③ホワイト企業がブラック化した話
「話がある…君たちの誰かに辞めてもらわなければいけない」
重々しい酸素が薄くなりそうな言葉を、仏頂面で豪奢なスーツを着た
男が言った。
「どういうことですか?売上目標は達成しているじゃないですか!?」
ドラマみたいに若手の男が会議机を思いっきり叩く。
「えーと、それはだな。売れるはずだったコピー機が売れなくなって
銀行からの借り入れ額が相当な危険域にまで入って経費で会社が
潰れそうになった。」
「そんな...!!!!俺がこの歳で再就職先を探せってか?冗談じゃねぇ」
重い空気をしぶしぶ読んだ事務の人が淹れた今の空気と似つかわしい
茶を強引に租借しながら文句を同僚の中年男性が言った。
彼には家族がいたのだ。
田舎という再就職が難しい魔境のような状態で突如、放り出されよう
ものなら考えたくもないおぞましい結末が容易に予想できた。
若手の男が会社がブラック化した原因を思い出す
「一体なぜ、ここまでやばいことになったのか」
思い当たる節はいろいろあった。
具体的な例をあげるとするならば
・定時退社定時帰宅が当たり前だったのが、事務用品の売上が悪くなるにつれて
会議という名目でまとまりのない説教空間が突如、地獄からの使者のように
現出して時間を毎日30分強引に貪られていた。
・直属の上司の頭が悪い。営業会社であるにも関わらずパソコンを使っての
売上管理も出来ない、部下にパワハラまがいの行為を平然と行う
・売上目標に関して
社長や直属の上司が未達成状態が何ヶ月も続いた。
大口の物件が突如取られてしまった。
・社内の調整役が病気で入院してしまった。
・リース情報などの重要な情報がほとんど紙媒体で管理されていた。
分かるだけでも相当に危険なものであった。
「さて、どうするか。」
思案をめぐらせながら男はポーカーフェイスで会議に戻った…