Part.9 誕生日と花火
母親との恋愛相談を終えてから数日が過ぎた。
泣き疲れて眠った姿も男性に見られて居ることに気付き落ち込んだこともあったが、慰められて励まされたりするのはとても心地が良かった。
それにあと数日も過ぎれば、アイの誕生日となる。
去年も一昨年もとても楽しい思い出を作っていたことで、今年も良い思い出を作ろうと意気込んでいた。
父親と母親が豪勢な料理を計画していること、祖父が冒険者達に頼んで何かを準備していること。
また男性がこれまで見たことのない綺麗な理術を放ち、町の夜空に華を咲かせてくれるのが楽しみだった。
花火と命名した理術は様々な精霊の手を借りて行われるため、事前の準備がすごく大変なのだと言っていた。
また夜空に花火を咲かせるために、11歳になる年に祖父に頼み込み、かつて冒険者の後輩だった繋がりで町長を説得して貰うのは大変だった。
実施したその日に町長が町の名物になるとはしゃぎ、誰がこの理術を使ったのかと大騒ぎになった。
『気前の良い旅人がお祝いしてくれた』
そんな子供じみた言い訳を通してくれた祖父は町長より偉いのではないだろうかとアイは感じていた。
実際に祖父は以前、町長を担っていた時期がある。
いまの町長は祖父より指導を受け、宿の業務が暇な時期に現れては祖父へ町のことを相談しているのである。
その甲斐もありここ数年は我がままを通して貰っている。
アイとは関係の薄い町の人も、何かの祝い事なのだろうと夜空に咲く花火を楽しむようになっていた。
余談ではあるが、この花火を見たエルフの冒険者が異常に騒ぎ、
「ニホンのハナビだと?それにこのような理術は見たことがない!」
と、言いながら「タマヤー!カギヤー!」と合わせて叫んでいた。
そして、待ちに待った誕生日が訪れた。
両親や祖父だけでなく、宿泊してる冒険者達と隣のお姉さん夫婦、他にも近隣の住人が集まって宿屋の1階は賑わっていた。
そこへいつもより可愛いらしい服をまとったアイが現れると、
『『『アイちゃん、14歳の誕生日おめでとう!』』』
クラッカーが鳴らされ、目の前に大きなケーキが運ばれる。
大人が一抱えするぐらい大きく、生クリームでデコレートされており、この時期に採れる果物をふんだんに載せたものである。
彩に縁取られた中央にはチョコレートでアイの名前と”おめでとう”の文字が掛かれ、14本のロウソクが綺麗に立てられていた。
「皆さん、ありがとう!」
とても嬉しそうに笑うアイへ集まっていた人達が笑顔で拍手を送る。
拍手が落ち着いたのを見て、父親の掛け声で思い思いにプレゼントやお祝いの言葉を贈り、各々が持ち寄った料理を食べ始めた。
交流をしている中で花火の準備ができたことを男性からの合図で知る。
「お父さん、もうそろそろ花火が上がる頃だと思うの」
「今年もかい、本当は挨拶をしておきたいのだけれど…」
「あの人は恥ずかしがり屋だから…ごめんなさい」
娘が悲しい顔を見せると、慌てて「そのうち紹介してね」と付け足す。
「うん、絶対に紹介する!」
「よし!そうと決まれば早く皆に伝えなくてはね。酔いつぶれてしまう者もいるだろうから」
片目を閉じて了承の意を伝えると、娘はまた天使のような笑顔を見せてくれた。
父親は手を叩き今年も花火が見れますよと言えば、知っている者達から歓声が沸く。
「キャー!今年も見れるのね、ついてるわ!」
「本当ね、あれはここでしか見れないもの」
「おい、花火ってなんだ?」
「お前知らないのかよ、いまこの町じゃこの時期しか見れないってことで、あちこちで話題になってただろうが」
知っている者は今年も見れると喜び、知らない者は知っている者に教えられ興味を持つ。
こうしてアイを先頭に外に出ると図ったかのように夜空いっぱいに大輪の花が咲く。
少しだけ肌寒さを含んだ夜の風に吹かれ、今年も幾つもの華が咲いた。
うっとりと見つめるアイの中で成功して良かったと男性は思う。
『今年もアイちゃんに幸あれ』
アイの心に直接語り掛けた言葉は、花火の音でさえ掻き消すことはできなかった。