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第84話 覚悟と信頼


 王国軍第三遊撃大隊長を務めるエルド·オールディス少佐は、生まれてから最も苦渋と言って良い決断を迫られていた。

 そして、気でも狂ったかと問いたくなる話を出した魔導師へ、彼は胸ぐらを掴みながら叫ぶ。


「ソルト·クラウン大尉......! つまりお前は、今日戦場で子供に死んでこいと命令しろ、そう言いたいのかッ!?」


 開口一番に告げられた作戦内容。

 クロエ·フィアレスの持つ固有スキルによって一時的に魔甲障壁を破壊し突入、同隊三名を随伴させ、ティナ·クロムウェルを救出。

 その足でプレアデス内部の障壁発生装置を破壊するという、無謀極まる手順と戦力だった。


 こんなもの、彼女達に死地へ向かえと言っているも同義。到底容認出来る作戦ではない。

 否、もはや作戦と呼ぶ事すらおこがましい、エルドは声を荒らげ真っ向から否定する。


「断じて容認できん!! 彼女達は騎士といえまだ子供だぞ! 本来なら我々大人が守るべき矮小(わいしょう)な存在だ!!」


「ですが少佐、現状他に取れる方法、(もとい)時間が無いのです。アルテマ戦闘団がその火力を発揮するには......彼女達による陽動が必要なのです!」


「ふざけるなッ!! 誰が好き好んで単独小隊による命懸けの陽動を命令出来る!!! まして三遊は前回の戦闘で満身創痍だ! 俺は上官として......一人の大人として彼女達を殺すような命令は出せない!!」


 分かっている。マジックブレイカーが、少数の子供程度なら通れる穴を障壁に開けられる事も。他の部隊が住民の避難誘導と敵対生物牽制で足りていない事も。

 だが、それにしたって――。


 そんなエルドの思考をふっ飛ばす勢いで、執務室の扉が開け放たれる。何事かと目をやった少佐の視界に、"彼女達"は映った。


 可憐で端麗な、しかしまだ所々に戦闘のダメージを負った女性騎士。扉を壊す勢いで開けたのは、その中央に立つ黒髪黒目の少女だった。


「少佐! 私達を隊長の......ティナの救出に向かわせてくれませんか」


 普段ならタメ口のクロエが、とても丁寧な口調で頼み込んできたのだ。彼女だけではない、同小隊の三人も同じだった。


「お願いします少佐!! どうか許可を頂けませんか!?」


 重症と聞いていたミーシャ·センチュリオン一等騎士まで、完全武装で部屋に入って来た。


「何を考えている!? 私は君達を殺す事は出来ない!! ロンドニアでヤツらの強さを思い知っただろう! 驕りや一時の感情で決めるべきじゃない!!」


「だからこそです!! 私はあの他人を救う事しか頭に無い隊長を生粋のバカだと思っています! でもそんな子のおかげで助かった命もたくさんあるんです! ストラスフィア王国軍として、彼女を見捨てるは首都放棄と同じなんです!!」


 ありえない......。


「魔甲障壁を破壊出来なければ全てが無駄になります、どうか信じてください!」


 信じる、それはエルドが三遊を部下に持ってから一度として抱く事の無かったもの。アクエリアスに然り、ロンドニアに然り、全てが後方支援だった。


 この極限下で、彼は胃が爆発しそうになる胸中での問答を繰り返し、天秤に掛け続けた。

 その終着点、エルドの判断を決定付けたのは彼女たちの目だった。


 ただ一点の目標を見つめ、命令とあらば全力を尽くす訓練された騎士のそれは、拮抗していた天秤に"信頼"という最強の重しとしてエルドに意思決定をさせた――。


「......第三遊撃小隊に告げる、ティナ·クロムウェル小隊長を救出し、プレアデスの魔甲障壁発生装置を徹底的に破壊せよ! 妨害は剣でもって粉砕し、何としても目的を達成するのだ!!」


 責任は全て自分が負うと明言すると、エルドは最後に呟く。


「五人全員での帰還をもってのみ、本作戦は成功とみなす。王国の荒廃はこの一戦にありと心得よ!!」


 執務室に半長靴(はんちょうか)が床を叩く乾いた音が響き、整列した四人の騎士は寸分の乱れ無き敬礼を行う。

 不安と期待、何よりも信頼を乗せ、エルドは誇りある部下に対し毅然とした答礼を見せた。


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