Part.2 対話
冒険者達に保護されて宿屋まで戻ってきたアイは両親や祖父に心配され、落ち着いたのを見計らって説教をされたことで、気を落としながら自室へと戻っていった。
少しして気持ちを落ち着けたところで男性から声が掛かった。
『アイちゃん、お父さんやお母さん達に心配かけちゃったけど無事に戻ってこれて良かったね』
「うん、お兄ちゃんありがとう」
自室のベットの上で枕を抱きしめながら座り直し、目の前に大好きなクマのぬいぐるみを置いて話し出す。
男性から『気にしないでいいよ』と返答があったまま、少しの間が空いた。
「………だって、話しにくいんだもん」
口を尖らせて頬を膨らませる姿に、男性は微笑ましさを含んだ声色で話す。
『何も言っていないよ、その仕草が可愛いなって思っていたんだよ』
「むぅ…なんだか面白くない」
『ははは、それじゃまた面白い異世界の魔法について話しを…』
「だからそれは訳が分からないんだってば!」
言うが早いかクマのぬいぐるみの頭上をぼふんと小さな手が叩く。
彼にとってはそんな姿も愛らしいのだが、そこを伝えればまた怒り出すかと思い言葉にするのを諦める。
これから彼はアイが冒険者達に保護され移動している間に考えたことを、早く伝えて置かなくてはと決めていたのだ。
『ねえ、アイちゃん少しお話しをしようか』
「いまもお話し、してるよ?」
『ははは、そうだったね。
お話ししたいというのは、これからアイちゃんとオレと、どうしていくか。
そのお話しをしていきたいんだ』
これまでのふんわりとした雰囲気から変わって真面目な声色になったのを感じてアイはごくり、と喉を鳴らす。
『まずオレのことをご両親やお爺さん、他の皆にも話して欲しくないんだ』
言葉にしてはいないが少女の表情と仕草は理由が分からないと表していた。
それについて男性からは、
1つ、信じて貰えず、アイの立場が微妙なものになるかもしれないこと。
2つ、信じて貰えたとして、男性と魂を切り離す方法が分からないこと。それを受け、両親と祖父に大きな心配を与えてしまうこと。
3つ、近いうちに神様と再会して周りに迷惑を掛けないで済む手段を探したいので、異世界の魔法が使えることも含め、お互いが必要以上に干渉するのを避けていきたいと考えていること。
なるべく難しい言葉を使わず話したつもりだったが、やはり10歳の少女には理解できる事柄が難しく、両親や祖父を心配させたくないよね、という言葉に強く反応し、同意することとなった。
こうして2人は奇妙な関係を持ったまま3年間の年月を過ごすことになった。
その間にアイの祖父が元冒険者であることを知り、男性がアイに頼み込んで祖父に話しをして貰い、聞くことが多くなってきた。
どこそこの料理は美味しかったこと。
あそこの景色は生涯忘れることはないと感動したこと。
魔物に襲われて命からがら逃げた後で、仲間内で生き残ったことを喜び合ったこと。
そして、仲間が冒険の中で亡くなってしまったこと。
それをきっかけに恋人関係にあった仲間と引退を決め、いまは亡き祖母と2人でこの小さな町で宿屋を始めたこと。
息子ができ、息子の伴侶を迎え、孫ができた時などは昔に戻って仲間を呼び、大いに騒ぎ合ったこと。
楽しかったこと、感動したこと、馬鹿になって騒いだこと。
それからも悲しいことや、生涯の伴侶を得た喜びを聞いているうちに、少女自身も冒険者という生き方に憧れるようになる。
そうして過ごすうちに、男性が求めていた存在から接触があった。
善神ゼフィリアからだった。