第一章幕間 王都へ向かう馬車
久しぶりの馬車に揺られ草原の中を駆け抜けていく。
そこでクエモによるこの世界の常識についての講義を受けた。
「私も最初は君と同じように何も知らなかったからね。王都に着くまではしっかりと勉強しようか。」
「そうですね。お願いします。」
コロンの正面に座るクエモが腕を組み、いかにもな雰囲気を出し始めた。
「まず、この王国における通貨だ。金貨、銀貨、銅貨があるのは知っているかい?」
「それは知ってますね。でも金貨一枚で銀貨何枚になるとか、は分からないんです。」
「ここは本位通貨制度を採用している。日本みたいな紙切れで千円の価値があるみたいな感じじゃなくて、千円ならその分の金を含んでる、みたいな感じかな。」
「あーなるほど。じゃあほんとにお金って感じなんですね。」
「ははは!良い表現じゃないか!それでね、それぞれ十枚で次のグレードの通貨に換金できるんだ。」
「じゃあ金貨一枚で銅貨百枚なんですか?」
「そうだよ。それにあまり流通していないけど聖金貨というものもある。金貨というよりは青白く光ってるけどね。」
「へぇ。通貨の価値ってどんな感じなんですか?」
「そうだね。銅貨で百円、銀貨で千円、金貨で一万円と思っておくといいかな?」
「じゃあこの靴…。五万もすんのかよ。」
「いやいや、その靴の性能と比べればかなり安いよ。どこで買ったんだい?」
「スコットの店で…。」
「ははは!スコットの店と言えば高い事で有名じゃないかい?嘘はいけないなぁ。」
「ほ、ほんとなんですよ!?」
「へぇ。珍しいこともあるものだね。スコットに感謝しておかなければいけないな。」
「そうですね。」
その後もこんな調子で会話を続け、この世界における常識を学んだ。
まず、この世界は一つの大きな大陸で構成されている。
そこに三つの王国が存在し、それぞれに天使の加護が与えられている。それは大昔にあった聖魔大戦で三体の天使がぶつかり合った結果そうなったらしい。
そして地図上では一番東に存在するのがコロンたちも居る『ボラリア王国』、そして西と大陸中央から北に行ったところにも国があるそうだ。
さらにこの世界には大きく日本と違うところもある。
それは奴隷制度があるという事だ。
ゲーム内では一切なかったこのシステムが存在していることはクエモを混乱させたらしい。
さらに強力かつ、巨大なネットワークを構成しており敵対すれば命がないそうだ。
「そうだコロン。一つ忠告しておきたい事がある。」
「なんですか?」
「それはね。この世界は冒険者が居なくても十分回るようにできているんだよ。」
「というと?どういう事なんですかね。」
「今は冒険者によって商売が非常に活発になっているだろう?たとえそれが無くなったとしても何も変化は無い。」
「すいません。ちょっと分からなくて。」
「うーんとね。簡単に言うと僕たちNPCは所詮歯車、この世界をまわす歯車なんだよ。そしてその歯車には替えが沢山ある。」
「はい…?」
「元プレイヤーのNPCだからって特別扱いしてくれるはずがない。という事だね。――それで僕は一人、同じ境遇の人を失った。」
クエモの突然の告白、しかしそれはコロンにも大きな関係がある。
さらには元プレイヤーNPCの死。
「そうなんですか。」
「ごめんね。急に湿っぽくしてしまって。君には生きていてほしいんだ。」
「はい。頑張ります…。」
この湿っぽい馬車の雰囲気を一新するため、クエモが一度大きく手を叩いた。
乾いた音が雰囲気を変える。
「さぁそろそろ王都に着く。準備をしたまえよ。」
「分かりました!」
馬車の窓から王都と思われる街が見える。
高い壁の向こうには大きな城。これぞ王都。
「――すっげぇ。シンデレラ城みたい。」
「ははは!そうだね!シンデレラ城!君は良い表現をする。面白いね!君は。」
「いやぁ…」
つぶやきをクエモに聞かれ、非常に恥ずかしいコロン。頭の後ろをかきながら耳の端を赤くする。
「さ、そこにも私たちと同じ人がいる。何か掴んでくれたまえ。」
「はい!」
始まりの街『グラープ』から新たな場所『ボラリア王国、王都』へ。
コロンは気持ちの高鳴りを抑えながら、深く息を吸った。




