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Part.14 男の過去(2)


少年として生きることに決めてから、この《世界》のことを調べ始めた。


まず分かったのは記憶にあるような平和な世界ではないということ。


それから記憶の中にあるような貴族達が存在していること。


また人間性というべきか、感情的になると話し合うというより手が出る人の方が多かった。


勝者は敗者のものを奪い、敗者は自分より弱い者から奪い取る。


弱い者は性別、年齢関係なく搾取され続け、死ぬしかなかった。


更には魔物という生物がおり、ごくまれに天使を想像させる羽根を持つ神様の使いが国の中枢に現れて人間達にどうするべきかという指示をしていくというのだ。


そんな《世界》の中で、少年は必死に生きる術を探していった。


最初は街の外に出て近くの森の恵みを食べて凌いでいたが、それに勘づいた大人が少年の後をつけて狩場を奪った。


次に裕福そうな人間の靴を磨くことをして小銭を稼いでいたが、これも同じ世代らしきガキ大将達と喧嘩に負けて取られてしまった。


他にもアイディアを出しては取られ、良いように扱われるだけの存在になっており、既に生きる気力を失っていた。


夕焼けに染まりだした頃、ジロウは最初に降り立った朽ちた教会に足を運んでいた。


別にあの時の少女に用があるわけでもなく、死ぬ前にもう一度あの景色を眺めたいと思っていたのだ。


そうして歩いていると、ジロウより幼い少年がガキ大将とその取り巻き達に殴られているのを見つけた。


いままでなら弱肉強食だと見捨てていただろう。


しかしジロウはもう死にたかった。


だから最後の善行をして天国に行けたらいいな、ぐらいにしか考えずその場に足を運んでいった。


「おい、オレらが言った通りに靴磨けよ!あの貴族から出入り禁止を食らっただろうがっ!」

『『『そうだ、そうだ!』』』

「いたい…ごめんなさい、ごめんなさい…たすけて……」

「どんくせえお前のせいで!明日からのおまんま食い上げじゃねえか、死ねよ!死んで詫びろ!」

『『『そうだ、そうだ!』』』


どうやらジロウから奪った稼ぎ場を追い出されたようだった。


それも幼い少年を使って搾取していたんだろう。


どこにでも見られる下らない”世界”だった。


そこにふらりと現れたジロウを見てガキ大将達は一瞬こわ張る。


ジロウの姿は当時会っていた頃より肉付きの良さはなくなり、死んだような目に、髪は伸ばしっぱなし、服はそこらかしこ破れていた。


そんな姿の少年が手にもった角材をからからと音を鳴らし、暗がりから歩いてくるのだ。


ガキ大将達が幽鬼か何かと勘違いをしたのも無理はないだろう。


この《世界》には魔物や幽霊なども実在しているのだ。


幼い少年を独り置き去りにし、他の少年達は我先にと逃げて行った。


それを見てジロウは嗤う。


「ははは、なんだあいつら、普段偉そうなこと言ってる割に根性がねえな」


手に持った角材を捨て、幼い少年に近づき上半身を抱き起す。


「ひどい怪我ばっかりだな…。ごめんな、オレがちゃんと魔法を使えたら治してやれるのに」


幼い少年は首をかすかに横に振って微笑む。


「なんでお前みたいなやつがこんな風になっちまうんだ。神様でも天使様でも何でもいい、治せるのなら治せよ………くそがっ!」


ジロウは段々と弱っていく幼い少年を抱き締めて、神に祈る。


神に祈っても何も起きないのはもう何か月も前から知っている。


それでも祈るのを辞めなかった、命を捨てたい自分とは違い、まだ必死に生きようとしている幼く優しい少年を助けたかった。


やれることは何でもやろう、この子のために。


ただ時間がない、だからやれることは数少ない。


そこで取った行動は、魔法を使う、ということだった。


この《世界》では体内の魔力を使って魔法を引き起こすことができる。


魔力とは何か、どのような現象で魔法が使えるのかは解明されていない。


使える者は使えるし、使えない者は使えない。


上流階級の貴族達が魔法使いから学び、魔法が使えるということだけが周知されていた。


ジロウはたまたま貴族の子供が遊びで魔法を使っているのを見て、真似をして呪文を唱えてみたところ、小さな火を灯す程度の効果がでた。


それに気を良くして、貴族の子供が使う呪文を聞いて覚えては使ってみたものの、水を手のひら一杯、地面を少しだけ盛り上げる、そよ風を吹かせるといったぐらいしかできなかった。


なぜ使えるのは分からないが、使えるのをばれると非常にまずい立場になることは目に見えていたため、これを秘密にし続けていた。


今回は将来なんて関係なく、やりたいことはこの幼い少年を助けることだけ。


それなら魔法を使えることを見られてもいいかと考えての行動だった。


治れ、治れと念じながら魔力を使う感覚を鋭くさせる。


魔力が動く感覚はあるものの一向に治る気配はない。


そこで漠然としたイメージではなく、記憶の中の手当を意識しながら魔力を使ってみた。


少し、また少しと魔力に指向性が持たれ、幼い少年の傷に吸い込まれていくのだった。


これはいけると感じ、今度は明確に傷が塞がるイメージを持って魔力を注ぐと効果が表れ始めた。


完全に治癒が終わるとジロウはその場にパタリと倒れ、幼い少年と共に気を失ってしまった。




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