第81話 軌跡
「オライオン01より本部、これより洞窟内の探索に入ります。通信状況悪化の可能性あり」
『本部よりオライオン01、了解した。異常があれば直ちに引き返し、安全確保を最優先せよ』
「01了解、アウト」
エルキア山脈の岩壁にポッカリと空いた穴の前。
第六師団所属の偵察騎士、コールサイン《オライオン01》ことアミアン一等騎曹は、通信用魔道具による交信を終えると同時に、バディを組むエラン三等騎曹にいきなり背中を叩かれていた。
「いってえ!? エランお前! いきなり何しやがる!?」
ちゃんと送信終えてから叫んだよなと確認しつつ、彼はエランによる不意打ちを叱咤する。
だが、当の本人は呆れた様子で洞窟を見た。
「どうもこうもありませんよアミアン一曹、分かりませんか!? 我々は今未探索の怪っしそ〜うな場所を見つけたんですよ。可及的速やかに突撃すべきところを......あなたは本部に連絡してからーだとか、焦れったいことこの上ありません!」
「俺達の任務はあくまで偵察だ! て、い、さ、つ! ただでさえファルクスコーピオンに追われて命落としかけたんだよ、自重しろまったく!」
エラン二曹はどうにも攻撃精神が旺盛で、ただの偵察が奇襲に成り兼ねない。そんなヤツとバディになった運の悪さを恨みつつ、とりあえず洞窟へと入った。
中はマナクリスタルがあちこちから生えており、正直明かりには困らないようだ。一応警戒しながら進んでいると、エランが口を開く。
「そういえば、ファルクスコーピオンを振り切る時に飛び越えて渡った"崩れた橋"。あれ誰かが爆発物でも使ったんですかね?」
「かもな。大方、俺らみたく敵対生物に襲われたどっかの誰かが、振り切る時にでも崩したんだろ」
彼らは、先刻まで湖の辺りで休息を取っていた。
少し前に誰かが野宿したような跡もあり、良い場所を見つけたと思った矢先にファルクスコーピオンと遭遇してしまったのだ。
「案外、その人達もこの洞窟に逃げ込んだりしてそうですね」
「でももしそうならここはハズレって事になるぞ、――ってあれ......?」
アミアン一曹は歩いていた地面の違和感に気がついた。
「おい、これ......ボロボロだけど石畳だよな?」
一定の線を境に、岩肌が塗装された通路へと変貌していたのだ。
「確かにそうですが......何故こんなところに? 完全に山の中じゃないですか。まさか基地じゃあるまいし......」
そこまで言ってエラン二曹は口を止めた。
これまで王国軍は山の表面とその周辺を探していた。だが、ファルクスコーピオンに追われて道なき道を走った末に辿り着いたこの場所は、間違いなく黒に近い。
「行ってみましょうアミアン一曹! もしかするとプラエドルのアジトかも知れませんよ!!」
言いながら既に突っ走っているエラン。
「待て待ておい! 先ずは外に出て援軍呼んでからだろうが......って行きやがった」
まさか置いていくわけにもいかないので、アミアンも追従した。