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プロローグ 寝落ちしたら強制ログアウト…ですよね?


(いわ)く三体の神は、世界を創造し、世界を律する存在である。


曰く三体の神は、三つの国を作り、守護する存在である。


曰く三体の神は――



――――――――――――――――――――――



情報技術は日々進歩を続けその中でも全没入型ハードウェアが大きく成長した。その中で世紀の大発明とまで言われた新型情報端末『シード』が誕生した。


新型情報端末は意識を『シード』の支配下に置くことでまるで電脳世界に居るかのような体験ができ、その中で提供されている『ニュートレーションゲーム』という全没入型ゲームが爆発的人気を誇っていた。

その開発は苦難を強いられメインストーリーを構成するだけでも三年もかかり実装されるまで五年もの月日を要した。


しかし、全没入型のゲームの開発が一つだけという訳がなく、『ニュートレーションゲーム』が登場して二年後新たなゲーム『ロスト・プログラム』が登場しユーザーが激減する結果となった。当然そこから運営が難しくなり更新が停止されついに一年と五か月も経ってしまった。



――――――――――――――――――――――



「はぁ…。疲れた。」


膝に手をつき肩を揺らしながらできるだけ多くの空気を取り込む。風に揺れる草原を見ながら呼吸を整え直感操作のメニューを開く。体力のパロメーターや自分の状態、アイテム欄や使用可能なスキルなどが表示されている中、右下に表示される時刻に目をやる。


「これで百時間連続ログイン…。長かった。」


デジタルの時計が時を刻んでいく。それはログインしてからの時間を示しており、99:59:52と表示していた。


「はちぃ…。ななぁ…。ろくぅ…。ごぉ…。」


ログイン百時間までのカウントダウンを始める。しかしそれと同時に抑えきれない眠気も襲ってくる。


「よん…。………。さん…。」


――寝るな、俺。寝たら強制ログアウトだ。寝るな!寝るな!

『ニュートレーション』では睡眠を禁止しており、感知した場合強制的にログアウトされる。これは全没入型ゲームがユーザーを人間的に潰してしまわないための措置である。


「にぃ…。」


――無理。

言葉に出す前に体が前へ倒れていく。膝から落ち、身に着けている鎧が音を立て、右手に持っている武器を落とす。


「いちぃ…。」


――はい。無理です。いや、無理。うん。はい。倒れまーす。


「ぜ…ぉ…。」


――また百時間かぁ…。



小さな呟きを残しながら無駄に広い草原で全身真っ黒な鎧の剣士が倒れた。


そして睡眠による強制ログアウトが実行される。


全身のドットが荒くなり色が抜けていく。


意識もそれと同時に『シード』から解放され布団の柔らかさを感じる。


そのまま眠りに落ちた。



――――――――――――――――――――――



「はぁ…。まじか…。後一秒…。」


いびきをかいていたせいか喉の痛みを感じながらもあくび交じりに呟き、目をこする。


「あ…!痛っ。」


こすりすぎてまぶたの裏か眼球かどちらか分からないがひどい痛みを感じた。


「そこで名言。目がぁ!目がぁ!!」


一人でそんな戯言(ざれごと)を言いながら手を目で抑えつつ体を起こし制服を掛けている方へ目線をやる。

あの痛みのせいでピントが合わない。

何度か瞬きをしてピントを合わせようとする。



――――――――――――――――――――――



ピントが合う。緑が見える。青が見える。風が吹いている。


「は?」


起こした上半身から下を見下ろすと草。


「草生えた。」


自分の足元といい、見渡す限り草。草。草。


「大草原じゃねぇぇかぁぁぁぁぁ!!!!」


そう叫びながら立ち上がり上を見上げる。

そこには真っ青な空。限りなく続くような空。その空へ魂が吸い込まれる様な錯覚を覚える。

今、自分が居る場所がどういう場所なのかは分かった。――しかし。


「なんで。」


そう静かに呟いた。辺りを見渡す。

何度も、何度も、何度もぐるぐる回りながら脳も回転させる。


「ここ、どこよ。俺どこ行ったんよ。」


高校一年というなけなしの脳みそで思考を走らせる。

昔から想像する時や深く考え事をする時は目から送られてくる信号が九割カットされるという謎の癖がある。――つまり目の前の光景が見えていない。


「確か俺は百時間ログインで…、うん。寝て強制ログア…」


ぼそぼそと呟きながら思考の海へ沈んでいく。

しかし、底なしの海から一気に現実へ引き戻された。


『ギャァァァァァァ!!!!』


自分の二倍くらいの大きさもある黒いざらざらした皮膚を持つトカゲが自分の顔の前で口を大きく開いている。高くもあり、低くもある鳴き声を浴びせられると同時に顔に唾もかかった。


「ギャァァァァァァ!!!!」


その鳴き声を聞いた瞬間、脊髄が反応した。

体を一八〇度回転させ己の脚に力を込め踏み込む。

火事場の馬鹿力というやつだろうか。ここで発揮された。


全速力で走る。

――あれは俺を食う。やべぇ!!


自分の後ろでは大きいトカゲ――デカトカゲが走り出す。

――これで仲良く大草原で鬼ごっこだ!


「うおぉぉぉ!!!」


叫びながら進む。



走り始めてから二〇分。

依然、命を懸けた鬼ごっこは続いている。

ただ一つ、走っている中で気づいた事が分かった。


「村に…。はぁ…。村に!むらぁぁぁぁぁ!」


自分の進行方向に存在する村に向かって走る。寝起きで、しかも裸足で走らされるこの現実に苛立つ。


「はぁ…。はぁぁっっ!!」


大草原といっても草があるのだから当然土がある。そして土には砂利も混ざっている。その砂利に足の裏を傷つけられながら進んでいくが――ついに。


「あ。」

――コケた。


「あぁ!くそ。うわ。うわぁぁ!!」


――何もない大草原でコケる俺、超かっこわりぃ。

そう思いながら盛大に頭から転びデカトカゲの方を見やる。

そこには当然デカトカゲがいる。口を大きく開き今にも自分が捕食されると本能が悟った。


「あ…あぁ…。」


なんとか声になっているような掠れた声が出る。自分が生まれてから幼稚園へ、小学校へ、中学校へ、高校へ。

――これが走馬灯というやつか。


ゆっくりと口を近づけてくる。長く赤い舌が自分の頬と舐め、生暖かい息が顔にかかる。

――クッサ。


せめて最期の皮肉をぶちまけてやろうしたが声が出なかった。

――喰われるなぁ。うっすい人生だったなぁ…。



――――――――――――――――――――――



そう思った刹那、周辺の温度が一気に上昇した。異常なまでの気温上昇。

額からは汗が吹き出し垂れるほど。鬼ごっこからの簡易サウナ状態でのどの渇きが限界を迎える。


「おわぁぁ!!」


暑さに耐えきれなくなったと同時にデカトカゲが目の前から消えた。否、吹っ飛んだ。


ゆっくりとその一瞬の出来事を脳内リプレイする。


――赤い炎が自分の右から視野に入ってくる。それがデカトカゲに当たり腹の肉が波打つ。そして鳴き声を上げる間も無く、炎が飛んでいく方向へデカトカゲも飛んでいく。


「大丈夫?」

「え…?」


脳内リプレイはその声によって中断され声が聞こえた方向へ顔を向ける。


―――そこにはすらっとした体格、それに似合わないような大きめの黒ローブ、そこから華奢な少女の腕が伸びていた。


「大丈夫よね?」

「あ、うん。もちろん。」

「よかった。」

「いや…。」

「え!ケガしちゃったの?ごめん!」

「…。」


その少女に話しかけられ目を合わせたとき、風にたなびく金髪が。彼女の碧眼が美しく感じた。


「あ!ごめん。ありがとうございます?」

「どうして疑問形になるの?」

「え、いや。こんがらがってて…。」

「でもここは危ないから取り合えず街に行きましょ?」

「そ、そうっすね。」


自分の手を彼女が取り横に並んで歩きだした。取りあえずは彼女の言う街の方へ。


「ちょっと質問していい?」

「は、はいぃ!――ぁぁ…。」


返事をするときについ声が裏返ってしまい自分で自分に萎えた。

――でもしゃーないじゃねぇか…。下手したら命救ってもらってるし…。何より可愛い。


「どうしてあんなところでデトカに追いかけられてたの?」

「え?デトカ?あのトカゲみたいな奴?」

「そうだよ?で、なんで?」

「いやなんでって…。起きたら大草原で、追いかけられて…。」

「いまいち分からないけどあそこで寝てたの?」

「まぁそういう事になりますよねぇ…。」


答えながら起きてからの出来事を思い出す。永遠に広がる草原に大空、そしてデカトカゲ。


「意味が分からん。」

「それは私のセリフなんだけど…?」

「あーいろいろとごめん。そういや、そろそろ着くね」

「ほんとだね。ほんと不思議な事ばっかり。心配しちゃう。」

「いやー俺も分からんので…。」

「とりあえず私が泊ってる宿があるからそこでお話しましょ?」

「は、はい。わかりました!」


――宿、宿って。美少女と宿。うぇい。

アテがない事は事実でもあり、彼女から聞きたい情報も山ほどある。そして下心も無いこともない。

そういう訳で少し足を早めて宿屋へ向かった。

2018/03/22 本文、改稿。

2018/03/24 本文、改稿。

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