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第73話 血界魔装


 ロンドニア西方区画。

 時計塔の見下ろすこの街で、今激しい市街戦が十人に満たない者達により繰り広げられていた。


「悪しき魔を貫け! 『ウインド・フレシェット』!!」


 吹き荒れる風を纏い、ルノは弓兵隊さながらの風で出来た矢弾を斉射した。

 石畳も粉々に砕く魔法を、エルミナはいとも簡単に避け切ると、凄まじい速度で地面を蹴り肉薄。


 ティナが割って入らなければルノを貫いていたであろう剣撃を繰り出していた。


「――アクエリアスの時よりも強くなったわね、金髪の騎士さん。お仲間も結構実力者みたいだし」


 つばぜり合いの中、エルミナは以前のように押し切れなくなったティナを見る。


「私達は、あれから力を合わせて幾つも実戦を乗り越えてきた。痛みと苦しみは......人を強くしてくれるのよ!」


 渾身の力で刀身を弾いたティナは、剣を左手に持ち替えるとすぐさま踏み出し、ガラ空きとなった吸血鬼のみぞおちへ拳を撃ち込んだ。


「がッ......!?」


 ティナが初めて与えた痛撃は、決して少なくないダメージを彼女に与えた。

 数歩退き、エルミナは久しく味わう痛みに端麗な表情を歪ませる。


 さらに、動きの止まったところを狙ったミーシャは、《ストラトアード》に火炎魔法『ヘルファイア』を乗せて上空から叩き付けた。

 豪炎が周囲を走り、あちこちに残り火が燻ぶる。


 それでも彼女達はこれで勝ったと思わない、エルミナを炎から完璧に守った氷壁が黒煙を破り姿を現したからだ。


「私の魔法を防いだ......!?」


 全力の攻撃を呆気なく止められたミーシャが動揺の色を示す。


「ありがとうお姉ちゃん、今の食らったら結構危なかったわ。さすが氷結魔法の使い手ね」


 どういうわけか屋根上で傍観に徹していたアルミナは、そんな妹に困った様子で氷壁を解体し、通りへと降りた。


「そうやって油断するのがエルミナの悪い癖、もう余興は済んだでしょ?」


「余興......、まさか手加減してたっていうの!?」


 最悪だった、現状ではエルミナ一人に対し五人掛かりで優勢を保っていた。アルミナが加わる上にまだ本気でなかったとすれば、戦況は一気に覆る。


 次の手を思考していたティナの目の前で、突如エルミナが持っていた剣を放り投げた......いや、捨てたのだ。


「やっぱり私に武器なんて合わなかったわね。アルミナ! 狼煙を上げるわよ!」


「分かった、ヒューモラスも既に動いている。我々も始めよう」


 五人は状況が飲み込めないでいた、だがマズい状況へ陥ったのは確かだと確信する。

 人間として、生き物としての本能が頭の奥で警鐘を鳴らした。


「あんたさっき言ったわよね、痛みや苦しみは人を強くしてくれるんだって」


 空気が変わっていく、もはや肌で分かる程に。


「あの時ガッカリしちゃった、あなた達のしてきた戦いが......如何にヌルかったかが知れちゃってさ」


 第三遊撃小隊は、持てる力の全てを眼前の吸血鬼へ向けた。

 放たれた魔法が一直線に向かう中、ロンドニアに二つの光が柱となって空へ昇った。


 攻撃は打ち消され、光の中心部からは街全体が震える規模の魔力が放出される。


 やがて姿を見せた二つの存在、外見こそさほど変わらないが、耳上に角のようなものが形成され、両手には膨大な魔力が宿されている。

 それは破滅の化身、圧倒的な存在を前にしたティナは自らの足が震えている事に気付く。


「『血界魔装』、王の血を持つ者だけが纏える最強の魔法。私達はかつて吸血鬼の頂点に立った者の血を引く存在、人間如きが――」


 五人の視界からエルミナが消える。そう見えただけと気付いたのは、ティナの胸にドス黒く染まった手が触れた瞬間だった。


「渡り合えると思うな」


 城壁をも粉砕する一撃が突くようにティナをふっ飛ばした。

 時を刻んでいた塔上部の時計盤がひしゃげ、飛び散った石レンガが広場へ降り注ぐ。


「ティナッ!!!!」


 絶望の幕が開ける。


「始めましょう、――戦争を」


長くお世話になった携帯が壊れたので機種変しました、投稿ペースも一応上がる予定です。

本編もいよいよ終盤ですので、もう少しだけお付き合い頂ければ幸いです。


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