第42話 冒険の幕引き
「よっしゃーッ! やっと王都に帰ったぞーー!!」
「帰ったぞー!!」
マナクリスタルという重い荷物を乾いた石畳の上へ降ろし、クロエとレイルが大手を挙げて叫んだ。
街を彩る木組みの家々に挟まれた陽気に満ちる王都中央通り。
大自然から帰還し、文明の色溢れる見慣れた商区にティナもホッと一安心する。
「皆お疲れ! 色々あったけどこうして無事に帰れた事だし万事オーケーね。依頼品のマナクリスタルは私達が届けておくわ。三人共改めて、研修お疲れ様!」
花の様に可憐な笑顔でフィオーレが締めくくる。
喫茶店で声を掛けてからここまででの時間は、思い返せばたまゆらな、楽しくてスリルいっぱいの冒険であった。
ティナ達も、今回同行してくれた冒険者二人に精一杯のお礼を伝える。
「普段じゃ絶対できない経験ばかりでとても勉強になったわ! 二人共、短い期間だったけど本当にありがとう」
「ありがとうございました!」
「ありがとう!」
「これからもギルドに顔くらいは出せよ、俺らはもう友達なんだし遠慮するこたねーよ。なんならついでに奢ってくれても......イッテェッ!?」
マナクリスタルを一挙に背負ったフィオーレが、レイピアの鞘でレイルの脳天を打ち付けた。ガツンと鈍い音が活発な大通りに響く。
「痛ってえなフィオ! いきなり後ろから殴るんじゃねえよ!」
大げさに頭を押さえたレイルが抗議した。
「そういうのは普通逆でしょ? もっと仕事して早くツケ払い終えて、私に紅茶の一杯でも奢ってみなさいよ。もう昼夜食を私が賄うのは嫌だからね」
「フッ、週三日以上働いたら負けだと思ってるんだ、悪いがそいつは無......グホォッ!?」
どうしようもないレイルの言動に、フィオーレは再び鞘で彼の脇腹を突いた。
痛みに悶絶して俯いたレイルの背中に、マナクリスタルの半分をドカッと背負わせる。なかなかの強行手段だ。
「まだクエスト受注から三日目だから全然運べるわよね? それじゃあティナ、クロエ、フィリア、機会があればまた会いましょう! お疲れ様!」
冒険者フィオーレとレイルは、依頼品のマナクリスタルを持ってギルドへと向かう。
ティナ達はその姿が見えなくなるまで見送ったが、やはり胸には例えやすく言うと穴の空いた様な、ポッカリとした寂しさが残った。
「言ってしまいましたね......」
哀愁漂わせたフィリアが呟く。
だが、そんな空虚感は人垣を突き抜く喧々とした声により掻き消えた。
「もーっ! どこなのよここーっ!! 王都って言うくらいだから覚悟はしてたけど、まさかここまで広いなんて」
それは、亜麻色のセミロングに燃えるような紅目を持ち、凛とした容姿の少女。
「いやいやミーシャ、まだ希望はあるよ。こういう時は人に聞くのが一番って言うし、ここは適当に当たってみよ?」
青色の髪をポニーテールに纏め、風のように爽やかな雰囲気を吹かせたもう一人の少女が言う。
二人は『三型戦闘服』を身につけており、一目で騎士と、一目で彼女達と気が付いた。
しばらくして、青髪の少女がこちらへ近付いてきた。
「あのーすいません、私達王国軍のアルテマ駐屯地に行きたいんですけど、道とか知って......ない......ですか?」
向こうも気が付いたようで、証拠に喋っていた言葉が途切れる。
「久しぶりね、ルノ、ミーシャ。駐屯地はあそこに見える王城の隣にあるわよ」
「てぃ、ティナ・クロムウェル小隊長!? クロエ二士やフィリア二士まで。ぐっ、偶然?」
「久しぶりね隊長。元気そうで良かったわ」
王国軍第三遊撃小隊、ミーシャ・センチュリオン一等騎士。
同隊ルノ・センティヴィア一等騎士。
彼女達はアクエリアスで知り合い、共に争乱で戦った同じ小隊員であった。
冒険者ギルド研修編はこれにておしまいです。
次回から新章へ向けてスタートです!