第80話 破滅の警鐘
「クソがッ!!!」
――王国軍アルテマ駐屯地第三執務室。
エルドから三遊の現状報告を受けたローズは、置かれていた椅子を乱暴に蹴り飛ばした。
普段こそ温厚な彼の見ない一面に、いつもであれば恐れおののいていただろうとエルドは胸中で思う。しかし、事態が事態だけになるべく早く話を進めようと彼は務めていたため、恐怖よりも焦りが表に出る。
故に、彼はローズの呼吸が落ち着くまで待った。
「それで......あいつらの容態は?」
まだ荒い息を引きずりながら、彼は肺を握られているような重い声で聞く。
「......ミーシャ·センチュリオンが腹部を刺され重症、クロエ·フィアレス、ルノ·センティヴィア、フィリア·クリスタルハートはいずれも軽症。ですが......」
エルドはくぐもる声を懸命に押し出し、最悪に等しい言葉を告げた。
「ティナ·クロムウェル小隊長の行方が不明、街中及びロンドニア周辺に居ない事から......連れ去られた可能性が高いかと」
あのロンドニアでの戦闘からまる一日が経っていた。
第一報を聞いた時の感覚はまだ頭に染み付いている、プラエドルによってロンドニアが襲撃され、駐屯地及び第三遊撃小隊が壊滅したという悪夢のような報告。
さらに、聖導支部長マルドーが組織に加担していたという事も合わさり、王都はさらに混乱へと陥っていた。
「プラエドルのアジトは分かったのか? もし本当にティナ·クロムウェルが連れ去られたのなら、そこに抑留する筈だ」
「現在もエルキア山脈を部隊が探索中なるも、該当する場所は発見出来ていません」
「じゃあヤツらは一体どこから湧いているんだ! 山の周囲はもう草の根分けて探したんだぞ!!」
歯がゆいなんてものじゃない、拳が砕けてしまいそうなくらい握りしめ、無力さを恨む。
そんな二人の前へ、焦り過ぎてノックを忘れた新米騎士が飛び込んできた。
「エルド·オールディス少佐! ローズ·クリスタルハート少佐! 国防省戦略作戦局より緊急報告がございます!!」
彼の間違いを叱咤するのは後だ、二人は何事かと初々しい騎士に問う。
「先程、第六師団所属の偵察隊より、エルキア山脈にて正体不明の魔力震を探知したとの報告が入りました!」
歯車は大きく動き出し、それは国家を揺るがす程の大きな転機へと繋がってゆく......。