火竜の方が俺だ!そして兄だ!
いきなりだが 転生というものをみんなは信じるだろうか
俺は信じている
いや 信じざるを得ない 何故なら俺が転生を経験してるからだ
なんだか酔い潰れて知らぬ間に死んだらしい
そう教えてくれた自称神様は実は死因にちょっと関わってるんだごめんと軽く謝ってきた
「なんだって!酷いですね 慰謝料要求しますよ」
「そこで一つ選ばせてやろうと思ってな、凄い身分か 凄い力か好きな方を選べ」
「凄い力で」
即答だった 凄い身分とかやめてくれ、上の地位とか責任がどうとかひどく面倒くさい
それに凄い身分で酷い力なのと 酷い身分で凄い力なのどちらがなんとかなりそうかと言ったら俺なら後者だ
身分には義務も伴うが能力的にそれをこなせないのは困る
そう言い終わるかどうかというタイミングで足元に穴が開いて俺は落ちた やる気無さそうに手を振る神様がどんどん離れそれとともに意識も遠のいていった
それからどうなったって?
集落ですくすく育ってる途中だ!
だが 自分が卵から産まれたり まさか双頭竜の片割れになるとは思ってなかったがな
火竜の父さんと水竜の母さんから生まれた あれだ突然変異
そう向かって右側俺からしたら左側が俺だ
神様は約束通り凄い力を俺にくれた
俺はまだまだ幼い火竜なんだが火力が凄い やろうと思えばチャーハンぱらっぱらにできるくらいの大火力、まぁ本気を出せば中華鍋が消え去るくらいだが
あーこんなこと言っていたらチャーハン食べたくなってきた
叶わない夢に項垂れる俺
うな垂れたその鼻の先には湯気立ち上る出来立てほやほやの屍体
そう 屍肉。
この世界の竜は雑食だが、基本は肉食だ
そして生食だ!
なぜだ!高い知能を持ちながら!なぜ調理しない!!せめて、せめて焼肉にすべきでは無いのか!!!
「兄さんまたなんなの?良い加減に食べなよ」
脳内で高らかに焼肉食べたがっていたら弟から呆れた目線を頂いてしまった ごちそうさまです
「なぁ弟よ なぜ竜は加熱しないで食べるんだ?」
「焼くと硬くなるじゃん」
「腹壊したりしないのか?!」
「この程度で壊すわけ無いじゃん」
ごもっともです
にくい…この丈夫過ぎる体がにくい
ぐぬぬ としてると呆れながらも弟が代わりに食べてくれた
俺の愛すべき右側が元人間としては食べたく無いものを食べてくれてるおかげで生きていける
「ありがとな〜弟がいなけりゃ生きていけなかったよ」
「…いい加減その偏食直しなよ ほら」
そう言いつつも氷の刃を生み出し器用に肉の半分をスライスするように細かく切ってくれる
「焼きたいなら焼けば」
「できる弟を持つと違うな〜さすが弟」
文明とは程遠いものの焼肉まがいの物は食べれる
皮ごととか無理、マジ無理。
シャケも皮や血合いはとってたのに丸ごととか本当に無理。
俺が食べなくても弟が食べれば死なないけどたまには娯楽的に食べたくなる
木の実も美味しいがやっぱり味覚に合うのは肉だから 手間をかけ綺麗に捌いて内臓も皮もとって肉は薄切りしてくれる弟には本当に感謝しかない
あ゛ーこんなできた弟が俺の弟で本当にいいのか?
「ありがとな〜本当にいい弟だよ」
「… 」
「ん、何か言ったか?」
「別に」
そっけないけどわかってる!こんなまめで優しい子この集落にはいません!!
嬉しくなって首を擦り付けても弟は一瞬驚いたようだがされるがままになってくれた
いい子だ…
この生まれはともかく、少なくとも弟を弟にしてくれたのは神様に感謝すべきかな
と ちらりと思ったがそれより焼肉を焼くための岩を探すのに忙しかったので感謝したのはだいぶ後になってからだった
いや でもほんと感謝してるからね
「できる弟を持つと違うな〜さすが弟」
兄さんがまたあほなことを言ってる
どこができる弟なんだろう 兄さんに比べたら、いや比べるのも烏滸がましい
「ありがとな〜本当にいい弟だよ」
「…兄さんの方がずっとすごいじゃないか」
「ん、何か言ったか?」
「別に」
楽しげに鼻歌とともに煙をだす兄さんを見る
特にやりたいこともないので体を動かすのを好きにさせていたら岩を温めその上に肉を並べ始めた …いつ見ても意味がわからない
こんな兄さんでも 何よりも誰よりもすごい兄さんなのを僕は知ってる
僕と兄さんは火竜の父さんと水竜の母さんから生まれた双頭竜だ…しかも火竜と突然変異の氷竜の双頭竜だ
違う種類の竜同士でごく稀に生まれる双頭竜は幼体はやたらと死にやすいけど成体になると大概の竜に圧勝できる強さを持つ 種を持たない一代限りの強者
強いものが尊敬される竜はみな僕達の誕生を最初は祝った
でも 僕が氷竜だとわかると一気に失望に変わった
それでも無事成体になれたのは兄さんが当代一の火を吐けたからだ
火竜は火を吐き 水竜は水を吐き 風竜は風を吐き 土竜は土や岩を吐く
しかし氷竜は氷を吐けない 氷は水が凍ってできるものだから水竜の助けがないと扱えない
ただ僕に吐けるのは凍てつくような白い息だけ
物理的に力のない白い息は周りのため息を誘った
そんな僕と兄さんは仲良くなれるはずがないと思っていた
無遠慮に話しかけてくるのも 絡んでくるのも本当に煩わしかった
どうせ あんたも氷竜だってバカにしてるんだろ?と なんど叫びそうになったかわからない
ただ 死ぬのは怖かったから大人しくしていた
弱くいらない頭なら捨てていっそ火竜になればいいのにと何度も言われているのを知っていたからだ
自分より劣るものがいないと満足できないなんて 可哀想なやつ、そう兄さんを思って溜飲を下げていた
でもある日兄さんが俺のことを「すごい弟」と言ったのを聞いて頭にきてしまった
首に噛みつこうとした僕を牙を剥き出して威嚇して何をすると言うからこれまで感じてた憤りを僕も牙を剥き出しながらぶちまけた
「兄さんは火竜だからわからないんだろ!なにがすごい弟 できる弟だ!!本当は蔑んでるんだろ?霞しか吐けないトカゲモドキが同じ肩についてて恥ずかしいんだろ?!!言えよ!僕を庇ってる自分が好きだって」
それを聞くと兄さんは口を閉じ本気で訳が分からないという顔をしてきた
「お前そんなこと思ってたの?」
「そんなこととはなんだ!事実だろ」
兄さんがため息をつく
それさえもむかつく
「俺はすごいと思ったからすごいって言ったのに曲解し過ぎだろ?」
「氷竜のどこがすごいんだ」
「は?一気に冷やせるんだぞ?超強いじゃん」
なにあたりまえのこといってるの
やだーみたいな顔をしてくる
顔で語るな 苛つく
「納得してないみたいだから教えてやるよ」
「兄さんと同じ経験してきた僕に教える?偉そうに」
「納得できないなら今後褒めたりしないから一度付き合え」
そう言うと無理やり岩場まで連れて行かれた 付き合えもなにも繋がってるんだから付き合うしかないじゃないか
尻尾や脚で同じくらいの岩を2つえぐり出し広いところに離して置いている
「じゃあまずは俺だけでこいつを敵に見立ててどうにかする」
そう言うと左の岩に火を吐き出した
火を浴び続けた岩は徐々に赤く光りあるところで急にどろりと形を崩した
この火力…幼竜のくせに燃えない岩をも溶かすちからは凄まじい
…なんなんだ 見せつける気か?
苛々しながら見ていると兄さんは俺に右の岩を冷やすように言いだした
「頼むぞ 中までしっかり冷やしてくれ」
意味がわからない
こんな比べられるように並べて力を使えだなんて とても悔しいし、正直悲しい
「…わかったって やればいいんでしょ」
やけになって思いっきり冷やした
岩に霜が降りるくらい冷やしてやって満足かと兄さんを見ると嬉しそうに舌を遊ばせていた
「さすが見込んだだけあるな!そしてみてろよ、お前の力を」
そういうとまた兄さんは火を吐き出した
ビシッ
なにかが軋む音がした
あまりにも一瞬でわからなかったが兄さんはすでに火を止めて嬉しそうにしてる
あの一瞬で岩は2つに割れていた
訳がわからない
兄さんの方を呆然と見ると鼻の穴を広げて首をそらせて大声で叫びだした
「どうだ!弟の凄さをみたか!これが敵だとしたらどうだ?あの硬いのを一瞬だぞ これでわかったか」
正直わからないけど、兄さんが本気で僕のことをすごいと思ってくれてたのはわかった
「それにしてもさすがだな、時間かければ溶かすとかできるけどやっぱ真っ二つは爽快感が違うな」
なにも力がないと思ってた
バカにされてるかと思ってた
なのに兄さんは僕の凄さを教えてくれた
なんだろう水竜でもないのに目から水が止まらない
「…兄さん」
「なんだ 弟」
「僕、すごかったんだね」
「当たり前だろ お前は俺の頼りになる片割れだからな」
兄さんにはあたりまえのことなんだ…そのことが嬉しかった
きっと兄さんは同じものを見てても思った以上に違う風に見てたんだね
首を振り、雫を落とすと兄さんにごめんねと謝った
「ごめん兄さん 知りもしないで色々言って」
「もとからそんなに怒ってないし解ればいいんだよ解れば」
「兄さん…これからも僕に色々教えてね」
「いいぞ」
そういうと兄さんはこの話は終わりとばかりに森に戻り今日の夕飯は魚にしようかなの歌を作り歌いだす
これまで力で驕ってる 頭の悪い変なやつと思っててごめんとさすがに口には出せないので心の中で謝っておく
僕は周りから言われる弱者である僕を信じすぎてたみたいだ
これが僕の力を知れたことで初めて自信というものを手に入れた日だった
でもまさかこの後
「白い息ってあれだ 白が見えるんだから水分含まれてるだろ絶対、集めりゃ氷できるって 信じてやろうぜ」と兄さんが無責任にいい
出来たらいいなと希望半分に練習したら出来てしまい氷竜として初めて氷を吐いたものとして一目置かれるようになるとはさすがに思ってもいなかった
本当にすごいのは、兄さんなのにね
炎氷の双頭を見ると誰もが恐怖で凍りつく
暗い赤のゴツゴツとした鱗を纏う右の竜はどの竜より太く熱い炎を吐く
薄い青の飴細工のような繊細な鱗を煌めかせる左の竜は氷竜なのに冷気でなく氷を使う
力ある2つの首の付け根から鱗は徐々に混ざり合い 体を覆うのは流線型の赤い縁取りの薄い青の鱗
とても美しい竜なのに
同種の竜さえ 誰も彼らに触れようとしない
兄の火竜は気のいい奴だが突拍子も無いことを平然とするため近くにいるとそれに巻き込まれる
弟の氷竜は物静かで火竜には礼儀正しいがその他のものに向ける目はまさしく氷、火竜以外を憎んでる
そしてなにより2つの口から交互に吐かれる炎と氷の威力は凄まじいの一言につきる
幼体の時に岩山を壊して見せてから誰も逆らわなくなった
綺麗で恐ろしい竜さえ恐る化け物
そんな化け物に見つかったものにはこの化け物が過ぎ去るのを待つしか無い
ただし、人間は運がいいのか悪いのか必ず近寄りこう尋ねられる
「なにか食べ物持ってない?」
凍る瞳の氷竜を従え、火竜が今日も旅人に真っ赤な口を開け人懐こく裂けるほどに笑った
双頭竜の森のお守り
美味しい料理