第45話 駐屯地の朝
0600(マルロクマルマル)時。早朝の駐屯地に軽快なリズムの起床ラッパが鳴り渡った。
同時に、布団の中にいたティナ達は条件反射的にバッと起き上がり、無駄の無い機敏な動きで制服へと着替え始めた。
「クロエ起きなさいッ! また朝から腕立てはごめんだからね!!」
まだ涎を垂らして夢の中にいるクロエを、そのベッドに蹴りを入れて叩き起こす。
突然の衝撃に「ふわあッ!?」っとマヌケな声を出した彼女は、ベッドから転がり落ちるように起きるや、口元を拭って大急ぎで着替えを開始した。
「おはようクロエ二士、良く眠れたかい?」
「あんた、いつも隊長にそれされて起きてるの?」
既に八割程着替えたルノとミーシャが、寝坊常習犯のクロエに苦笑いで話し掛ける。
荷物の運び込みや手続き等を済まし、遂に二人は昨晩から同居人となったのだ。
最も、昨日はお互い疲れていた事もあり、ろくな会話もせずベッドに潜り込んでしまった訳だが。
「全員準備出来た!?」
ティナの問いに、制服を着込んだ全員が頷く。
「よし、じゃあ今日も一日頑張りましょう!」
「「「おぉーー!」」」
五人はそのまま自室を出ると、半長靴を履いてダッシュで朝の点呼へと向かった。
◇
点呼を済まし、部屋の片付けも終わらせた第三遊撃小隊の面々は、食堂で一日の基礎ともいうべき朝食を取っていた。
大きめの窓から朝日が差し込む食堂内は、大量に置かれた長机を挟むように椅子が一定間隔で並べられている。
「うわっ! ここの食事めちゃくちゃ美味しい! 言ったら悪いけど、前に居たアクエリアスの駐屯地よりずっと美味しい......」
ここアルテマ駐屯地は昔から食事に定評がある。
以前いたらしいグルメな騎士曰く、王都で行列ができる飲食店と十分張り合えるレベルとの事。
「そうでしょ? ほら、このスープも絶品って......ミーシャ?」
「熱ッッ!」
ふとミーシャを見ると、熱いスープを飲もうとしてはビクッと身体を震わせ、息を吹き掛けて冷ましながら少しずつゆっくりと口へ運んでいる。
「ねえミーシャ......もしかして猫舌?」
「ッ~! そっ、そうですが何か!?」
ミーシャが顔を紅潮させながら言う。
火炎系魔法を使う彼女が、熱い食べ物を苦手とする思わぬギャップに、ティナはある感情を抱いた。
「いや、猫舌くらい他の人も持ってると思うけど。ただ、ちょっと可愛かったなー......なんて」
「なッ!?」
今度こそ顔を真っ赤にしたミーシャが、スプーンを机に落とした。
この反応を見るに、普段からそういう事を言われ慣れてなかったのであろう。
「べっ、別に私なんて全然可愛いくないし! それに、猫舌って結構無駄な時間過ごしてる気がするし」
言いながらミーシャはスプーンを拾い、再び少し冷めたスープに手をつける。
「でも、その時間で"何か有意義な事を出来るか"ってなると話は別でしょ? 気にする事でも無いと思うわよ」
よく分からない例えに「それフォローのつもりですか?」と聞くが、ティナの無邪気さを含んだ笑顔に、ミーシャは何となく意味を感じ取った。
ーーやっぱりこの上司は苦手だなー......。
胸中で呟き、ミーシャは残り少ないスープを掬って飲み干した。