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【完結済み】蒼国のクロムウェル ~希望の空と王国の騎士~  作者: たにどおり
冒険者ギルド研修編
28/101

第28話 冒険者フィオーレ


 アクエリアス争乱から早一週間と少しが経とうとしていた頃、ティナ、クロエ、フィリアの三人は、二週間の休暇を満喫していた。


 本日の天気は快晴、明るくも熱を持った日光が王都の石畳を強く叩き付け、ジリジリとした暑さを発生させている。

 大通りを行き交う人々も、額を汗で濡らしては拭いての動作を延々繰り返していた。


 そんな方々とガラス一枚挟んだ喫茶店の中。冷房用魔道具の冷気が存分に行き渡る店内で、ティナ達は優雅に涼みながら紅茶をすすっていた。


 勤務時は暑いことこの上ない長袖の軍服に身を包まなければならないが、休暇中は別である。

 ティナは薄手のトップスに、ショートパンツを組み合わせた身軽な格好。クロエはティナとほぼ同じ服装にチェックのシャツをウエストマークしている。

 フィリアも薄手の白いワンピースを着ており、心なしかティーカップが妙に似合っている。


 駐屯地から(しゃば)へと出てしまえば、彼女達も一人の女の子。可愛い服を着て、美味しいスイーツを頬張りたいのだ。


「フフッ、我ながら素晴らしい店を見つけたわ。ちょっと高いけど、頑張って働いたご褒美だと思えば。休暇と一緒に特別手当だって少し出たしね」


「いやー、さすが我らが小隊長。休暇中の避暑地はここで決まりだよ」


「涼しくて、落ち着いた雰囲気で、紅茶もすごく美味しいです」


 各々満喫しているようだった。

 身内でもなければ、今の彼女達が王国軍の騎士だとは誰も気付かないだろう。


 しかし、よく知る者が見れば、仕草や行動といった要素一発でバレるかもしれない。

 王国軍騎士は常に見られていると意識し、外では私服なれど心に制服を着よと、よく言われている。


 その証拠に、ティナ達はここでも机とお腹の間を拳一個分キッチリ開けており、姿勢や行儀もかなり良かった。


「お待たせしました、限定ショートケーキでございます。ご注文の品は以上でよろしいでしょうか?」


「はい、ありがとうございます」


 丸い白地のテーブルに置かれた三皿のケーキ。コレこそが、本日訪れたティナ達の本命たる限定スイーツだ。

 広告で見た通り、幾重にも重なった生地の間には光沢の乗ったクリームがカットされたイチゴと共に挟まれ、頂点には玉座に座った王が如く一個の紅いイチゴがドンと乗っている。


「こっ、これが噂の限定ケーキっ! おいしそう......いや、絶対おいしい!!」


「待ちきれません。ティナさん、早速いただきましょう!」


 クロエ、フィリアがリアクションと同時にフォークを取る。

 ティナも気持ちは二人と一緒で、少しだけ甘く芳醇な香りを楽しむと、フォークを持った。


「「「いただきます」」」


 食に対する感謝を込めて、いざフォークで切ろうとした瞬間だった。

 出入り口付近から、取り乱したような声が聞こえてきたのだ。


「えっ!? 限定ケーキ......もう売り切れちゃったんですか!?」


 ふと声の主を見ると、薄い金髪を背中まで伸ばし、白が基調のブレザーとチェックが入ったミニスカート、ニーハイソックスを着用するたおやかな十五歳ぐらいの少女だ。

 その格好は、二年前【学校】なるものが作られる事になった際デザインされた制服と酷似しており、この国では見慣れないものだった。


 この学校というものは『大侵攻』によって計画を白紙に戻されてしまったが、数着試作で作られたという当時の制服は残っていたのかもしれない。


「そんなぁ......、今日の為に色々頑張ってきたのに...」


 シュンと落ち込み肩を落とす少女。自分達の前には手付かずの限定ケーキがあり、移すべき行動は一つだと確信した。


「あのー、もし良かったら一緒にどうですか? 席も一つ空いてますし」


 ティナの問い掛けに、少女は慌てた様子で首を横に振ると、「そんなっ、申し訳ないです!」と拒んだ。


「食事は皆でした方が楽しいしさ、遠慮なんて必要無いよ」


「はい、こちらとしては全然大丈夫です。それに限定ケーキ、今日逃したらもう食べられませんよ?」


 クロエの駄目押しに加え、フィリアの"今日"という時間を与えない誘いに、少女は「うっ......」と呟くと、五秒程その場でタジタジした後、三人の座るテーブルへと歩み寄ってきた。


「じゃ、じゃあ...お言葉に甘えて。ありがとうございます」


 どこかしらのお嬢様だろうか。とても上品な雰囲気を纏っており、椅子への掛け方も品があった。

 三人はそれぞれケーキを三分の一に切ると、少女へと均等になるよう分けた。


「ホントにゴメンね、お代は後でちゃんと払うわ。この恩は一生忘れない」


「ケーキくらい別に大丈夫よ、そういえば自己紹介がまだだったわね。私はティナ、こっちは友達のーー」


「クロエ!」


「フィリアです、どうぞよしなに」


 三人共職場ではないので、階級は除いて名前だけを言う。

 だが、相手の少女からは予想を大きく上回る自己紹介が返ってきた。


「私はフィオーレ! 付き合いの長い友人からはフィオって呼ばれてるわ。【冒険者ギルド:フェニクシア】に所属してる冒険者よ」


 紅茶を飲んでいた三人は思わず咳き込んだ。

 『冒険者』。王国各地を探索し、モンスターの討伐や商人の護衛までこなす何でも屋であり、王国軍が抱える問題の一つだった。


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