アケノの悪友
オフィス・フレンド
「お早う、アケノん」
「お、おはよ。頭に何か湧いた? 何その呼び方……」
「ふ……お前がそう言ってられるのも今の内だ! 喜べ! 今日の席はお前の正面だぞ。嬉しいだろ?」
「マジで~? 最悪なんだけど……昨日の癒しを返せ」
「ふふふ……アケノんよ。貴様がキーボを打ち込んでいる間に俺は、10連ガチャを5回、回せるぜ!」
「この課金厨が! アホなの、あんた……」
「ま、それは冗談だ。ここはオフィスだよ? 流せよ、俺のジョークをよ」
と、まぁ……私が仕事しているオフィスはフリーアドレス制ということもあって、席が日替わりになっている。嫌な人もいれば、こういうアホな男が近くに来ることもあって大変だ。
「おい、聞こえてんぞ? 俺はアホじゃねえよ。俺にはちゃんと、光令という凛々しい名前があるんだよ! どうよ? 惚れるだろ?」
「……はいはい」
職場にはこうしたアホで腐れ縁で、勤続年数が同じというだけのタダのお友達がいる。プライベートでは一切、会ったことが無いのに何故かオフィスの中にいて絡んで来る変な男が光令だった。
外で会うとしたら気が向いて参加する会社の飲み会くらいであって、オフの時にまで会いたいとは思わないほど、いい意味でウザい奴。
「アケノってまだ彼氏いねえの?」
「おい、こら。お前も彼女いないだろ? まだとか言うな」
「俺はこう見えてモテるんだぜ? パーティじゃ支援職と言ってな、欠かせないジョブなんだぜ?」
「架空じゃん。リアルではおモテになるんですか? どうなんですかね?」
「この野郎!」
「私、女です」
さすがに入社から5年以上も同じ部署、同じことをして席もそれなりに近くにいると友達の様な感じで話すわけで。だからといって、奴にそういう感情を持つような感じにはなったことがない。
「アケノは結婚したい派? それとも単に彼氏がいればいい派? ファイナルアンサー?」
「どうだろうね……今は彼氏が欲しい派」
「へーほー? オススメしたい奴がいるぜ?」
「一応聞くけどダレ?」
「お前の目の前にいる奴だ!」
「部長はちょっと年配すぎるから無理かな……」
「おい、テメエ……」
「私は女性です」
「テメエってのは女にも有効だ! 残念だったな……ふははは!」
「……」
「おーい? アケノさん?」
さっきから奴の後ろに本当に部長が立っているので、私は真面目に仕事をすることにした。
「あっ……」
残念な男だなぁ。憎めないし友達みたいな付き合いだけど、だからどうしたの? って感じなんだよね。