第60話 労い
ーー王国軍アルテマ駐屯地
「あー疲れたぁーっ、せめて一人は助手を連れてくるんだったなー」
ウンと背伸びをしながら通路を歩くルノ。
気を利かして書類作業を一手に引き受けた彼女は、戦闘直後ということもあり眠気や倦怠感を引きずりながら自室へと向かっていた。
「ルノさんも苦労してるんですねー、演習終えた時みたいなお疲れオーラ出てるっスよ」
たまたま出くわした『七五式戦車』の砲手を勤めるセリカ・スチュアート一等騎士から、労っているのかそうでないのか判然としない言葉を掛けられる。
先日戦車の輸送と整備が完了し、機甲科の騎士もまた演習を繰り返していた。
それでも尚セリカが疲れを見せないのは、彼女自身が自称するタフさがあるからだろう。有り余っているなら少し分けて欲しいと思うくらいだ。
「本当格好なんてつけるもんじゃないよ、まあ他人ばかりを気遣うあの隊長を少しでも援護出来たなら、副隊長としては御の字ってところかな」
「しっかりしてるっスねー、私なんて毎日戦車長から怒鳴られっぱなしなのに」
茶髪のショートヘアを上から押さえ、何か恐ろしいものを思い出すかのようにブルブルと震えるセリカ。
「そっちはそっちで大変そうだね、私で良ければ相談に乗るよ」
「ありがたいっスけど、これ以上ルノさんの負担が増えると逆に申し訳無いので遠慮しておきます。逆に、ルノさんこそ辛い時の相談相手いるんですか?」
言われて気付く。
彼女はミーシャの相談を聞いていても、自分が聞いてもらうことはこれまで無かった。
「その様子だと、ルノさんは普段から聞いてばっかりですね。いざという時頼れる人がいないと人間すぐに崩れるので、意識はしといた方が良いと思うっスよ」
若干諭される。
だがその言葉は真理であり、的を得ていた。
「うん、確かにその通りだね。ありがとうスチュアート一士」
「同僚として当然のことを言っただけですよ。それよりルノさん、この後売店で一緒にアイス買って食べませんか? 一日頑張った自分にご褒美くらい無いと明日も頑張れないってもんです!」
意気揚々としたセリカが目を輝かす。
一日のご褒美、モンスターから書類と奮戦した自分を労るのも大切な仕事と判断。
「了解、一緒に食べようか」
ルノは快く了承した。