第78話 裏切りの代償
「ありったけの回復ポーションを使うわよ! ルシアは包帯に加護を、レイルはガーゼにポーションを染み込ませて!」
アルミナとの戦いで敗北し重症を負ったミーシャを、フィオーレ達は聖導の教会内へ運び込み、懸命に処置していた。
そこは教会と名乗る施設に似合わず、瓦礫や複数の聖導騎士、ロンドニア支部長のマルドーが倒れ伏す廃墟同然の状態。
上部を飾っていたであろう割れたステンドガラスからは、雨音が入り込んで、祈りの場とは程遠い惨状だった。
聞けば、これをやったのは目の前で親友を治療している三人らしい。
結果だけを聞いたルノは一瞬愕然としてしまったが、理由を聞けばある程度は察することが出来た。
曰く、それはほんの数時間前、『血界魔装』を発動時したアルミナと交戦していた時に遡る――。
「ああっくそ! ヒューモラスのやつめ、あれほどファントムの扱いには気を付けろと言っていたのに。このままでは霊力集中点の維持が出来んではないか!!」
聖導ロンドニア支部長マルドーは、密約を交わした身内の失態に憤怒していた。
彼はファントム量産の要たる霊力集中点を、無茶苦茶な理由でなんとか破壊させまいと工作を行っていた。
「マルドー支部長、一等騎士ヘルメス·クリスタルハートがこちらへ抗議に向かっていると報告がありましたが、あいつはどうするので?」
聖導に身を置きながら、多額の報奨金に釣られプラエドルに組みする部下が具申する。
「そちらは問題無い、ヒューモラスが対処にあたったようだ。あいつは心に取り入り、その内に潜む闇を増幅させて自我を奪ってから洗脳する魔法を使う。大方私への怒りを利用したのだろう」
マルドーにとって、ヘルメスの反旗は些細なものだった。
しかし、こうして街中で戦闘が始まってしまっては、もう長年隠してきたプラエドルも公になってしまうだろう。
いや、もう彼らは隠れない、そのために計画は最終段階へと入った。
「今の内にロンドニアから脱出する、エルキア山脈の遺跡で"
プレアデス"に搭乗。その後は計画通りに――」
もう後には引けない、遂に自らも動こうとしたマルドーへ、どこからか響くような声がこだます。
「へー、そういう事だったんだ」
教会上層を彩るステンドガラスを突き破り、何者かが建物内へと三つの人影が飛び込んできた。
十数メートルはありう高さをものともせず着地し、抜き身のレイピアをこちらへ向ける。
「まさか聖導がプラエドルに加担していたなんてね、ルシアの言った通りだったわ」
薄い金髪を揺らし、一層の怒気を込めた声を響かす。
そのたおやかな様相を持つ冒険者の横、マルドーのよく見知ったプリーストが蔑むような目をしていた。
「ルシアか!? 何故お前がそいつらと一緒に......! これはどういう事だ!!」
「どうもこうもねーよオッサン、ルシアの話を聞いて怪しんだらバッチリてめえらが黒だっただけだ」
抜かった。まさかこの期に及んでルシアが冒険者を引き連れてくるとはと歯ぎしりする。
十人ちょっとは居る聖導騎士が、すぐさま三人を包囲。臨戦態勢に入った。
「三人で挑んでくるとは命知らずも良いところ、纏めて葬り去ってやりなさい!!」
マルドーの指示で一斉に襲い掛かった彼らは、その剣を勢いよく振り下ろす。
しかし押し出した一歩は数秒後、騎士達に間違いを叩き付ける。
「『メテオール』!!」
輝く流星を思わせるようなレイピアの痛撃は、屈強な聖導騎士を一瞬で弾き飛ばしてしまった。
冗談のような光景に、マルドーは無意識に腰を抜かす。
「さあ......」
もしこれが夢であるならば。
「根こそぎ喋ってもらうわよ」
覚めて欲しいとマルドーは切に願った。