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【完結済み】蒼国のクロムウェル ~希望の空と王国の騎士~  作者: たにどおり
冒険者ギルド研修編
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第31話 冒険の仕度


「で、その採取クエストの内容はなんなんだ? 手軽であわよくば報酬が多いと嬉しいんだが」


「うーん、ちょっと待ってね......」


 王都中央通りは相変わらず人の行き交いが活発で、あちこちに並ぶ出店はお客を呼ぶ為、皆張った声を上げている。

 そんな活気で出来たトンネルのような道を、ティナ達五人は談笑しつつ歩いていた。


「レイルは甘いねー、世の中相応の苦労と貢献をしてこそお金が入るんだよ。っていうかギルドでの食事代、一体いくらツケてたのさ」


 相変わらずクロエは会って間もない相手に呼び捨て&タメ口で接していた。その様子に、ふと会ったばかりの会話をティナは思い出す。


「ぐっ......、んなこたあ分かってるよ。ちなみにツケてたのは"ほんの三十万"ってところだ、ったくマスターもケチなもんだぜ」


「三十万って、結構大きい気もしますが......。冒険者ってそんなに稼げるんですか?」


 フィリアが苦笑いで聞いた。


「難しいわね、大金を手に入れようと思ったら命がその分だけ危険になるのよ。当然そんな危ないのは極力避けるのが普通だし、単純な年収なら騎士のあなた達が上になるわ」


 軍の騎士は、基本的に王国国防省の職員と数えられるので、事実上国家公務員扱いだ。

 命の危険と引き換えに給料は安定しており、月収は現在クロエとフィリアが十八万、騎士長のティナは二十三万程貰っている(これに夏のボーナス十五万が追加)。


「こんなガキが俺より稼いでるだと......、ありえねえ! 何かの間違いだ! そうに決まってる!!」


「事実なんだから受け入れなさい、それよりこれ、クエスト内容」


 フィオーレが渡したそれは行商人からの採取依頼書で、真ん中には石のような絵が描かれ、下に『高純度マナクリスタル』と書かれていた。


「マナクリスタルって魔道具の源になってる? ってか高純度ってどういう意味?」


「さあな、魔法杖にでも使うんだろ。問題は場所......ッッ!?」


 示された位置を見たレイルは思わず卒倒しそうになった。

 楽に手早く終わりたいという彼のはかない願望は、【エルキア山脈】という文字によって木っ端みじんに砕かれたからだ。


「なあフィオ......皆がこれ避けてた理由って、つまりあのーあれか? いわゆる危険過ぎるクエストだからだよな?」


 ショックで語彙まで少しおかしくなったレイルが、フィオーレに再確認する。


「そうでしょうね。【エルキア山脈】といったら、王都から南西に位置する雲より高い山で有名よ。おまけに敵対生物もいるとかなんとか......、でも見て! 報酬六十万スフィア! もし成功したらあんたのツケも全部払えるわよ」


「六十万っつったって、ここにいる五人で分けたんじゃどう考えたって足んないだろ」


「忘れたの? 私達は研修で来てるからお金は受け取れない。だから、報酬はレイルとフィオーレで山分けになるわ」


 ティナの言葉を聞き、レイルはまた呼び捨てになっている事にも気付かず、嬉しさから拳を天へと振り上げていた。

 それだけマスターのお仕置きが怖いのだろう、剣士の風格はどこえやらであった。


 っとここで、ティナは脳内から大事な要素が欠けている点に気付いた。それは騎士や冒険者であれ、戦いに最も必要な物だ。


「そうだ武器! 普段使ってる装備は官給品で、武器科の管轄だった事忘れてた! 任務以外じゃ持ち出せない!」


 王国軍は官品管理が徹底しており、武器一つ一つは厳重に保管されていて任務時にしか使用出来ないのだ。

 つまり今回、《ストラトアード》や《七五式突撃魔法杖》といった軍装備は一切使えなかった。


 ちなみに、『三型戦闘服』は武器ではなく制服の一つなので、駐屯地外でも自由に着用可。


「あーくそッ、仕方ねえ、とりあえず武器買いに行くぞ。それとポーションだ!」


 冒険に必要な物を一式揃えるべく、五人は駆け足でまず武具屋へと向かった。





 お世辞にも大きいとは言えない武具屋。その店内でところ狭しと並べられた武具に囲まれたティナ達は、とりあえず自分の手に馴染みそうな武器を片端から探していた。


「ねえティナ、これなんてっ......どうかな?」


 クロエが見せて来たのは、背丈の二倍以上はありそうな槍。

 完全に立てれば天井を削るだろう長さに、ティナは「真面目に選びなさい」と即却下する。


 初めて来る武具屋はとても新鮮で、より取り見取り、多種多様な装備で溢れ返っていた。クロエが興奮するのも少し分かる。

 でもだからこそ、命を預けるに相応しい武器をしっかりと選ばなくてはならないのだ。


「ティナさん、こちらのはどう思います? この杖、材質は木ですが軽くて結構ちゃんとした作りになってるんです。私はこれにナイフを組み合わせようかと」


 さすがフィリアといった、実に堅実な選択である。


「良いんじゃない? ナイフはサバイバルにおいて一番頼もしい道具よ。私も買おうかしら」


 教導隊時代、ティナ達は座学で教官からもし山に一つ持っていける物があるなら、迷わずナイフを選べと教えられた。

 なんでも、それ一本で自衛から調理、道具製作と幅広い使用ができ、生存率は大幅に上昇するという。

 そんな教育がしっかり施されていたからこその選択だった。


 後は流れで各々カウンターに行き購入すると、日陰で待つ二人の冒険者の元へ向かった。


「やっと選び終わったか? こっちは待ちくたびれたぜ。って......えらく買いこんだな。小さいのにそんな重い装備で大丈夫か?」


「大丈夫、これぐらい問題無いわ。騎士がこれぐらいでへばってちゃ話にならないじゃない」


 レイルが心配するのも無理は無かった、幼い体型に見合わず、三人共決して軽くはない装備を身に纏っていたからだ。


 ティナとクロエはショートソードを腰に下げ、同時にショートボウを装備。矢弾は二十本備え、更にはナイフまで一本ずつ持っていた。

 フィリアは木製の魔法杖を持ち、サバイバル用のナイフを二人と同じく携帯していた。


「でもさすがにお金掛かったよ......、食費にしたら一体何日食べれたことか」


 遠い目をしたクロエが呟くが、命よりはずっと安いと折り合いをつけるしかない。


「もうポーションは買っておいたから、あとは各自荷物を整えるだけね。それじゃあ明日の朝五時にギルド前で集合しましょう!」


「了解したわ。クロエ、フィリア、0500(マルゴーマルマル)までにギルド前。装備点検は余念無くね」


「「了解」」


 冒険者と騎士。二つの相いれなかった者同士は、今共に小さな冒険へと旅立つのであった。


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