1人目のカレシ。1日目
一人目のカレシ 一日目
わたしにはもうすぐ彼氏が出来る。と言っても、本物じゃない。わたしは巷で話題になっていたサービスを最初こそ見下したようにして流していたけれど、独身で彼氏なし歴を無駄に長くしすぎたせいか寂しすぎてとうとう手を……いや、お金を出してしまったのだ。
スマホやタブレットを使って、手が勝手に動いてしまった……ええ、手はタイプの男の子をタップしましたよ。部屋で一人寂しく過ごすのは飽きたんだもの。しょうがないことだよ、うん……
「では、ご契約内容をよくお読みになられてからサインと、契約金をお納めくださいませ」
「は、はい」
いざとなると、サインする手がプルプルと震え出し、封筒に入れたお金を渡す心の覚悟も消えてしまいそうになるほど消極的に。わたしの心は、「いいの? 本当に?」なんて言葉を自分に何度も問いかけている。
アケノ……年下彼氏とレンタル契約を締結します……
「アケノ様。確かにお預かりいたしました。では、明日……同じ時間にここへおいでください。彼との対面です」
「わ、分かりました」
ああ、お金も払ったし、私にもとうとう彼氏が……! いや、偽物だからね? 勘違いするなよわたし。それに分厚い契約書の中身を見る限りじゃ、世間一般並の彼氏とするような行動やら接し方なんかはほぼ出来ないみたいだし、本当にただの話し相手かお買い物に付き合う程度の彼氏だと思う。それなのに中々に手痛い出費だった。詳しくは言えないけど。
あー明日が待ち遠しい! なんにしても、退屈だった日々にエセカレでも何でも、彼氏という名目の男と会えるんだ!
「お待ちしておりましたアケノ様。では、こちらにおかけになってお待ちください」
ドキドキ……年下でイケメンで守ってくれそうな~何て彼ともうすぐ会える!
※
金のイイバイトを探していた俺が見つけたのは、性的接触の一切を禁じたサービス。その名もエセカレ。要はビデオとかじゃなくて、生身の人間を貸し出すサービスってことだろ。前にテレビか何かで見たことがある。まさか自分がこれをやるとはね。まぁ、これで小遣い稼ぎ出来るならちょろいもんだぜ。
契約書は読むのが面倒だったが、男にとっては何の害も無い最高の条件だった。俺のウリは何と言っても、イケメン。自慢だけど、モテなかった時期は学生時から無かった。でも彼女は出来なかったけど。まぁ、性格はアレだ。そう、アレなんだ。
仕事であればそういう感情を抜きにして、性格も相手の理想に合わせるしイケメンならではの魅せ方も披露する。なんたって食事代はおろか、デートにかかる費用は女性のみだ。何て最高のバイトなんだ! 交通費も気にしなくていいなんて夢の様じゃないか。
今ももちろん彼女とか好きな奴とかは皆無。気ままに役者目指してバイトの日々を送ってる。まさに俺にとっては役者修行にもなるし、適性バツグンだ。まぁ、仮にもの凄い可愛い人が来ても好きにならないだろうし、なってもいけない。手を繋ぐまではいいらしいがキスはNG。
そう俺は思っていた――
※
「お待たせしました、では彼がアケノさんの彼氏です」
「は、初めましてアケノです」
「こんにちは、リュウです。今日からよろしく、アケノ」
ん? どこかで見たことある美人だな……と言うか、アケノ? ま、まさかいとこの、アケノなのか!? しかも俺には全く気付いていない? おいおい、アケノ……マジかよ。何で気付かないかな。
「アケノ、俺でいい、かな?」
「ええ、もちろん!」
年下でイケメン。しかもすでに気を遣ってくれる人だなんて、この人で正解ね。しかも年下に呼び捨てとか、何かゾクゾクする。
まずは彼と恋人らしく手を繋いで、それから、カフェとか映画館とかに行こうかな。エセカレでも何でも、好きになれたらいいな――
アケノ……マジかよ。俺と気付いたらどうするつもりなんだよ。どうもしないだろうけどいとこってなんか、微妙すぎる間柄だよな。例えバレても、好きになっても上手くいってもいい、んだよな?