第66話 休息
ーー地下ダンジョン制圧から三日後。
太陽が頂点に達するかという時間で、ティナは居室のベッドからまぶたをこすりつつ起き上がった。
読書をしていたつもりがついつい寝てしまっていたらしいことに気付き、慌てて口元からだらし無く垂れていた涎を拭う。
そんなキョドキョドしていたティナへ、優しく声が掛けられた。
「おはようティナ、良く眠れた?」
声の主はクロエ、彼女は戦闘の傷がまだ治りきっていないのでしばらく自室安静を命じられていた。当の本人はもう大丈夫だと言い張っているが、駐屯地の外へ出すわけにもいかないのでフィリアに本を借りて暇潰しさせていた。
「久しぶりに頭が痛くなるくらい寝たかな、今の時間は?」
「1158(ヒトヒトゴーハチ)、お昼時だね。丁度起こそうと思ってたしタイミングもバッチリ、食欲ある?」
「もちろん、食堂へ行きましょ」
二人が部屋を出た辺りで昼食ラッパが聞こえてきた。
心を躍らせつつ、ティナとクロエは昼食へと向かった。
◇
熱々の焼き物が売りの王都内某飲食店で、ミーシャはすっかり冷めたウィンナーをパクリと一口で頬張っていた。
お店側としては少々複雑な心境だろうが、彼女は大の猫舌であるのだから仕方ない。
「安静のフィアレス二士に付き添って一緒に留守番だなんて、つくづく他人第一主義なのね我らが隊長は」
隣で座るルノ、その向かいに掛けていたフィリアへやれやれといった様子でミーシャは話し掛けた。
「とてもティナさんらしいですね、......そういえばあの地下ダンジョンって今どうしてるんですか? 霊力集中点が見つかったならもう大丈夫だと思うのですが。モンスターだって倒しましたし」
ナイフでハンバーグを切り取りながらフィリアが返す。
ファントムを倒してすぐ、第三遊撃小隊は後続の王国軍並びに聖導へと引き継ぎ、王都へ舞い戻った。
ドタバタと忙しかったこともあり、後日エルド少佐に会ったティナとルノしか撤退した後の様子を聞けていないのだ。
「確かダンジョンは聖導が管理下へ置くことになって、まだ色々調べてるみたい。霊力集中点も今は結界で封じているだけで、消滅自体はまださせないそうだよ」
ハムッと杏仁豆腐を口に入れながら、彼女は上機嫌そうに説明した。
最も、そこまで行ってしまえば彼女達はもう部外者だ。これ以上関わることも無いだろう。
「そうなんですか、兄さんとルシアさんが【ロンドニア】へ行ったと私は聞いたので、てっきりもう終わらせたものかと」
「【ロンドニア】? あの時計塔を中心に据えた街でしょ? 聖導が行く所なんてあそこにあったかしら」
「支部教会が建ってた筈だよ、多分そこに用があったんじゃないかな。例えばダンジョン制圧の報告とかさ」
デザートを完食したルノは、渇いた喉を冷水で軽く潤した。