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第55話 類は友を呼ぶ


「セリカ!? 久しぶりじゃない! 機甲科教導隊で他の駐屯地に行ったっきり全然だったでしょ、元気にしてた?」


 騎士教導隊の同期であったセリカとの思わぬ再開に、ティナ達は大いに喜んだ。彼女は機甲科という部隊を目指し、ここアルテマ駐屯地からしばらく離れていたのだ。


「はい、こう見えて結構タフなんですよ? 健康管理も万全だったっス。っていうかティナさん達こそ私は大丈夫かと聞きたいですよ! 例のアクエリアス争乱に派遣されてたらしいじゃないですか!」


 食事を机に置き、ティナの横へ座りながらセリカは言った。


「あはは......"ちょっと"危なかったけど、皆の助けもあって一応何とかなったわ」


 レッドオーク、そして吸血鬼エルミナとの激戦に対し、"ちょっと"という表現は本来間違っているだろうが、ティナはセリカに余計な心配を掛けたくなかった。

 クロエ、フィリアも同様に肯定の意思を示す。


「なら良かったです......。ところで、そっちの女の子はどちら様? 見た目騎士には見えないんっスけど」


 丁度セリカの正面に座っていたルシアへ、彼女は手を向ける。

 ルシアも話し掛けるタイミングを模索していたのか、やたら早い返事をした。


「わ、私! 聖導でプリーストをやっていますルシア・ミリタリアスです! あの、噂の戦車部隊に配属されているというのは、ほ......本当なんでしょうか!?」


 えらく興奮気味のルシア。


「配属と言ってもつい最近っスけどね、今日アルテマ駐屯地に来たのも実を言うと乗組員だけで、肝心の戦車はまだ列車で輸送中。着くのはもう少し掛かりますね」


「っということは、その戦車で構成された部隊がここに配置されるの?」


「そうっスね、でも東方方面軍に配置されるのはせいぜい一個戦車師団。他はみんな西方方面軍や北方方面軍だそうです」


 ハンバーグを口に運びながら、セリカは淡々と部隊の現状を説明した。その戦車という兵器が、いかに前線で必要とされているかがよく分かる。


「ルシアさんでしたっけ? やけにこちらの事を知ってるようっスけど、ひょっとしてあなた......」


 セリカは食器を置き、ルシアのガラスの様な瞳をジッと見つめると......。勢いよく机を叩いた。


「六七式榴弾砲の使用砲弾とは!」


「六七式155㎜榴弾!」


「現在王国海軍が保有する最新の戦闘艦は?」


「ダイアモンド級巡洋戦艦ッ! 主砲口径36.5㎝!」


「対空魔弾砲の水平射撃は......」


 そこまで言うと、二人はパンッと食堂内に大きく音を響かせながら手を合わせ会った。


「「男のロマン......!」」


「あんた達女子でしょ」っとツッコミを入れかけたが、もはやティナはそれよりも食事を優先する。この二人の琴線はきっと同じだと確信したから。


「どうやらイケる口のようっスね」


「こちらこそ中々のものとお見受けしました、ならばとことん語り合いましょう!!」





 その後の会話は一体どんな内容だったか、何の話なのかもティナ達にはもう分からなかった。食事を終え、再び駐屯地を探索すること数時間経ち時刻は現在1650(ヒトロクゴーマル)。

 セリカとルシア間で交わされる言葉はマニアックの一言に尽き、もうその手の評論家なんじゃないかとすら思える。


 しかし、ここに来て会話に曇りが生じた。

 簡単に言うと、質問の内容が機密に触れたからだ。


「戦車の主砲の最大貫徹力はどれくらいなんですか!? ゴーレムを一撃で粉砕できるというのは、本当なんですか?」


「威力は......すっ、凄く強いっスよ」


「じゃあ射程は?」


「よく飛ぶっス......」


「命中精度は?」


「砲手にもよるけど、よく当たるっスよ......」


「何だか曖昧ですね......」


 本当はセリカも自慢したくてしょうがないのだが、秘密保持の観点からこれ以上の情報露呈は禁じられていた。

 さらに言えば、彼女の上官が近くに来ていたのだ。


「おいセリカ・スチュアート一士! 1700(ヒトナナマルマル)までに国旗前へ来いと俺は言った筈だが、まさか忘れた訳じゃあるめえな?」


「ひゃっ! ルクレール二曹!? 何故ここに居るんっスか!?」


 豪胆そうな、それでいて筋肉質でスマートな体格をした男性騎士。彼はセリカの乗る『七五式戦車』の戦車長である。


「何故もなにもお前以外全員揃ってるんだよ、他人の仕事の邪魔してないでさっさと来い! もし遅れたら先に着いた乗組員全員にジュース奢ってもらうか、最悪出禁もあるからな」


「行きます! すぐ行くので出禁だけは勘弁してくださいっス!」


 これまでになく慌てた様子でルクレール二曹の元へ走るセリカ、間に合うのだろうかと思いつつ、ティナ達は彼女を見送った。


「もう少しお話したかったですが、出禁はマズイですね」


 出禁とは、一口に言うと外出禁止の意味であり、王国軍騎士が最も嫌がる措置で知られる。


「あと件の幽霊についてですが、どうも発生源はここではないようですね......」


「えっ?」


 一日中ただ歩いていただけで本当に取り組んでいるのかすら不明だったが、さすがはプリースト。既に大体を把握しているようだった。


「どこか霊の多く溜まっている場所が存在して、おそらくそこから流れてきたのだと思います。一応駐屯地に処置は施しますが、元を探す必要がありそうですね」


 言いながらルシアは地面に強く両手を付けると、淡く光る魔法陣を敷地全体に広がる程大きく展開したのだ。

 それはどこか優しい、聖なる魔法。


「『セイクリッドシールド』!!」


 一瞬だが、駐屯地が巨大で薄い膜に覆われたのが見えた。

 傍から見てもとんでもない規模なのがよく分かる。


「ーーふう......これでもう霊の侵入は防げる筈です。次やるべきことは湧き出ている根源の発見と、その対処です」


 息を切らしながら立ち上がったルシアは、ティナの方を向く。


「今日のところはここまでにしておきます、発生源は我々聖導の方で引き続き調査しますので、発見した場合は追って連絡します」


 ビシッと敬礼の姿勢を取るルシア。

 それに対し、ティナ達も整った答礼で返した。


「本日はエスコートありがとうございました。セリカさんにも、またお話しましょうとお伝え願います!」


 ルシアがニコッと白い歯を覗かせた次の瞬間、課業終了を告げるラッパが鳴る。

 空が夕焼け色に染まる中、一人のプリーストと三人の騎士は直立不動で敬礼を続けた。


 その晩から、駐屯地が幽霊騒動で叩き起こされるといった事もすっかり無くなった。


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