Part.12 少女の告白、男の後悔
男性はアイから向けられる感情に戸惑う。
これまで彼女から「好き」と言われたことは何度もあった。
家族と喧嘩をしたり、宿の手伝いを始めるも上手くいかず慰めた時、綺麗な景色を眺めていた時、それこそ数え切れないぐらい一緒に居たのだからその度に聞くことがあった。
しかしこれまでと今回では、込められた意味の重さが違うのをはっきりと理解できた。
だからこそ言葉を返せない。
「ジロウがね、わたしを好きって言ってくれる度に嬉しかった。例え意味が違うとしても、一緒に居てくれるならそれで良かったの」
彼女は続ける、少しでも相手に想いが届くようにと。
「だから一緒に居て。
娘みたいに思われてるのも知ってるし、それでもいいから」
恋人になりたいけれど、それが叶わないのも心の底では理解してしまっているから。
きっと期待してる応えは貰えないだろう。
それを理解するだけの時間を共有してきているのだから余計に辛くなる。
彼女に出来るのは、彼にこれまで通りと願うことでしかないのである。
「お願い、お願い…だからぁ」
『アイちゃん……』
喚き泣き腫らすでもなく、さめざめと泣く彼女は小柄な身体を更に小さくさせて震えている。
悲しい思いをさせたくないと願っているのに、彼自身がそうさせてしまっている。
(幸あれ、なんて言葉、オレには言う資格すらなかったんだよな)
優しい少女にただ幸せになって欲しくて様々な助言をし、楽しませ、一緒に過ごしてきたつもりだった。
その結果、自分に好意を持ち、離れがたい存在になってしまった。
依存とでもいうのかな、彼は独り言を呟くように誰にも聞かれることのない息を吐く。
それならばいっそ自分自身が思う気持ちを素直に吐いてしまった方がいい。
幻滅され、これまで築き上げた信頼を壊してしまっても、彼女の心が傷ついたまま残ってしまうよりずっと良い。
いつかは忘れ、素敵な家庭を持つことができるだろう。
オレのことを嫌って、忘れて、幸せになって欲しい。
彼の願いはそのために、己の罪と過去について話すと決めた。
『アイちゃん、その返事をする前にオレの情けない話しを聞いてくれないか』
涙を手で隠していた少女は、そのままの姿勢で頷く。
『ありがとう、ごめんな、こんな情けない…後悔ばかりのオレで………』
彼はこの《世界》に飛ばされる前の異なる《世界》の話しを始める。
自分を慕ってくれていた少女を殺めてしまったことを伝えるために。