第70話 迫る危機
執務室の奥、エルドは遂に書類の山を消し去った机で、自身の労いも兼ねていつもより上質なコーヒーを啜っていた。
その表情はどこか安堵した、っというよりかなり疲れた様子である
「かなり手こずったが、どうにか三遊を向かわせることができた。他部隊も戦況は優勢、『プラエドル』を除いて不安要素は消えたと見て良い......」
静まり返った部屋で、夜映えする月を窓から眺め少ない自由時間を謳歌しようとするが、ノック無しに勢いよく開けられたドアが静寂と平穏を破った。
「エルド!! まだ居るかッ!?」
「ゴフフォアッッ!?」
階級に見合わない声を上げ、エルドは飲んでいたコーヒーを噴き出した。
飛び込んできたのはローズ・クリスタルハート少佐。スーツを汗で濡らし、血相を変えた様子にエルドもすぐさま状況を確認する。
「どっ、どうしたのですか? 何か重大な用件で?」
こぼしたコーヒーを拭きながら尋ねるエルドに、ローズは鬼のような様相で近づく。
「第三遊撃小隊はしばらくアルテマ駐屯地に留まらせておくんだ、いいか、絶対に王都から出すな」
「どういうこと......ですか?」
冷静さを失い、話す順序を間違えていたとローズも気付き、順を追って説明を展開した。
「さっきプラエドルの魔導師と接触した。ヤツはファントムについて知っている者を全て始末するつもりだ! 地下ダンジョンへ行った三遊も狙われる可能性が高い!!」
切羽詰まった様子に、冗談の類ではないと理解した。
それを察してなお、エルドはその意思に首を縦には振らない。いや、彼の要請に答える事が、エルドには出来なかった。
「クリスタルハート少佐......、第三遊撃小隊は先程......」
何故なら既に。
「ーー【ロンドニア】へと向かわせました」
命令を下していたから。