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第54話 ミリオタ聖職者


 頂点に近付いた太陽が駐屯地をまんべんなく照らし、首筋にジリジリと熱が溜まる。

 噴き出る汗を何度も拭いながら、ティナ達は幽霊騒動で聖導から派遣された聖職者(プリースト)、ルシア・ミリタリアスに敷地を案内していた。


「おお! これが普段使っている演習場ですか! 聞いた通りの広さです!」


 だがこのプリースト、駐屯地を周り始めてからどこか様子がおかしいのだ。


「わあ! あっちには『六七式榴弾砲』がズラリと! 戦場の女神と評される砲兵は、やはり美しくてカッコイイですねー!」


 武器や兵器はもちろん、三型戦闘服や戦闘糧食(レーション)まで並々ならぬ興味を示し、おまけにやたらと知識がある。

 それはもう現役の騎士であるティナ達が追い付けない程に。


「随分とお詳しいんですね、まるで武器科の人達みたいです」


「えへへ、実を言うと私、昔ある騎士の方に声を掛けていただいてからもう王国軍がたまらなく大好きでして! 調べに調べて調べまくってるんですよ!」


 ぴょんぴょんと嬉しそうに飛び跳ねながら、ルシアは目に着くもの全てを視界に入れてはキッチリ名称や使用用途を言い当てている。

 それは、ティナ達が想像していたプリーストの姿からは大きく離れていた。


「あぁ~、既にこうして駐屯地に入れただけでも至福なのに、こうして騎士の方とお話できるなんて夢みたいです」


 日常の大半をここで過ごすティナにとっては、もはや日常となったこの景色も外の人間から見れば珍しいのかもしれない。


「そういえばフィリアさんって、確か性がクリスタルハートでしたよね?」


「はい、フィリア・クリスタルハートです」


「やっぱり! "ヘルメス"さんの妹さんですよね、以前からお話を伺ってたんです!」


 フィリアの表情が胸をえぐられたように一瞬歪んだ。


「ヘルメスって?」


「......私の兄です。兄は武術や剣術において幼少から他を寄せつけないくらいにに秀でていて、その腕を買われて数年前『聖導騎士団』へ入ったんです」


 『聖導騎士団』。

 ストラスフィア王国には二つの騎士が存在しており、一つはティナ達の属する王国軍だ。この国では王国軍の騎士は軍人や兵士と類語である。

 対して聖導騎士とは、聖導という霊的な案件を扱う組織に属し、気品と正義を重んじる伝統的な騎士のことを言う。


「聖導の一流騎士かぁ......。もしかして、フィリアが魔導師じゃなく騎士になったのってお兄さんを意識してたり?」


「おっしゃる通りです、私はいつも兄に劣っていました。結果を出し、騎士として実績を積んでいくそんな兄に......少しでも追い付きたかったんです」


 対魔法訓練が終わった直後、バーネットに魔導科への誘いを受けながら断った理由が今、判然とした。


「あの......ごめんなさいフィリアさん、そのような想いがあったことも知らず」


「いえそんな! これは私の勝手な事情なので、ルシアさんが気を使う必要なんて全く無いんです」


 空気が目に見えて重くなる。。

 これではお互い満足な仕事も行えないと判断したティナは、丁度真上から光を降らす太陽を見てると、二人の肩をポンッと叩いた。


「一旦お昼にしない? 腹が減っては戦は出来ぬ、ルシアもここの食事気になるでしょ?」


 途端ルシアの瞳がキラキラと輝いた。


「フィリアも行こ、今日のメニューは"ハンバーグ定食"だって。早くしないと席埋まっちゃうわよ」


 パッと溶けそうな笑顔をしたフィリアの二つ返事で結果は満場一致。四人は転進し、一直線に駐屯地の食堂へと向かった。





 ティナの言った通り、食堂は腹を空かした騎士で瞬く間に溢れ返った。

 そんな中、なんとかまとまった席を確保したティナ達、特にルシアとフィリアは、本日のメニューであるハンバーグ定食を幸せそうに堪能していた。


「あぁ~もうたまりません! こんな素敵な場所で、尊敬する騎士の方々と一緒に食事が出来るなんて......。しかもこのハンバーグめちゃくちゃ美味しいです」


 感極まりとは今のルシアのような状態を言うのだろう、もう表情までとろけてしまっている。

 騎士以外の人間とここで食事をするのも初めてなので、ティナ達も新鮮な気持ちだ。


「ーーねえ、なんかいつもよりちょっと人多くない?」


食堂内にごった返す騎士を見たクロエが言う。


「確かに......、どこか別駐屯地の部隊でも来たのかしら」


 頻繁では無いにしろ、これまでにも何回かはあった。

 空いているところも残り少ないので、早めに席を確保しておいて良かった思ったティナだが、そんな彼女にふと声が掛けられた。


「すみません、隣座っても良いっスか?」


「はい、大丈夫ですよ......って、え!?」


 ふと振り向いたティナ、そして正面に座っていたクロエとフィリアは、彼女が久しく会っていなかった友人である事に気が付いた。

 茶髪にスッキリと整った容姿、特徴的な語尾を持つ、同期の女性騎士候補生だった少女。


「お久しぶりっス! ティナさん、クロエさん、フィリアさん。王国軍第七戦車師団、第八戦車大隊所属、現在は『七五式魔導戦車』の砲手を勤めているセリカ・スチュアートです!」


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