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第58話 日出ずる国から来た者


「さっ、どうぞ。狭い家だけど」


 リザードマン討伐任務を終えた第三遊撃小隊は、報告書の作成を請け負ってくれた副隊長のルノを除いて、クロエ母に連れられ自宅へと招かれたのだ。


「お邪魔しまーす」


 ティナを先頭に一人づつ中へ入った。

 家具は木製のものが殆どで、居間に敷き詰められた畳からはゆったりとした情緒性を感じさせる。

 ストラスフィア王国では珍しい内装だ。


「お母さん相変わらず家はいじらないんだね、もう家具も結構古くない?」


「あら? これもわびさびがあって良いと思うわよ、クロエもそのうち分かるようになるわ」


 両親子はお茶を入れ、ササッと手慣れた様子で人数分の座布団を敷いた。何故だろう、クロエがしっかり者に見える。

 一同は慣れないおもてなしで若干緊張するが、とりあえず正座で座った。


 フィアレス親子はその正面に着いた。背筋も伸びた、実に美しい所作だ。


「それでーアリサさんでしたっけ? 第三遊撃小隊隊長のティナ・クロムウェルです。クロエさんにはいつも助けていただいてます」


「いえいえ、こちらこそいつもクロエがお世話になってます。あと名前の方なんだけど......もう言っちゃって良いかなクロエ?」


「お母さんに任せるよ、私も『マジックブレイカー』の"有無"は教えてるし」


 クロエ母は一瞬驚いたような顔をしたが、直後に安堵の様相を示す。『マジックブレイカー』には何か秘密でもあるのだろうか。


「なら大丈夫ね、では改めて自己紹介を......」


 彼女はほんの少しまぶたを閉じた後、その漆黒に満ちた瞳でティナ達を見た。


「私のもう一つある名前......っというよりこっちが元なんだけど、涼月愛凛桜(すずつきありさ)といいます。遠い遠い極東の地、【日本】という国で生まれました」


「ーーニホン?」


 幼気な片言で無自覚におうむ返しした。

 ティナは教導隊時代からクロエがハーフだと理解していたが、聞いたことの無い国名や名前、しかも性が最初に来ているとなると尚更こんがらがる。


 愛凛桜がそこから来た人間ということは、クロエは日本人とストラスフィア人の間に生まれた子という事になる。


「ごめんなさいね急に、でも同じ部隊の人には一応言っておかなきゃと思って。ハーフとかで制約があると困るし」


「この国はそこまで純血至上主義では無いとお父さんから聞いていますので、ハーフくらいなら大丈夫ですよ」


 一人そこまで緊張していなさそうなフィリアが、慣れ親しんだような表情で言う。


「そうなの!? 良かった~。"昔から"いつもフィリアちゃんにはお世話になりっぱなしね、クロエと同じ部隊で安心したわ」


 手を撫で下ろし、フウッと愛凛桜は安堵した。


「そういえば二人は幼なじみだったわね、じゃあフィリアはこの家にも何回か?」


「はい、小さい頃からよくお邪魔させてもらってました」


 彼女一人肩の力が抜けているのも、この場所はとっくに慣れていたからだった。

 やはり幼なじみとはうらやましいと、ティナは内心で感じてしまう。


 そんな考えを流すようにお茶をすすった瞬間だった。


「ところでティナちゃん、一つ提案なんだけど......お風呂入っていかない?」


 飲んでいたお茶を、ティナは盛大に噴き出した。


「いやっ、変な意味じゃなくてね、ティナちゃん体中泥まみれなんだもん。女の子なんだから身だしなみは綺麗にしないと」


 リザードマン戦で吹っ飛ばされた時に、地面を転がったせいだろう。確かにかなり汚れてしまっている。


「行ってきなよティナ、家のお風呂は格別に気持ちいいからさ」


 クロエの後押しもあり、ティナはお言葉に甘えさせてもらう。

 愛凛桜に案内してもらい、主に木製の慎ましやかな通路の先にそれはあった。


 上品な木の香りがお風呂場全体を包み、窓からは日がいっぱいに降り注ぐ。湯舟は見たことの無い木材で出来ており、そこに透明なお湯がたっぷりと溜まっている。


「我が家自慢の檜風呂(ひのきぶろ)へようこそ! 維持だって大変なんだからー」


「うわぁー、こんなすごいお風呂初めてです! ありがとうございま......す?」


 ふと愛凛桜を見ると、彼女も入る気満々なのか服を脱ぎ始めていた。


「あっ、アリサさん!? これはどういう......!?」


 突先すぎてあわあわと声が詰まるティナ。


「裸の付き合いというのがあってね、お互いに隠し事無しで腹を割って話すの。ティナちゃんに聞きたいお話しもいっぱいあるしね!」


体調不良とプロットの作り込み不足というダブルパンチで、非常にペースが落ちてしまいました('A`)



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