第83話 国防会議
――ストラスフィア王国首都アルテマ。
シンボルであり政治中枢を司る王城コローナの地下で、王国軍はエルキア山脈より出現した未知の巨大物体について緊急動議を開いていた。
「間違いありません、あれはかつて古代王国が運用していたと言われる戦略兵器『プレアデス』。まさか実在していたとは......」
各軍を束ねる王国軍将校の前で、斥候より撮影された写真を見た有識者が感嘆していた。映されている物体はまるで蠍のようで、複数ある足で大地を闊歩するとの事。
だが、そんな考古学者に驚いているヒマは無いと口を挟む者が居た。
「博士、貴方の存じている範囲であの兵器のスペックを教えていただけますか? 今我々には時間がありません」
この国の軍を司る最高位司令官の一人、ラインラント国防大臣だった。
「スペックですか......、文献に記されている範囲になってしまいますが」
些か困った表情を作る有識者に、構わないと念押す。
同席する幹部達も肯定の意を示した。
「分かりました。武装についてですが魔導レーザー砲が脚部や胴体に計四十門、爆裂魔法弾発射機が胴体前部に五門、これに加え、魔甲障壁発生装置が付いていると思われます」
あの巨体には、予想通り大量の武装が備わっているようで、一筋縄ではいかないようだ。
すると、資料に目を通していた部隊運用官が口を開いた。
「敵は我が国に対し侵略とも言える行動を取っています、王国陸、海軍を一つの指揮機能の下統合し、可及的速やかな対処を提案します」
悪くない案だった。
大侵攻の際も統合部隊を編成して迅速に対処出来た為、現状取れる最善手だろう。
「具体的には?」
国防大臣が全体に問うと、次は陸軍長官が手を上げ具申した。
「はっ! まず絶対防衛線を王都西方の湿原に設定し、陸軍からは東方方面軍第七戦車師団、並びに第一○三砲兵軍団を主力に戦闘団を編成! 戦闘科の騎士は避難誘導に務めさせます」
「戦車か......まだ実戦で殆ど使われていないと聞くが」
「第七戦車師団、特に第八戦車大隊は成績優秀の精鋭揃いです。本日より演習を予定していましたので、即応も可能です」
陸軍の用意は良し。次に、ラインラントは対となるもう一つの軍を束ねる者を見た。
四個の戦闘艦隊を保有するストラスフィア王国の洋上戦力、海軍だ。
「迎撃ゾーンである湿原ならば、ダイアモンド級戦艦による艦砲支援射撃が可能です。重巡洋艦の砲も届くでしょう、第一艦隊第四打撃群を展開し、陸軍と歩調を合わせます」
彼らもまた、大侵攻からアクエリアスを守り抜いた精鋭だった。
正面からまともに戦えば勝ちも濃厚、しかし、まだ重大な不安要素も残っていた。
「魔甲障壁はどうする? 通常攻撃での突破は不可能に近い」
そう、問題はそこだった。
以前魔導科がテストした際、榴弾ですら弾いたという記録がある。古代兵器級の障壁ともなると、徹甲弾ですら貫通出来るか怪しい。
息詰まりか、そんな空気が流れた直後だった。
「失礼ながら長官、意見具申よろしいでしょうか?」
場の厭戦気分を破ったのは一人の魔導師。階級こそ尉官だが、率いる部隊規模の都合から留まっているに過ぎない王国軍魔導師部隊の長。
「ソルト·クラウン大尉か、良かろう、言いたまえ」
「はっ! 魔甲障壁に関してですが、一つだけ突破方法があります」
その場の全員がソルトを注視するが、全く動じずに彼は続けた。
「以前、私の隊を演習で負かした騎士達がいます。彼女達なら魔甲障壁を破り、内側から干渉する事も可能であると確信します」
「第三遊撃小隊か......、だが彼女達はロンドニアで痛手を負った。その上小隊長がプラエドルに連れ去られたと聞く、無茶ではないかね?」
「なればこそです! ティナ·クロムウェル小隊長の救出も含めて、直属の上官であるエルド·オールディス少佐に私から掛け合います」
普通に考えれば即却下の作戦、それでも首を横に振らなかったのは、迫る戦略規模の危機から来る緊急性が原因だろう。
「若く優秀な芽を摘む事になるかもしれんぞ......」
「心配ありません、彼女達を遊撃連隊へ推薦したのはこの私です。実力はお墨付きですよ。それに......」
ソルトは一瞬の間を開けると、また確信をもって断言した。
「先に我々が命令しておけば、彼女達は命令違反に問われません。心置きなく暴れてくれるでしょう――」