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7話

 翌朝、泥の様に眠っていたところを家僕(かぼく)に起こされ、田栄(でんえい)田横(でんおう)とともに再び田儋(でんたん)の屋敷を訪れた。


「どうした?こんな朝早くから」


「従兄、中から大変な情報を得ました」


 田栄が一通り説明し、田儋は大きな目をさらに大きく見開き、こちらを向いて一つ息を吐いた。


「確かに皇帝は死ぬのか?」


「徐福殿の話では頻繁に水銀を服用していたようです。私の予想では持って一年、早ければ年内にも。仮に死ななくても、重い中毒症状が出て、政務どころか日常生活も困難になるでしょう」


「お主は医術の心得があるのか?」


「多少ですが」


 この時代の人間からしたら家庭の医学でも十分だろう。


「栄、どう見た」


 田儋が田栄に促す。


「まだこの情報が正しいと決まったわけではありません。しかし、今までは商人からの情報や噂に頼っておりましたが、この先の事を考え、咸陽(かんよう)に人をやり、正確な情報を迅速に得ることが重要でしょう」


「横はどうだ」


「今のうちに信頼できる者達を見極め、密かに連係を図るべきかと」


「中、お主の意見も聞きたい」


 え、俺?


「は、はい。お二人と同意見です。加えて言うなら、挙兵するならば慎重に機を見極めなければなりません。孤立の中、挙兵して秦の大軍が全てこちらに向かうのは得策ではありません」


「うむ、官兵は腐っていても数は多い」


 一番手は陳勝(ちんしょう)呉広(ごこう)に任せておけばいい。


「今、民の不満は堤の縁まで貯まってます。程なく溢れ、各地で反乱が起きるでしょう。

 それらの流れの一つになり、秦へ立ち向かうのがよろしいかと。

 やがて細流は纏まり、大河となって秦を押し流すでしょう」


 三人は強い目で頷く。


 その頷きに安心したものの、俺は一つの懸念を抱き、問う。


「しかし、栄殿の仰る通り咸陽に人をやるとして、皇帝の病状や兵の動きなどの重要な機密を得ることができるのでしょうか?」


「それについては考えがあります」


 田栄が懐から竹簡を取り出した。


「秦の上卿(じょうけい)蒙毅(もうき)という者がいます。太子扶蘇(ふそ)が左遷された先の、北方の将軍蒙恬(もうてん)の弟です。

 この蒙毅は皇帝が車に乗るときは常に同乗するほど信任篤いようです。

 その蒙毅宛に書簡を書きました」


「蒙氏か」


 田儋が納得しているが、何か蒙毅と繋がりがあるのか?


「蒙恬、蒙毅の祖父、蒙驁(もうごう)(せい)の出身で一時期斉に仕えていました。それを伝に蒙毅に接触しましょう」


 この時代、出身地や氏などの繋がりは強い。俺が田中ってだけでここにいるもんな。


「問題は使者だな。相手は上卿だ。半端な者では会うこともできまい」


「俺が行きましょう」


 田横が声を上げる。


「斉王の子孫である俺なら蒙毅も無下にはしないでしょう。

 賦役(ふえき)の引率も兼ねて咸陽まで行けばいい。

 県令も厄介者の一人が居なくなるのだ、諸手を振って送り出すだろう。

 何、事が起きれば飛んで帰って来ますよ」


「ううむ」


 田儋は従弟が心配なのか、思案顔だ。


「従兄、横は一族一の強者、機転もききます。横ならば多少の困難でも切り抜けられましょう。適任です」


「…わかった。横、任されてくれるか?」


「はい!この大任、見事果たしてみせます!」


 田横は田儋に向かって勢いよく揖礼した。


「さしあたって一つ願いが」


 田横が顔を上げ、言葉続ける。


「なんだ?」


 そして、笑顔でこちらを向いた。


「この田中も同行していただきたい」



 ……は?


 え?何で?やだよ、俺はここで食客としてニート生活を送るんだ。

 その後、時期を見て安全なところへ逃げて漢が統一したら現代に戻る方法を探すんだ。


 大体、俺が付いていって何の役に立つんだ。


「先程の話ぶりから、中は中々弁舌も立つようですし、思慮深いようです。俺の短慮を諌め補佐してくれるでしょう」


 歴史を知ってるからそれっぽく言っただけだって。


「ふむ、そうかもしれん。中よ、頼まれてくれるか?」


「あ、あの、俺は」


 役に立たないって。


 田横が近付いて、肩に手をかけた。


「ひぐっ、」変な声出た。


「行くよな、中」


 ジャイ◯ンかよ……。


「んん?」


 田横の笑顔が怖い!肩の圧が凄い!


「い、行きます!行きましょう!行かせてください!」



 こうして俺は咸陽へ旅立つ事になった……。


 ~~~~~


 田横と俺は旅の準備をと、田儋と田栄を残し分家へと帰った。


「さて、これから忙しくなるぞ。賦役を集め、食料を手配して、県令に申告して…まぁ出発は十日後位かな」


 田横はそう言い、家僕に旅支度の指示を出す。


 家僕が慌ただしく出ていき、田横と二人になった俺は田横に訊ねた。


「なぜ俺を?」


「うん?あぁ、勘だよ」


 ハハハッと大きな口で笑う。


「お主を連れて行けば、何か大きな助けになると俺の勘がいっている」


「……。」


「それにまだ何か知っていそうだしな」


 うっ、何故わかった。


「それも勘ですか?」


「まぁな。そして俺の勘は、お主は俺だけでなく、田家に恩恵をもたらしてくれるともいっている」



 そう言って田横はニカッと音が聴こえてきそうな笑顔を向ける。

 その屈託のない笑顔を見て、自分の胸が熱くなるのを感じた。



 この人にはかないそうにないな。


次回より更新頻度を落とさせて頂きます。楽しみにしてくださっている方がおられたら大変申し訳ありません。

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