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6 同じ境遇を持つ者

 赤髪ツインテール幼女――アイネと別れ進んでいく。

 一応はマリさんのところへ向かおうとしているが、彼女がどこに居るのかは分からない。


「分からねぇな。」


 怪我人の中にマリさんが居るという推理は見事に外れある種の迷子状態である。

 周りの人に聞こうにもみんながみんなケガをしているため、聞きにくい。


「どうすっかな。あいつの担当じゃないって言ってたからもうちょい離れてるのかもしんねぇな。」


 アンネの姿が脳裏をよぎったが無視。怪我人がまとめられているエリアの端をゆっくりと歩く。

 この怪我人の数から昨晩の襲撃は相当のものだったという事が容易に分かった。


「ホントに生きてるのが奇跡か。」


 スコットの言葉が何の誇張もなくただ事実を言っていた事に確証を持った。



 その後、行くあてもなくフラフラしていたコロンだったが、ある男に声を掛けられ一緒に行動している。

 その男は『クエモ』と名乗った。体の線は細く、短い銀髪で眼鏡をかけており、服装は一種のスーツの様である。見た感じの年齢は二十歳後半。


 突然肩を触られた時にはさすがに動揺したが話たところ悪い人ではない。この人が長を務める商会もあるらしく『ファーム商会』というのだそうだ。


「で、何か用があったんですか?」

「そうだね。あった事はあったんだけれども、こうまで人で溢れているとは思わなくてね。」

「昨日が大変でしたからね。知らないんですか?」

「軽くは商会のメンバーから聞いているよ。ここにも支店があるからね。商売上がったり下がったりだ。」

「大変っすね。というか支店とかあったんですね。」

「寄っていくかい?そこなら話もゆっくり出来るだろうし。どうだろうか?」

「大丈夫ですよ。そこまで急ぐことも無いですし。」


 マリさんのところへ行くつもりだったがクエモの話が意外と面白く、リアナがマリさんと一緒に居るだろうと判断し付いてくことにした。

 街へ入ってきた所から左、すなわち冒険者組合の反対側に位置する商会の支店は多くの人でごった返していた。聞こえる怒号から察するに昨晩の大襲撃で装備を強化しておきたいという者が大半である。


「これ、ヤバくないですか。」

「今日は儲けが大きくなりそうだ。うちのスタッフは優秀な人材ばかりだからさばけると思うよ。」

「そうですか。良い商会なんですね。」

「そうだね。誇りに思っているよ。――正面からは入れないから裏から入ろうか。」

「は、はい。」


 先導していたクエモが脇道へと入っていく。コロンもそれに従い付いていくと店の裏手に到着した。

 クエモが手にしていたカギを鍵穴へ差し込み、開錠する。ゆっくりと扉を開けると店のバックヤードと思われる場所と繋がっていた。


「店のバックヤードとか初めて見ました。こんなんなんですね。」

「支店だからこんな感じだけどうちの本店はもっと大きいから驚くと思うよ。」

「本店すか…。」


「さて、ここでゆっくり話をしようじゃないか。」


 クエモとコロンがバックヤードを進み、木箱で囲まれた場所へ案内された。そこには椅子が二つ、その中心にテーブルが置いてありおあつらえ向きの会話スペースが完成していた。


 両者が椅子に座り、向き合う。ここでお互いの顔をしっかり見た。


「で、何のお話なんですかね。」

「そうだね。単刀直入に聞こうか。」

「お願いします。」


 クエモがゆっくりと手を組み、じっとコロンを見つめる。

 その様子にコロンは唾を飲み込む。

 そのクエモがゆっくりと口を開き、言葉を発する。


「――君は『ニュートレーションゲーム』を知っているか。」


「ニュートレーション…。ゲーム。」


「そうだ。君はそれを知っているのか。」

「――知っています。」

「そうか。」


 クエモの小さい返答の後にコロンの動揺が大きくなっていく。


「あ、あの…。質問しても?」

「あぁいいとも。」

「あなたも『ニュートレーションゲーム』を知ってるんですよね。」

「あぁもちろんだとも。一応はプレイヤーだよ。いや、元プレイヤーと言うべきか。」

「そ、それって…。」

「そうだね。君と同じという訳だよ。」


 心臓の動悸が激しくなり、額に汗を浮かべる。


「じゃあ、あの黒球も…。」

「見た事もあるし会話もした。最初の一回きりだったけれどね。」

「そうなんですか。――でもどうやって俺を見つけたんですか?」


 神妙な面持ちでクエモを見つめるコロン。その心の中には、どこかしらで自分が狙われているのではないかという危惧の念を抱いていた。


「ははは!よく言ったものだよ。君の恰好を見れば分かるだろう!」


 いい声で笑いながら当然の事を言ってくるクエモ。それもそのはずコロンの服装は部屋着である黒のパーカーとラフな灰色ズボンなのである。この服装をしている者をコロンは見たことがない。


「そ、そうですね。いやぁ、すいません。疑っちゃって。」

「当然の反応だとも。いいとも、いいとも。――次はこちらから質問してもいいかな?」

「はい。どうぞ。」


 疑いが消滅し、安堵した。

 その後、クエモが口を開く。


「君はこの世界へ来る前、ニュートレーションゲームで何をしていた?」

「何って…。それって重要なんですか?」

「もちろん重要だよ。聞かせてくれるかな。」

「あのお恥ずかしいんですが、百時間連続ログインしてました。ま、まぁ失敗したんですけどね!」


 立ち上がり身振り手振りであたふたしながら言った。変な汗を背中にびっしょりかいている程、恥ずかしい。自分は一人で何をしてたんだろうか。


「そうか…。そうなんだね。」

「あの、何かあるんですか?それが。」


 コロンはもう一度座り、クエモの方をまた見る。そのクエモは下を向き、考えていた。


「実はね、こっちの世界に居る元プレイヤーは君と私、その他にもまだ居るんだよ。」

「え、居るんですか。」

「まだ数までは正確に出すことが出来ていないが居る事は確定した事実なんだ。数人はうちの商会のメンバーでもある。」

「そうなんですか…。」


「それでなんだけれどね、その元プレイヤーには共通点というか、似ている点があるんだよ。」

「はい。」

「君は百時間もの間ログインした。睡眠が出来ないゲーム内でだ。」

「はい…。」


「私はクエストを千回クリアしたんだ。NPCから受注できるものをね。」

「クエストをクリアですか。千回って相当…。」

「それなりには多いだろうね。でも初期は相当簡単なものが多いだろう?」

「そうですね…。」


「ほかにも回復アイテムの使用回数が多かったり、神殿で復活する回数が多かったり、とにかく何か多くしてるんだよ。」

「へぇ…。」


「どうかな。その人たちと会ってみないかい?」

「会えるんですか!?」

「もちろん。商会のメンバーにも同じ境遇の者が居ると言ったろう。その人達だよ。」

「そうだったんですね。是非、情報交換したいんですけど…。」


「何かあるのかい?」

「少し会ってきたい人が居て…。」

「そうかい。なら会ってくるといい。準備ができたら出発することにするよ。」

「え?ここに居るんじゃないんですか?」

「あぁ、本店の方に居るんだよ。だから王都だね。」

「王都…?」



「――あぁそうさ。龍との盟約を持つ王国『ボラリア王国』の王都さ。」


 今まで大切なことを忘れていた。地名である。この街の名前も知らなければ王都の存在も知らなかった。ゲームの頃のシステムは同じではあるものの、外見が変わりすぎていた故の事である。


「じゃあここはなんて…。」

「ここはボラリア王国の領地、グラープの街だよ。」

「グラープ…。」

「何か聞きたいことはあるかい?」

「マリさん…。そうだな、スコットって知ってるか?」


 その後の会話でスコットは取引先の一つであり、店の場所も当然知っていた。大体の位置を教えてもらい商会を後にする。

スコットの店は少し戻ったところにあるバザー街の中にあるらしい。


 もしかしたら知っているかもしれないと思い、足早に向かった。



――――――――――――――――――――――



 多くの人で賑わうバザー街は主に食料品や装備品の取引が行われている。特に人が集中している部分とクエモから聞いたスコットの店の場所が一致していた。


「すまねぇ。スコットって奴は居るか?」


 店先に立つ二人の青年に声をかけた。しかし、その二人は店先の客を捌くのに手いっぱいでコロンまで構うことができない。


「おいお前ら、もうひと踏ん張りだ。頑張れよ!」


 突然野太い声が店先に響いた。それは紛れもなく、スコットその人の声だった。


「ス、スコット!」

「おぉ兄ちゃんじゃねぇか。どうしたんだ。装備でも買いにきたか?」


 スコットの店では装備を取扱い、兜や鎧、武器まで販売していた。しかしコロンの持つ知識からすればあまり強い類の装備でもない。

 『ニュートレーションゲーム』では初期装備などを初めとする弱めの装備が店先で販売され、対ボスなどの強力な装備が必要な時は素材を集めて装備を練成する。


「いや、まだ買いにきた訳じゃねぇ。マリさんはどこに居るか知ってるか?」

「あの女の人か?」


「そうだ。やっぱり知らねぇか…」

「いや知ってるぜ。ついさっきここに来た。」

「こ、ここに!?」

「あぁ。伝言があるぜ。」

「本当か!」


 スコットが裏声を駆使してマリの声質を再現しようとする。ひどい裏声だったがここは無視する。


「コロンさん、昨晩はありがとうございました。

 幸いけがなどは無く、今は家に戻ります。

 もしも時間があれば来てください。

 リアナも待っています。だそうだ。」

「分かった。ありがとな。また来るぜ。」

「おう。今度はお客として来てもらわなきゃいけねぇな!」


 意外と簡単にマリの位置を知ることができ、安堵する。しかしそれも束の間の事で既に走り始めていた。


 マリの家はバザー街からさらに奥に行った場所でそれなりの距離がある。それでも急いで走って行った。

2018/03/24 本文、改稿。

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