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【完結済み】蒼国のクロムウェル ~希望の空と王国の騎士~  作者: たにどおり
冒険者ギルド研修編
29/101

第29話 冒険者と騎士


「んーっ、美味しい! 生地がとてもしっかりしていて、クリームも濃厚。舌の上で抱き合ってるみたい」


 パクパクとおいしそうにケーキを食べ進めるフィオーレの手前、ティナ、クロエ、フィリアの三人は、室内の気温も低いというのに汗が止まらなかった。


 それは、彼女が冒険者であり、自分達が王国軍騎士という立場上の問題から発生する摩擦によるものだ。


「ティ、ティナ......これ。黙っといた方が良いのかな?」


 クロエが小声で聞いてくる。幸いフィオーレはケーキに夢中で、こちらに全く気がついていない様子だ。


「当たり前じゃない! バレてみなさいよ、一体どんなトラブルに発展するか......」


「ここは悟られないよう、不本意ですが嘘をついてこの場を切り抜けましょう」


 王国軍と冒険者ギルドは、お世話にも仲が良いとは言えない間柄だ。ここは、フィリアの言う通りうまくごまかすしか無かった。

 とりあえずケーキを食べ進める三人。だが味なんて感じられず、無言で口の中へほうり込んでいく。


「ねえ、三人は普段どんなことしてるの? 私はギルドで依頼をこなしたりしてるわ」


 このフレンドリーな接し方も冒険者ならではなのだろうが、今のティナ達にとっては心臓が飛び出そうになるレベルの質問であった。


「えっ、え~っと......ランニングで十五キロ走ったりとか、山登りをしたりしてるわ」


 有効な返しが思い付かず、とっさに教導隊での訓練を挙げてしまった。

 だがそこは言葉のあや。"装備"や"行軍"という単語を抜くだけで、さも日常のような表現ができた。


「健康的! だから三人共そんなにスタイル良いのね。他は何してるの?」


 次はフィリアの方を向く。


「勉学ですね、日々様々な知識を得る為講義はサボりません。主に文字や算術、それから専門用語、体術やサバイバル訓練、近接戦と......」


 途中でフィリアの口が止まった。

 どうやら後半の違和感に気付いたようで、自らの口を慌てて塞いだ。


「すごく勉強熱心なのね。でも体術やサバイバル訓練なんて、まるで"軍人さん"みたい」


 軍人さんなのだ。

 もうこれ以上の失態は許されない。全ての頼みをクロエに託し、一蓮托生の想いで彼女に賭ける。


「こう見えて掃除とか得意なんだ。洗濯はもちろん、ベッドメイキングとかね。半長靴(はんちょうか)を磨くのは隊内でも一番自信あるし、大砲の掃除や前に教官が起こした大嵐も即効片付け......むぐッ!?」


「あははっ、クロエってばおかしな話するわねー! こないだ雨だったからその時雨漏りでもしたのかしら!?」


 これでもかという程ボロを出したクロエの口を、ティナが全速で押さえ付ける。


「訓練......? 大砲? もしかしてあなた達って......」


「違いますよ! 決して騎士ではありません。ティナさん、今何時でしたっけ?」


 本気で焦っているフィリアが、ティナに決死のごまかしを振った。

 まさかこれがとどめの一言になるとは思わず。


「いっ、今はねー、"ヒトサンマルハチ"に......あっ」


 よく訓練された時間報告である。このような読み方をする集団は王国にたった一つしか無く、答えを教えたも同然だった。

 微妙な空気が立ち込める中、しばらくしてフィオーレが吹き出した。


「フフッ、やっぱり騎士だったんだ。私が冒険者だから気をつかってくれたのね。でも安心して、そんなことで嫌悪したりなんかしないから」


 予想と反対の答えにしばらく呆然としていたが、ティナはすぐさま思考をまとめた。


「えっとじゃあ、あなたは別に私達が騎士でも嫌がったりしないの? 結構不仲なイメージがあるんだけど」


「確かにそうね、だけど私達冒険者も、普段から騎士の人達に邪険にされてるんじゃないかって思ってるのよ。それに、もっと仲良くなれたらいいなって」


 ここで、フィオーレから信じられないような提案が出された。


「そうだ! ねえ三人共、ここで会ったのも何かの縁なんだし、せっかくだからうちのギルドへ来て一緒にクエストへ行かない? きっと親交も深まるわ」


 王国軍騎士と冒険者がパーティーを組むなど、本来は絶対にありえなかった。しかし、このフィオーレという少女は今その常識を覆そうとしていたのだ。


「でも私達バイトや副業とかは禁止で、報酬も軍以外から貰っちゃダメっていう内容で契約してて......」


 騎士は本業にのみ尽くし、その他の職業を掛け持つ事は禁止とする。又、仕事による物質的な報酬は軍のみからしか受け取ってはならないと契約書に書かれていた。

 従って、ギルドでクエストという仕事を行い、お金や物品等の報酬を貰うというのは契約違反に該当したのだ。


「なるほどね、じゃあ"研修"名目ならどう? これならギルドで冒険者として直接契約しなくても良いし、報酬はお金や物じゃなくて経験になるわ」


 こうして、三人はその日の内に研修許可書を書いて、上官のエルド少佐へと提出したのだ。

 エルドがこれに書かれた研修先を見て目眩を起こすのは、翌日の事である。


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