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第47話 ランチと情報


 飲食店を名乗る店は王都に星の数ほどある。その中でも味に評判があるも値段は高いと有名なレストランに、一行はやって来ていた。

 っというより、ローズ少佐は連れて来させられた。


 大きな円形のテーブルを囲む形で、ティナ達三遊とローズ、ソルトにバーネットは、目の前に並べられた料理に味、量、値段等、様々な考えを走らせる。


 (はた)から見れば家族ぐるみの集まりと思われそうな光景だが、全員が軍の騎士と魔導師である。


「では、今回掛かる費用は"全て"ローズ少佐が受け持ってくれるらしいので、お言葉に甘えて食べられるだけ食べて、少佐のご厚意に甘えましょう!」


 数ヶ月前、対魔法訓練の敵役をソルトらに頼んだ際、ティナ達女性騎士候補生第一班、クロエ・フィアレスの固有スキル情報を隠していた埋め合わせを、以前からローズは催促されていたのだ。


「あの......少佐? 本当に我々まで頂いて良かったのですか? これだと値段が」


 ルノが膝に手を置いて改まった様子で聞く。


「まあ気にすんな一士、お前らも育ち盛りなんだからしっかり食え。明日で休暇もおしまいなんだろ? 今のうちに(シャバ)の飯堪能しとけ」


「っだそうですよ大尉、俺らも存分に食いましょう」


 テーブルを彩る料理に、バーネットが手を伸ばした。


「そこの魔導師二人は自重しやがれ! ......まあ丁度良い、ティナ・クロムウェル騎士長。君に聞きたい事があったんだ」


「あ、はい、なんでしょうか?」


 改まった様子で口を開いたローズに、ティナもフォークを置く。


「直接交戦した身として、例の"吸血鬼"について君はどう考えている? 忌憚の無い意見が聞きたい」


 脳裏に彼女の姿が過ぎった。

 桃色の暴風とも言うべき、幼い見た目からは想像も出来ない程高い戦闘能力。

 エルミナと名乗った吸血鬼の少女が......。


「良いのですかローズ少佐? ここは公共、盗み聞かれる可能性もありますよ」


 隣に座っていたソルトが、透明なコップに透き通る様な水を入れながら警告した。


「周りがこれだけ賑やかなんだ、魔法でも使わなきゃ聞こえねえよ。それに、そもそもそんな輩が居ればソルト、お前が気付かない訳無いだろ」


 期待の眼差しを当てられたソルトは、「買い被りすぎですよ」と言いながら、冷水を料理で渇いた喉へと流し込んだ。

 カランッと涼しげな氷の音が、ティナ達の囲むテーブルを伝って響く。


「ーーこれは先日エルド少佐にも報告した事ですが、彼女には尋常じゃない強さはもちろん、何か大きな目的があるようです」


「"人類国家転覆"だったか? 随分物騒な話だな。確かにこの大陸で現在『国家』という巨大組織を形成する生き物は人間くらいだが、仮に転覆させたところで一体何がある?」


 問答が続く。


「分かりません......ただ、少なくともそこに至る段取りは進められていると考えます」


 こういった流れの会話は、実はティナの苦手とするところだった。

 現に、今もローズがさりげなく補完してくれているので応答出来ている状態だ。


「段取りか、国を相手するには"武力"......それも戦略兵器級の軍事力が必要だが、吸血鬼がそんな物用意出来るとも思えん」


「それが手段か目的か、結局"十年前"と同じく具体的には分からずじまいという事ですかね......」


 食事をつまみながらどこか落胆した、無力さを悔やむような声でソルトが呟いた。

 プラエドルの調査は現在も続いており、主要な街や地方の村々、果てには海軍が無人島まで赴いて、草の根掻き分ける想いでアジトを探していたが、成果は現在まで皆無だった。


「ーーねえ皆、こないだ行った洞窟覚えてる?」


 それまで沈黙していたクロエが、神妙な面持ちで口を開いた。


「ええ、もちろん」


 ギルド研修の時、ファルクスコーピオンから逃れる為に入った洞窟。あそこを指しているのだろうと考えた。


「あそこにあった『魔甲障壁』ってさ、一体"誰が"何の為に張ってたんだろう......って。あんな迷彩まで施してさ」


 その瞬間だった。

 テーブルをバンッと思い切り叩き、フィリアが勢いよく立った。


「それです!! それですよクロエさん!!」


 彼女にしては珍しく興奮気味の感情高ぶった様子に、ティナ達はもちろん、父親であるローズも唖然としている。


「あのーお客様、すいませんが店内では......」


 店員の注意で我に帰ったフィリアは「あっ、すみません」と言い、赤面しながら慌てて席へと戻った。


「それでフィリア二士、何か分かったの?」


 ルノとミーシャは研修に参加していないので、当然ながら状況がよく掴めない。

 コホンと一つ改まったフィリアが、簡潔に要点だけを纏めて説明した。


 【B】ランクの敵対生物に追いかけられ、逃げ込んだ洞窟の先に行き止まりが存在した事。そして、その壁が岩肌に見せ掛けた人口の障壁であった事を......。


「ーーなるほど。ソルト、バーネット、魔導師の立場として今の意見、どう捉える?」


「何者かによる隠蔽工作、そう考えるのが普通ですね。フィリア二等騎士の言う通り、『魔甲障壁』は高レベルの魔導師にしか展開出来ません。隠蔽までしていたとなれば尚更です」


「っつーと、例の吸血鬼以外にも強力な魔導師が敵に居るかもってことだが、結局それもまた謎か......」


 頭が痛くなるような話に、バーネットは紛らわすようにしてメニュー表を開く。


「だが有力な情報に違いは無い。こちらも早急にエルキア山脈及び周辺地域の調査を準備する。三遊諸君、付き合わせて悪かったな。改めて今回は遠慮なく食ってくれ!」


 何故自分達までタダ飯をさせてくれるのかと思っていたティナは、たった今情報という料金を払っていた事にハッと気がついたのだった。


 五人は食器を手に取り、各々好物を頬張り始める。

 朝から歩き回って腹を空かせていた事もあり、机上に並んだ皿は育ち盛りの少女達を前に、たちまち姿を消していったのであった。


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