第44話 迷子
「いやー助かりました、実は私達今日王都に着いたばかりでして......。運良く隊長達に出会わなかったらいつ駐屯地に辿り着けたか」
青髪をポニーテールにくくった、ルノ・センティヴィア一等騎士が、救助された遭難者のように言った。
争乱の処理に区切りがつき、【アクエリアス駐屯地】から【アルテマ駐屯地】に異動となった二人は、この巨大な街に翻弄され、早朝から昼過ぎまでずっとさまよっていたらしい。
「生まれてからずっと住んでいてもたまに迷いますから、私達もついさっき帰ったところなんですよ」
「そういえば三人は休暇中だったわね、どこに行ってたの? ロンドニアとか?」
ミーシャの紅目がティナ達に向けられる。
「"冒険者ギルド"に研修へ行ってたの、一緒に依頼を受けてマナクリスタルを探してエルキア山脈まで行ったわ。色々あったけど、最後には冒険者の人達とも仲良く......」
我を忘れて冒険の思い出話をしていたティナは気付く。
ミーシャとルノの柔らかかった表情は固まりきり、顔面から血が引いていくのが目に見えた。
「冒険者と一緒にって......、どういう事ですか隊長!? まさか連中に弱みを握られて無理矢理......」
「いや......そんなのじゃなくて、普通にお互い仲良くなれたら良いなっていう想いで研修に行ったのよ。ほら、私達って長年喧嘩ばっかりだったみたいだし」
ミーシャの反応を見る限り、この溝を全て埋めるのは簡単ではないとティナは確信した。
「なるほど、今回のそれで冒険者の方と理解が深まったなら、将来的に見ても良い事だと思いますし、何より隊長達が研修で多くを学べたのでしたら私は異存ありません」
副隊長を担うだけあり、ルノは物事を冷静に見る力があるようだ。
案外、自分なんかより彼女の方が隊長に向いているのではないかと思ってしまう。
「そうだ、ミーシャとルノはこの街をまだほとんど知らないみたいだしさ、もう迷わないように王都の案内してあげるよ。後ちょっとだけ休暇も残ってるし」
「それは良いね、これから長期間滞在するのに地理を把握してなきゃ話にならない、ここはクロエ二士の案に甘えようかな」
ルノがすぐに賛成の意を示した。
「しょうがないわね、明日なら空いてるから案内されてあげても良いわよ。その代わり、お茶の美味しい喫茶店に連れて行ってよ」
ミーシャも賛成のようだ。
普段おどけてばかりのクロエからは想像もできない言動に、ティナはふと思った。
「クロエあなた......、偽物じゃないわよね?」
「んなッ!? ひどいよティナ! 私は本物だよ!!」
興奮したせいか、彼女の黒目は微かだが薄紫色に輝いている。
クロエの固有スキル『マジックブレイカー』がしっかりと発動しているので本物だ。
ティナは「ゴメンゴメン」と涙目で拗ねるクロエに謝った。
「それじゃあ私は一旦家に寄ってくわ。夜には報告の為に駐屯地へ戻るからまたその時」
「私も一度シャワーを浴びてから戻ります」
「じゃあ私は駐屯地のシャワールームでも使おうっと、家に帰っても特にすること無いしさ。ミーシャとルノには施設の案内とかをするよ」
各々とりあえずの行動が決まる。
数日を野外で過ごし、挙げ句湖に落下した三人は、一刻も早くサッパリしたいので心なしか歩調が少し早くなっていた。