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第46話 魔法道具デパート


『01、こちら04。感度確認されたし』

「こちら01、感度良好、通信に問題なし」


 中央通りに店先を構えた大きな魔道具店。この国の人々の暮らしを支える生活必需品である魔法道具を扱うこの店は、古い物から最新の魔道具まで幅広く取り揃えている。


 その店の二階、ティナとクロエは民生の短距離通信用魔道具を試用していた。


『04了解、こちらお値段八万六千スフィア、使用可能金額を乞う』

「04、値段が高すぎ、購入の余地無し。即刻返還せよ、アウト」


 飾り気を伴わせない幼いながらも無機質な声。

 『お試し用』と書かれた魔道具を元の棚に戻したティナは、フロアの隅から小走りで向かって来る通信相手を見た。


「ティナティナ! どうだった? ちゃんと聞こえてた?」


「聞こえてたわよ、っていうか......"本職"の私達がこんな

事してどうするのよ」


「えへへ、店員さんに変な目で見られちゃった」


 ミーシャとルノに街案内をする道すがら、最近開いたばかりのこの店で、五人は置かれていた目新しい魔道具に食いついていた。

 年齢的にも、新鮮な体験には見境が無いのだ。


「他の三人はどこ?」


 周りをキョロキョロ見渡しながらクロエが言う。


「フィリアならあそこに居るわよ、何見てるのかしらね」


 少し離れた場所にある文具コーナー、フィリアはマジマジとした様子で一本のペンを見ていた。


「どうフィリア? 良いのはあった?」


「あっ、はい! すごく良い物ばかりで思わず見入ってしまってました」


「ん? フィリア、それ買うの?」


 彼女が持っていたのは黒い光沢掛かった一本の万年筆。

 渋めの外観はフィリアというより、彼女の父親辺りが使っていそうなイメージを抱かせる。


「これって小説家さんが使うペン?」


「フィリア小説書くの!? じゃあさじゃあさ、私達がモデルのお話書いてみてよ! お願い!」


 興奮した様子でクロエが軽く懇願した。


「いえ......私ではなく、私の好きな作家さんが使っているペンなんです。あの美しい流れる様な文章、時に激しく時にゆったりと、文字というのは人類が生み出した至高の英知であると同時、それを操るプロの作家さん達にはもう感無量としか......」


「分かった! 分かったわ! あなたが小説好きなのは本棚を見ても十分わかるし」


 妙なスイッチが入ったフィリアを落ち着け、ティナはフロアを見回しながらもう二人いる筈の小隊員を探した。


「ミーシャとルノは他の階? そろそろお昼だし迎えに行きましょう」


 建物は五階立てからなっており、ティナ達が居たのは二階部分だ。

 階段を登って三階に行くと、興味深そうに魔道具を触る二人の少女が立っていた。


「流石都会と言ったところだねミーシャ。これなんてほら、魔道具がスッゴく精巧な絵を紙に模写してくれるんだって」


「インチキじゃないの? もう"絵"じゃないわよこんなの」


 二人共やってる事は二階のメンバーとほぼ変わらない。

 興味深い物に触れては機能を確かめていた。


「ミーシャ、ルノ。そろそろ行くけど気に入った物はあった?」


 一見すると田舎から来た普通の子供に見える彼女達に、後ろから声を掛ける。


「あっ、隊長、もうそんな時間でしたか。見てくださいよコレ!」


「ーー『魔導カメラ』? 初めて見たわ、どんな魔道具なの?」


 ルノは近くに通り掛かった店員を呼び止めると、「試用してみても良いですか?」っと尋ねた。

 店員も快く了承すると、『カメラ』をティナ達に向けて上部に付いたスイッチを押した。


 パシャッと軽い作動音が響いてからしばらくして、中から一枚の紙が出て来る。

 そこには恐ろしい程そっくりに描かれた自分達の姿が、背景と一緒に写っていたのだ。


「みっ、皆さんが紙の中に入っちゃいました! どういう事ですか!?」


「スゴイッ!! どうなってんの!?」


「これは写真と言って、この『魔導カメラ』で撮ったものは中に入れた紙へ全て写せるんです。お値段今ならなんとーー」


 溜めに溜めた店員はとびきりの営業スマイルを繰り出すと...。


「三十三万スフィアです!」


 笑顔と同様とびきりの値段を謳った。





「ーー結局、皆で折半して買っちゃったわね」


「小隊の共同所有物ってことで良いんじゃないです? いつ使うかはわかりませんが」


 店員の口車に乗せられたティナ達三遊は、五人でお金を出し合って結局カメラを購入していた。

 思わぬ出費に若干後悔するが、最新の魔道具を手に入れて嬉しい気持ちもあった。


「ーーあれ? 君もしかしてあの時の金髪ちゃん!?」


 店を出てすぐに掛けられたのは、聞き覚えのある声だった。

 それはもう数ヶ月以上前に実地された"対魔法訓練"の時、ティナ達女性騎士候補生の敵役を勤めて久しい、"おどけた魔導師バーネット"だった。


「よく見たら黒髪ちゃんと白髪ちゃんまで居るのか、後の二人は......」


「第三遊撃小隊、ルノ・センティヴィア一等騎士です」


「同隊、ミーシャ・センチュリオン一等騎士です。あの...隊長とはお知り合いですか?」


 初見となる二人が敬礼しながら自己紹介する。


「おう、その通りだ"青色ちゃん"に"亜麻色ちゃん"。彼女達とは教導隊のころに会っていてね、見事に打ち負かされたんだよ」


 相変わらず人を髪色で呼ぶバーネットは、笑いながら当時を思い出していた。

 その後ろ、もう二人見知った男性が立っていた。


「いやいや、うちの部下がとんだ失礼を働いてしまって申し訳無い。ーー久しぶりだね、ティナ・クロムウェル騎士長。"あの晩"の教官室以来かな」


「ったくバーネット、名前くらいいい加減覚えろってんだ。もう一度教導隊からやり直しても良いんだぜ」


 王国軍第四魔導師中隊、ソルト・クラウン大尉。

 そして、フィリアの父親であるローズ・クリスタルハート少佐だった。


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