8 出発
店の扉を開き、リアナと別れた。
今回は裏口ではなく、正面から入ったが店の中には商品と思われる装備品が沢山置いてあった。その商品は二系統に分かれており短剣から槍、弓などの武器系統、兜や鎧、盾などの防具系統である。
それらを品定めするかのような目線を向けるコロンを、また違うヒトが疑いの目線を向けていた。
「あの、お客さん?扉のところに準備中ってなってるの読みませんでしたか?」
「え?そうなのか?」
「はぁ。困りますよ。さ、でてったでてった。」
「いやちょっと待って。クエモさんに…。」
「クエモさんに、ですか?」
店から出るように急かす女の店員だが、その容姿は普通の人間と少し違う。
彼女は耳が頭の上に付いているのである。そのほかにも短い尻尾がちらちらと覗いている。それらの情報から亜人、その中の一種である犬人族だと判断できる。
――結構かわいいんだな。
ここも再現が中途半端だったゲームの時と違い、毛の一本一本まで見ることが出来る。そうすると感じる雰囲気が大きく変わる。
「そう。王都に行くとかって話になったんだけど、クエモさんは?多分本人に聞くのが一番早いから。」
「そうですね。ちょっと呼んできます。――この商品、盗んだらダメですからね?」
「盗むわけないでしょうよ…。」
「ダメですからね。」
必要以上の注意に肩をすくめながらクエモの到着を待つ。その間は自分の靴を見ていた。
「にしてもすげぇ靴だな。金貨五枚の価値がいまいち分からねぇが、まぁ相当なんだろうな。」
「へぇ。その靴を買ったのかい。いい買い物をしたんじゃないかい?」
「お、スコットさん。」
自分の独り言に返しがあり、声の主の方を見る。
そこには前見たスーツの上にコートを羽織ったクエモが居た。
「その靴は…。そうだね、うちなら金貨八枚で売る。かなり安くしてもらったね。」
「そうなんですか?いまいち分かってなくて…。」
「通貨の知識もこれからは必須になるだろうし、王都へ向かう途中で教えてあげるよ。」
「ありがとうございます。」
「さて、準備はできたのかな?」
「はい。大丈夫です。」
クエモはその会話をしている間、白い手袋をつけていた。そして準備完了の報告をコロンから受け取ると店の店員に指示を出した。
店の中に居たコロンに声をかけた人のほかにも、もう二人が居住まいを正し、その指示を聞く。
「これから私は王都へ向かいます。その間はこの店を任せます。責任者はソラ。宜しくお願いしますね。」
「は、はい!」
コロンに話しかけてきた人が返事をする。
「先日の大襲撃のような緊急事態が起こっても焦ってはいけません。落ち着いて、ケガはしないように。」
「――はい!」
店員が一糸乱れぬ返事をする。
その直後、店の扉がまた開かれる。
「馬車、持ってきました。」
「ありがとう。少し待っててくれるかな。」
「はい。」
扉を開いたのは人間の男であった。
その男からの報告を聞き、新たな指示を出すクエモ。
「さて、コロン。本当にいいね?」
「はい。」
短い返事をし、クエモを見るコロン。またクエモもコロンの方を見た。
「よし。なら行こう。こっちだよ。」
扉を開き、店から出るクエモ。それに付いていくようにコロンも店から出た。
「おぉ。これが――」
「馬車だよ。それなりに改造してあるけどね。」
その馬車は屋根付きの客車を備えており、各部の装飾によって高級感を高めていた。
その客車を引く馬も、黒光りする毛を持つ黒い馬で、並の人間が乗れるような雰囲気ではない。
「馬車とか久々に乗ります。」
「序盤だけだもんね、乗るのは。」
「そうなんですよね。」
『ニュートレーションゲーム』内での移動手段は安価な飛行石を使うのが主になり、それを入手できない序盤のみ、定期運行の馬車を使う。
「さ、乗ってくれ。少しは揺れるが大丈夫だろう。」
「じゃあ失礼します。」
よそよそしく馬車に乗り込むコロン。そして客車の内部も圧巻の造形ばかりで息をのむ。
「かけていてもらって構わないよ。ちょっと御者と話してくるから。」
「分かりました。」
クエモの姿が消えてからその赤い座席に腰を下ろし、待つ。
「おっ、フカフカ。」
その座席のクッション性に驚きのあまり、声が出てしまった。
――にしてもやべぇな。靴といい、その座席といい。
そこから数分、クエモも乗り込み、御者台に居る人物に声をかける。
「さ、向かおうか。王都へ。」
「――はい。」
その返事にはこれまでとは違う、緊張と現実と対峙する覚悟があった。
馬車は加速していき、中央通りを通り、街から出る。
そこにはコロンが居たあの草原が広がっていた。
第一章、完結。