第67話 聖に潜みし闇
「どういうことなんですか支部長ッ!」
様々な配色が為されたステンドグラスを上部に囲み、十分な日光で照らされた教会内。
聖導一等騎士ヘルメス・クリスタルハートは、聖導ロンドニア支部を統括する支部長、マルドーへ抗議していた。
理由は一つ、本来破壊することが望ましい霊力集中点を、彼は頑なに壊さないよう保持を命じていたからだ。
今回派遣された部隊は、このロンドニア支部の騎士とプリーストであった。現在制圧している部隊の司令官がマルドーなので、苛立ったヘルメスとルシアが直接乗り込んだ形になる。
「もしまたあのような化け物が出現すれば、結界なんてすぐ破られてしまいます! 直ちに破壊すべきです」
「そうは言ってもだねヘルメス君。もし霊力集中点を壊したとして拡散しない保証なんてどこにも無いじゃないか、王都アルテマで発生すればそれこそ大惨事だ」
ネットリとした口調で、諭すように言うマルドー支部長。
「拡散なら問題ありません。私が広間中に結界を構築し、その中で破壊すれば防止は可能です」
アルテマ駐屯地の広大な敷地、その全てを結界で囲って見せたルシアが方法を提案するも。
「ダンジョン最深部の広間は"あんなにも高く広かった"じゃないか、不可能だ。そんな博打に責任を取るなんて出来ない!」
ここで、ヘルメスとルシアは妙な違和感を覚えた。
「支部長......、何故あなたが広間の構造を知っているんですか?」
ダンジョンの制圧からはまだ三日も経っていない、ずっと支部に居たマルドーが、最深部の広間は"高く広い"なんて主観的な意見を出せる筈が無いのだ。
「連絡と一緒に聞いたんだ、広間も構造も全部ね。どこがおかしい?」
「広く高かった~......なんて、聞いただけなら普通言いませんよ。マルドー支部長、一体何を隠しているんですか?」
二人の視線が刃物のように鋭いものとなった、これ以上話すのは危険と判断したマルドーが奥の手を発動する。
「貴様ら私を疑っているのか!? そんなでっちあげは金輪際持って来るな!! もう去ね! お前ら二人がその気なら、私もこれを反抗と見なし即刻この場で処分しても良いんだぞ」
「「ッ!?」」
権力の行使、聖導は軍程ではなくともれっきとした縦社会だ。
支部長たる彼の持つ権力は、いかに一等騎士や上位プリーストでも押し黙らせられてしまう。
お話の主人公と違い、ヘルメスやルシアにも生活がある。ここで職を失い路頭に迷うのはやはり避けたいところだった。
無論これも予想の範疇だったが、まさかここまで激情に煽られ権力を乱用するとは考えていなかったのだ。
「ヘルメスさん、ここは一旦出直しましょう。これ以上刺激するのは危険です」
とても小さい声でルシアが具申した。
「......ッ!! 分かった、今は証拠も不十分だ。ここは退こう」
苦虫を噛み砕いたような表情で、ヘルメスとルシアは教会を後にした。
扉が閉まる直前、こちらを見るマルドーの口角が僅かに上がっていた気がした。