第95話 風と炎
「この先は通さない、私達がこの世界を変えるため、障害は断固として排除されなければならない!」
吸血鬼アルミナ・ロード・エーデルワイスは、吹雪を纏ったかの如き血界魔装で、ミーシャとルノへ猛烈な氷属性魔法を投射していた。
数十の氷槍が降り注ぎ、広間はまたたく間に氷の柱や壁で満たされる。
だが、氷点下の冷気を相殺する爆炎が、彼女の氷を次々と砕いた。
「あんたにはあんたの正義があるのを私は認める! でもそれは、同時に多くの人々を不幸にさせてしまう!!」
ミーシャは炎剣に魔力を集中、数多の敵を屠った業火を放つ。
「『ヘルファイア』!!!!」
火の波を飛ぶことでかわすアルミナ、しかし、もう一人の風を操る青髪の少女が抑える形で待ち伏せていた。
「『プレスダウンバースト』!!!」
「ッッ!!」
吹き荒れる暴風がアルミナを空中から叩き落とした。地面が砕け、残り火くすぶる階層の一部は吹き飛んだ。
着地と同時にルノは顔を上げ、砂埃の中心を見る。だが、床を走った吹雪により瞬く間に煙が払われた。
「――お前らに......負けることなど許されないんだ! 私達は平等な国を造ることによって、初めて淘汰された同胞を慰められる!!」
莫大な魔力は、氷で形作られた槍へと姿を変える。
「滅軍魔法『グングニル』!!!」
アルミナの放った槍は、ソニックブームを発生させる程の速度で投擲された。
「ッッ!!」
壁に突っ込んだ氷槍はそのまま直進し、プレアデスを内部から貫通せしめた。
間一髪掠めるように避けることに成功したルノ、だが、その視界に一人の吸血鬼が入る。
「なッ!?」
肉薄してきたアルミナを剣で迎撃するも、強烈な回し蹴りが《ストラトアード》を粉砕、堅牢な氷で覆われた拳がルノの腹を打った。
「がふッッ!?」
思わずうずくまり、ルノはダメージに嗚咽を漏らす。
「ルノ!!!」
ミーシャが炎を纏い突撃した瞬間、アルミナはルノの首を持ち、盾のようにミーシャの眼前へ突き出した。
「!?」
激痛に喘ぎ、口元から唾液を垂らした幼馴染を前に一瞬固まるミーシャ。そこを、格好の餌食と言わんばかりに氷剣が降り注ぐ
「くッ!」
すぐさま飛び退いて回避するが、ルノがこちらめがけて投げつけられた。
全身で受け止めるも、二人して倒れ込んでしまう。
「ハアっ......終わりだ、貴様らの国は私達が潰す、大人しく朽ち果てろ」
全魔力を集中させるアルミナ。再び氷槍が構成され、猛吹雪が吹き荒れた。
「ミーシャ......、私達って幼馴染でしょ? だったらさ、一個やってみたいことがあるんだ」
よろめきながら立ち上がるルノ。
「何よこんな時に......」
ミーシャが立ったことを確認したルノは、右手で拳を作ると、ミーシャへ向けた。
「あいつに一人じゃ勝てっこない、でも二人合わせればさ、何とかなると思うんだよね」
風を纏うルノ、それはどこか優しく、荒れ狂う吹雪とは反対に温かいものだった。
「しょうがないわね......、乗ってあげる。あんたとは一蓮托生だしね」
ルノに合わせるように、ミーシャは左拳を横へ突き出す。
二人の間で魔法が入り交じり、風に乗った炎が吹雪を押し返した。