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第49話 不安と希望


 些か飾り気に欠けた執務室の奥。エルド少佐は久しぶりにスッキリと片付いた机の上に、コーヒー入りのマグカップをトンッと置いた。

 彼が真剣な表情で睨みつけていたのは、王都アルテマの話題を中心とした、『王都新聞』の一面だ。


 タイトルはホラーっぽく演出された『王都に出没する謎の黒い影』。なんと一面である。


 写真の下には市民の声と称する文章がいくつも並べられ、「壁をすり抜けてきた」や「いきなり背後に立っていた」等理解しがたい意見と、「警務隊はこの変質者を即刻捕らえるべき」、「ギルドに自宅警備を依頼しよう」といった意見もある。


「読んでもらった通りだエルド少佐。もう噂や与太話ではなく、その黒い影は街中に蔓延(はびこ)っているらしい。実態は不明なままだが、いよいよ放置も出来なくなってきた」


 エルドの横、部屋の片隅に置いてあった椅子を引っ張り出して座ったローズが、新聞を指しながら言った。


「軍として対策の方は?」


 このような治安維持は、通常軍ではなく警務隊が行うのであるが、国の首都であるため見て見ぬフリというのも出来ないのだ。


「今朝から四魔のソルト大尉、並びにバーネット一等騎曹と王都中を散策してたんだが、彼ら曰く街のあちこちに妙な気配を感じられたそうだ」


「気配......ですか?」


「ああ、出所こそ掴めなかったが、どこからか染み出ているような感じだったらしい」


 謎が謎を呼ぶ。

 プラエドルと関連のあるファントムかとも考えたが、新聞を見る限り危害件数は現在のところ0だ。

 実体も掴めず、ただそこに居るだけのそれはまるで......。


「"幽霊"のよう......ですね。もしそうなら、聖職者(プリースト)を有する『聖導』に除霊でも頼みますか?」


「聖導か......、確かにそれが適当かもな。俺達軍隊は国家に牙を向ける生きとし生けるものを"ぶっ殺すコト"を本業としている。幽霊退治は専門外だ」


「剣撃や榴弾砲で幽霊は吹き飛ばせませんからね......、そういえば話は変わりますが、例の"新鋭兵器"はどうなりましたか?」


 読み終えた新聞を置いたエルドが、新聞のコメントよりも物騒な台詞と共に質問を振った。


「あれか、名称は確か......『戦車』だったな。砲の自走化と装甲化を実現し、複数種の砲弾を撃ち出すという陸戦の切り札だ。確か機甲科に合格した女性騎士候補生が、俺の担当したやつだったな」


「女性騎士で新鋭部隊に配属ですか、それはスゴイですね。なんという名前ですか?」


 日が沈み切り、申し訳程度の明かりが煌々と光る窓の外を見たローズは、ティナ達とよく絡んでいた茶髪の女性騎士候補生を思い出す。


「ーーセリカ・スチュアート」





「やっぱ蒸し暑いな~、日も暮れて外なら涼しいと思ったのに」


 すっかり人気の無くなった駐屯地の外通路、クロエは避暑を求めて一面覆い尽くされた星空の下を歩いていた。

 彼女は第三遊撃小隊の中でも特に暑がりで、王国軍に入る前からよくこうして外を出歩いていたのだ。


 王都中心部と違って、夜の駐屯地内は静寂さが大半を締めている。

 だが、そんな湿った空気を消し去る陽気な声がクロエを横から突いた。


「よお黒髪ちゃん、こんな夜分にお散歩か?」


 闇に溶け込むような黒一色のローブ

 冊の上で星を仰ぎ見ていたその者は、午後を共に過ごした魔導師、バーネット・ブラウン一等騎曹だった。


「もし暇ならよ、ちょっと付き合ってくれねーか?」


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