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5 この世界のルール

2018/03/24 本文、改稿。

 寝るには不適すぎる地面の上で何度も寝返りをうつ。

 枕がない、タオルケットも無いと散々愚痴を言ったが何も変化はなかった。それでも時々やってくるリアナと喋っている時、それを忘れることが出来た。


「コロンさーん!またまたやって来ましたよぉー!」

「そろそろ静かに来てくれよ。周りの目が痛い。」

「そうですかね。じゃあ気をつけます。」


体を起こしリアナへ言葉を返す。

来るたび来るたび大声で名前を呼んでくるリアナだったが、その度に周りのけが人が睨みを利かせてくる。


「で、あったか。MP回復アイテム。」

「ありました!結構安かったですよ。量が少なかったからですけどね。」

「そうか!なら良かった。高かったらと思ってひやひやしてたぜ。」


 リアナがおもむろに鞄から取り出したガラス瓶には青色の液体が入っていた。ガラス瓶は手に収まる程度の大きさで、液体の量もそれに従って少ない。


「これってどれくらい回復するか聞いたか?」

「えっとお店の人が『MP400』って言ってたので多分四百くらいは回復すると思います。」

「そうか。飲んでもいいか?」

「えぇもちろんですよ!そういう話でしたからね。」


 リアナが持っていたガラス瓶を手渡そうとコロンの手へ近付けた時、ガラス瓶を落としてしまった。

 その時、コロンは『何か』を感じた。


「あっごめんなさい。」


 リアナが拾い上げ、もう一度渡そうとするがまた落下する。

 その時にも、コロンは『何か』を感じた。


「す、すいません。」


 もう一度拾い上げ、渡そうとするがコロンがそれを止めさせた。


「待って。リアナはしっかりガラス瓶を持っててくれ。」

「は、はい。分かりました。」


 神妙な面持ちでガラス瓶を睨みつけるリアナ。その右手はしっかりとガラス瓶の上部をしっかりと握っている。

 そのガラス瓶の下部へ触れようとコロンの右手が伸びる。


しかし、その右手はガラス瓶に触れることは出来なかった。


「コロンさん…?」


 その右手とガラス瓶はまるで同じ極の磁石のようで、お互いがお互いに反発する。


「リアナ、NPCってのは回復アイテムに触れないのか?」

「そんな事はないと思うんですけどねぇ。」


 考えようと自分の世界へ入ろうとするリアナを引き戻す。


「あのさ、一個試してみたいんだが滝飲みって分かるか。」

「え?あれですよね、飲み口に触れないように飲むやつですよね。」

「そう。あれをしてみたい。」

「なるほど。ガラス瓶に触れないなら直接いこうって事ですね。分かりました。手伝いますよ。」

「ありがとな。じゃあ頼む。」


 口を大きく開き、青い液体が注がれるのを待つ。

 ガラス瓶を持つリアナの腕が視界の端から入ってくる。


「じゃあ注ぎますね。」

「んぁ。」


 気の抜けるような返事とともに液体が注がれる。

 当然それはコロンの口へとはいっていく――はずだった。


「あ、あれ!?」


 そのリアナの驚嘆する声と共に液体そのものが消えていくのである。

 ガラス瓶の注ぎ口から出た青い液体は口へと落下していく。それが口のなかへ入ったとき、それが次々に消えていく。


「コロンさん、無くなっちゃいました。」

「え!?」


 リアナの言葉に目を見開き、彼女の持つガラス瓶を見る。そこには空のガラス瓶があるだけで中の液体はきれいに無くなっていた。


「飲んだ感覚もねぇし。どうなってた?」

「えっと…。」


 その後のリアナの説明で液体が消えてしまうことを知り、コロンも同じように驚いた。


 リアナが考え込み、一つの回答をひねり出した。


「最近なんですけどNPCの人と一緒に戦うクエストがありました。そこでNPCの人の体力が無くなりかけたのでこれとは違うタイプの回復アイテムを使ったんです。」


 右手に持つガラス瓶を眺めながら言葉を続ける。


「でも回復はしませんでした。その時の私が使い方を間違えてるかもしれないので信用できるかは分からないんですけどね。」

「そっか…。」

「でも触れないし、飲めないんだから回復できないのかも知れねぇな。」

「そうなのかも、しれないですね。」


 『ニュートレーションゲーム』ではNPCの回復は可能だった。実際、コロンも回復させた事もある。

しかし現実として回復させることができない。


「ここが違うな…。」

「何がですか?コロンさん。」

「いや、こっちの話なんだ。ごめんな買わせといて。」

「いいんですよ!」


 リアナが『靴、また買いに行きましょうね。』と言い残し、解散した。


 またしばらく暇な時間が続くと思っているとあの赤髪ツインテールの幼女が近づいてきた。


「ボケNPC!調子はどうなの。」

「げっ!何も逃げるとか画策してねぇからな!」

「あんた逃げるって公言してんの分かってんの?」

「あっ…。ま、まぁ逃げることはしねぇよ。寝にくくて体が痛むけどな。」

「それは仕方のないことよ。ちゃんとHPとMPが回復してればそれでいいの。」

「そ、そうか。」


 腕を組み、片足に体重をかける立ち方は――まるで。


「お前、ヤンキーだな。ロリヤンキー。」

「は、はぁ!?あんた回復してもらって何言ってんの!?」


 耳が痛くなるくらい高い声でどなり上げるロリヤンキー。

 しかし、さっきの言葉に反応した。


「お、お前、さっき何て…。」

「何よ。気色悪い。」

「お前が俺を回復させた、んだよな。」


 気になったのはNPCであるコロンを回復させたというところである。

 回復アイテムの使用が不可能である今、どうやって回復させたと言うのか。


「そうよ。私があなたを回復させた。まぁMPを回復させただけだけどね。」

「ど、どうやって回復させたんだ!」


 コロンが起き上がり少女の両肩をつかむ。その様子に少女が疑うような顔を向ける。


「あなた、治癒士の情報を流すスパイとかじゃないでしょうね。」

「スパイ?」


 突然スパイという単語の登場にふ抜けた返事をしてしまった。それを見て少女は安堵した様子を見せた。


「そんな様子じゃスパイなんて出来っこないわね。」

「あ、あぁ。俺はスパイじゃないし、頼む教えてくれ。」


 コロンの少女を掴む手の力が強くなり、次第に顔が険しくなる。


「痛いから放しなさい!」


 少女が体を小さく動かしてコロンの手から逃げ出す。そしてまたあの杖の攻撃を繰り出した。


「ぐはぁ!」

「当然の報いよ。あんたは話を聞きたいの、聞きたくないの!?」


 ぷんすか怒りながら腕を再び組みなおす。


「聞きたい!聞かせてくれ。頼む。」

「ハッ。いい光景ね。じゃあ教えてあげるわ。」


 鼻を鳴らし、相変わらず上から目線の少女をコロンは拝むようにしてしながら顔色を窺う。


「お、ありがとな!えっと…?」

「あぁ、そういえば言わなかったわね。アイネ・リーゼよ。」

「そうか。アイネ、よろしくな。」

「まぁいいのよ。で、話を戻すけど。」

「そうだったな。すまねぇ。頼む。」


 顔つきが真剣なものに変わり、あたりの空気感も少し変わる。


「基本的にNPCは回復できない。それは知ってる?」

「あぁ、それはさっき体験したから分かるぜ。」

「でもそれは基本的に、であって回復できないわけではないの。」

「なるほど。」

「で、その回復させる手段っていうのが『スキル』よ。」

「『スキル』、か。」

「そう。それを使うとNPCを回復させることができるのよ。」

「それって常識なのか?」

「治癒士なら知ってるでしょうね。そういうクエストも発生してるし。」

「そうか…。」


 神妙な面持ちになる二人だったが、アイネが口を開きかき消した。


「そういえばあんた、MP回復してるわね。もう十分よ。」

「え?」

「さっき私に触ったでしょ。それで分かったのよ。」

「そうか。道理で体が楽になったわけだ。」

「ただ、あんたのMPの数値を知ってるわけじゃないから使うスキルには気をつけなさい。」

「知らねぇのか。え、でもどうして回復したとかわかったんだ。」


 回復したと言っていたがそれは数値を知っていなければ言えないはず。


「矛盾してねぇか。おまえ、ヤブ治癒士とか言わねぇだろな。あ、それとも黒球の手先か!?」


 一気に戦闘状態へシフトしていくコロンを見て少女があきれた様子を見せた。


「黒球なんてもんは知らないけど、あんた盛大に誤解してるわ。私たち治癒士は数値こそ分からないけど『割合』は分かるのよ。」

「は?割合?」

「そうよ。今持っているHP、MPは最大値の何パーセントなのか。それは分かるのよ。」

「そうだったのか。」

「ちなみに今あんたのMPは全体の九十パーセントぐらいね。良かったじゃない。」


 治癒士の能力を教えてもらい、ヤブ治癒士という可能性は消滅した。


「じゃあ今度リアナが来たとき、遊びに行ってもいいのか?」

「もう今すぐにでも行ってもらって構わないわ。」

「そうか。じゃあマリさんって知ってるか?」

「マリ…。そんな名前も聞いたわね。私の担当エリアには居ないんじゃないかしら。」

「そうか。まぁ探してみるか。ありがとな。アイネ」

「フン。好きにしなさい。」


 そっぽを向きながらも少し頬が赤くなっているのが見えた。おそらく根は素直なんだろうと思う。


「やっぱロリだな。」

「は、はぁ!?人が素直になってる時に言う言葉じゃないでしょ!」

「ごめんごめん。」


 やっぱりおちょくった時の反応が少女には似合う。


「じゃあ行くよ。ほんとにありがとな。」

「えぇ。」


 別れを告げ、その場を後にするコロン。行先はマリさんのところ。

 一歩一歩進んでいくその背中には少女の視線を感じる。少しさびしくなるな、と思いながらも進む。


「――ありがとな。」


 少女に聞こえるはずもない。小さな声を残して去った。

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