第37話 蒼空の和解
モチベーションの低下で執筆速度がちょい低下してしまってます。
暑いですしね~(;´д`)。皆さんも夏バテ気をつけましょう。
「ーーいッ......! ......おいッ!! しっかりしろ!!」
暗転した視界の中、遠くから呼び掛けてくる誰かの声が聞こえる。ティナが重いまぶたをゆっくり開くと、光と共にぼやけたレイルの顔が映り込んだ。
同時に、思い出したかのような痛みがティナの頭を打ち鳴らす。
彼女が持つ直前の記憶では、遺跡が謎の上昇を始めてから十数秒、体が浮き上がる程の衝撃と共に天井が崩落したのだ。
記憶もそこで途切れてしまっており、何が起きたかはイマイチ漠然としない。
「痛たッ......、あれ、ここは?」
遺跡の表明が山の上層付近に飛び出してしまい、同時に上をまたがっていたドーム状の天井もバラバラに崩れているようだった。
どういった理由で山中の遺跡が突然上昇したかは不明だが、ティナ達はエルキア山脈の山頂近い平らな広場に放り出されていた。
上体を起こしたティナが、ズキズキと痛む頭を押さえながら周りを見渡す。
季節に見合わない寒風が強く吹き荒れ、そのおかげか思ったより早く意識もハッキリする。開けた視界へ飛び込んできたのは、青々とした蒼空だ。
「って寒っ! 何で私達外にいるのよ!?」
「そんなのこっちが聞きてえよ、噴火でもなさそうだしどうなってんだか......。あと、他の三人はもう起きてるぜ。だがどうもフィリアのヤツが岩に足をやられちまってな、一応ポーションは飲ませたんだが立てずにいる」
「えッ!?」
大急ぎで立ち上がり、慌ててフィリアの座る岩影へと走り寄る。
見ると、応急処置等は済んでいるようだが右足に巻かれた包帯は痛々しく、クロエとフィオーレが心配そうに見つめていた。
「フィリア! 大丈夫ッ!?」
この場合の問い掛けは怪我の有無では無く、返事ができる状態かを急遽確かめる為の確認であった。
「あっ、ティナさん、ご無事で良かったです......ッ!!」
まだ痛むのか、フィリアの表情が歪む。
「私なんかよりあなたの方が重症じゃないの! とにかく無理に動いちゃダメ! いざとなったらおぶってでも下山するわ」
「ティナさんは相変わらず人の事ばかりですね、アクエリアスでもミーシャさんが愚痴を言ってましたよ。『私達の隊長は他人の為に平気で身を投げ出す』って」
ミーシャのそれは騎士として良いのかとも思うが、彼女の過去を鑑みればしょうがないと言わざるを得なかった。
「ごめんフィリア、さっきから全然カバーできなかった......」
「いえ、クロエさんが謝る事ではありません。『魔甲障壁』すら展開できない私の力不足です。それより、ファントムはどうなりました?」
「そこの瓦礫の下だ、正直このまま埋もれてくれりゃ助かるんだが......」
そんな事を言ったせいだろう、数秒も経たずして、散乱していた瓦礫から呼応したかのようにファントムが続々と起き上がって来る。
だが幸い、その数は先程よりずっと少なく、しかも大分弱っているようだった。
「あの影、大半は岩の下敷きになったのかもね。だけどまだ油断はできないわ、この後どうする? ティナ?」
「敵の殲滅を最優先、あと下山方法も考えないと......」
とはいえ、ティナ達がいるのは雲すら見下ろせる程の高さを持った山の上だ。登山道も無く、あるのは半壊した遺跡群と岩肌だけ。
足を負傷したフィリアもおり、短時間では歩いて下りられそうに無い。
そして、それとなく周囲を見渡していたティナは、ファントムの様子がどこかおかしい事に気付く。
一体一体が一カ所に集まり、それぞれの体を寄せ合い始めたのだ。それはやがて一つの巨大な影を形成し、大きく変貌を遂げた。
不気味に光る赤い目の付いた顔は人にも獣にも似つかず、空へと翻した両翼は新月の闇夜が如し暗さを持っていた。
「ア"ア"ァ"ァ"ァ"ァ"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ッッッ!!!!」
咆哮は山頂一帯へ轟き、頭の奥まで突き刺してくる声に思わず耳を塞いだ。
ガンガンと鼓膜を叩く破壊的な奇声は、並行して恐怖を駆り立てる。
「どうするティナ? 正直かなりピンチだと思うんだよね~」
「私が行くわ、皆はフィリアを守って......」
ティナが言いながら前に出ようとした瞬間だった。
遮るようにして、レイルとフィオーレが巨大化したファントムの前に立ったのだ
「なあフィオ、俺達さっきからずっと嫌悪してた騎士に助けられっぱなしで何もできてないんだが......、そこ冒険者としてどう思うよ?」
「忌憚無く言わせてもらえばちょっと......いえ、かなりカッコ悪いわね。おまけにクエスト失敗なんてなったら、フェニクシア一生の恥だわ」
二人は剣を鞘から抜くと、日に反射して光る剣先をファントムへと向けた。
「お前らはフィリアを守れ、ゴブリンといいファルクスコーピオンといいあそこまでしてもらったんだ、俺達も少しは恩返さなきゃな! 遅れんなよフィオ!!」
「了解!!」
それは、今日まで誰も想像しえなかった光景だった。
王国軍騎士と冒険者。互いが互いの為を想い、今仲間として信じ合い背中を預けた。
数日間の小さな旅は、数十年の大きな溝を一気に掻き消したのだ。