Part.5 少女の成長
※一人称視点が混じります。
わたしは夢の中でも泣いているみたい。
そこは深い緑に囲われていて、わたし以外は誰もいない、と思う。
しとしと、しとしと、この頬を滑る水滴は雨か、それとも涙かな。
上を見上げても、やっぱり深い緑しか見えない、期待してはいけない。
遠くを見ようとしても、心と同じで、出口なんて見えない。
どうすればいいのだろう。
こんな何もない場所で、こんなにも無力な、無知なわたしで。
あの時は誰が助けてくれたんだっけ。
あの時みたいに助け出して、
こんなにも苦しいのは嫌だよ。
傍にいて…抱きしめて……、
他の全部、全部………全部いらないから!
『もう大丈夫だよ。君はオレが護るからね。だから、もう大丈夫なんだ』
貴方の声が聞きたい。
大丈夫だよって、護るからって言ったじゃない。
ずっと傍に居てくれるって思ってたのに!
だけど、あの人はわたしから離れたいって言った。
お父さんやお母さんから怒られた時も、いっぱい言葉で抱きしめてくれた。
あの人からのお願いで、お爺ちゃんに話しを聞いて、いつしかわたしまで夢中になっていった。
隣の家のお姉さんが結婚した時、寂しいって思ったけど、羨ましいって、そう思ったんだ。
『きっと、アイちゃんにも素敵な人が現れるよ』
その言葉を聞いた後は無性に腹が立って、ちょっと気分が落ち込んだ。
そういえば、お母さんがいつだったか教えてくれたっけ。
特別に想える人には心が敏感になるんだって。
いつしかそういう人に出逢ったら、独りで悩まずに相談においでって。
うん、相談してみよう。
あの人だって、困ったら相談するのが一番って言ってたもん。
そうと決まったら起きなきゃ!
彼女が動き出そうと決めた時、周りの深い緑が少しだけ明るい色になった気がした。
空の明かりが届いたかのように、きらきらと光る粒子が彼女を包み込んでその姿を薄れさせる。
この《世界》から彼女が消え去った後には使い古されたクマのぬいぐるみが置かれていた。
もう誰かの頬を濡らす涙は零れていない。