のように嬉しそうだ。
「持って生まれたものでしょうかね。横殿は人を惹き付けますね」
俺は田広にそう応えると、田広はこちらに笑顔を向けた。
「そうですね、叔父上の周りには自然と人が集まります。
中殿もその一人ですね」
………。
なんと応えていいかわからない。胸がざわつく。
しかし嫌な感じではない。
やがて魚を配り終え、田横と田突が戻ってきた。
「どうした?」
「いえ、何でもありません」
いつもの鍋の材料に加え、ぶつ切りの魚と臭み消しの野草を入れ煮込む。
やがて煮え立たったそれを椀に注ぎ、口を付ける。
こ、これは!
臭み消しの青臭さと、消し切れない川魚の泥臭さと生臭さ、小麦のとろみ、そしてそれらが奏でるハーモニー!
マッズッ!