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7話

 5話については大変申し訳ございませんでした。以後、このようなことがありませんよう気をつけて参ります。

 7月は第五日曜日もあったのか…二週に一回と言った手前、五週目分も投稿しないとダメだよなぁ…ということで投稿してみました。

 いくらなんでも私にしてはこれは早いな、と思われたかたもいらっしゃるかと思いますが、これは5話に関するせめてものお詫びのつもりです。


 それと小説情報で予告していた新プロローグも同時に投稿いたしました。以前のはどちらかというとただの1話目のような感じでしたので…

 新タイトルへの関連付けも含めてプロローグっぽくしてみました。

「……どうするか」

 階段の踊り場でたたずむ僕たち。

「セラがどうしたいかでいいんじゃないかな?」

「そうだな」

 そう、僕たちは重要なことを忘れていたのだ。つまりそれは男女比が3:1であることを。セラが誰かと同じ部屋にならなくてはならないことを。

「む、私が誰と同じ部屋がいいかということか?」

「ああ」

「誰でもいいんだぞ。というのが正直なところなんだぞ」

「誰でもいいのかよ」

 ルークも若干呆れぎみに溜め息のように言葉を吐き出す。

「いくらなんでも13歳の私に手は出さないと思うんだ。それにみんなのことは信用してるんだぞ」

 あ、13歳なんだ。日本人は童顔と呼ばれているからもう少し下だと踏んでいたのだが。

 日本人的な顔立ちだからかな?なんにしても割と見た目の年齢と実年齢との繋がりが僕の感覚に近い部分がある。

「…会ったばかりの僕のことまでも信用できる人に入れていいの?」

「リオンは悪い人じゃないんだぞ」

「それだけで済む話じゃないんだけどなあ」

 僕は片手で頭を抱えるが、本人が気にしないと言っている以上どうしようもならない。少なくとも僕には。

「まあ、信用されてることは悪いことじゃないからいいんだけどさ」

「そうやって聞いてくる時点で信用に足りるんだぞ」

「それはそうかもな」

 ルークのお墨付きを得たからこれ以上、何か言っても無駄かな…。仕方ない、話を進めるか。

「…で、どうする?」

「みんなで決めて欲しいんだぞ。決められないんだぞ」

 悩んだから丸投げしたのに結局、自分たちで決めることになってしまった。

「と言われてもなあ…どうするか」

「ど、どうしようか」

 ここに来て初めて口を開くリク。流石に置いてきぼりは寂しかったのだろうか。どっちかというと大人に近い僕達が決めるのがいいから話に入ってこれないのは仕方ないんだけど。

「うーん、ルークかな?付き合い長いだろうし」

「いやいや、俺はお前の方がいいと思うぜ」

 理由を聞いてみると答えは「お前の方が顔立ちがいいから出てきたところを見られても犯罪臭はしないからな。」と言われてしまった。それなら、リクでもいいじゃんかと言うと外見的に子どもが二人一緒に出てくるよりは大人と子ども一人ずつの方が良いとのことだ。あの僕、童顔なので大人に見えにくいんですが、それは。それに加えて心配というのもあるらしい。主にリクが。

 うん、確かにちょっと心配。なんかよくわからないけど心配。

「よし、リク決めよう」

「え!ええっ!?そっ、そんな大事なこと決められないよ…」

「どっちの意見に賛成かだけで良いんだよ。反対意見とかいわなくていいからね」

 この子は反対意見とか恐れ多くて言えないタイプだと感じていたから、こういうことはあらかじめ言っておくに越したことはない。

「え、えーっと…じゃあ、ルークの意見にさ、賛成でお願いします」

 最後はゴニョゴニョとしてて消え入りそうな声ではあったが何とか言いたいことはわかるので全然問題はない。問題はないんだけど……つまり、僕がセラと同じ部屋だと。そういうことになってしまった。

「よし、リオンで決定だな。セラ、ダブルとツインどっちが良い?」

「ダブルだぞ」

 ちょっと即答すぎやしませんか。

「ええ…」

 なぜに。どして。男と同じ部屋に泊まるならせめてツインでしょ。間違いが起こらないように。

「おっけー」

「…マジかよ」

 そこはお願いだから突っ込んで欲しかった。ルークもさらっと許可だして…ああ、もういいや。どうとでもなれ。


────────────


 結局、セラと同じ部屋になり、同じベッドで寝ることになったリオンことリオハルトです……。なんかいかがわしい風に聞こえなくもないが、手は出さないよ。なにがあっても。


 今は既に僕達は部屋の間取りを確認し終えて、風呂も済ませたところだ。ちなみに風呂は一階の奥にあった。

 風呂の間は日本のこととか思い出せて気分的にもリフレッシュできた感じだ。それといい湯加減でした。全く、元地球人様々である。寝巻きようの服は替えを持っていなかったが、下着の替えはあったので下着だけかえていた。レドナルス邸には本当に感謝している。

 あ、言い忘れていたが、操作魔法のなかにバックの容量を拡張するものがあり、アイテムボックスみたいに虚空の異空間から取り出せるわけではないが、ポーチでも普通のリュックサックぐらいの容量は入るようにはなっている。所謂、空間魔法ですね。


 ただこの世界、魔法の維持はできないので常に魔石を容器に繋いでおく必要がある。この魔石は魔物から剥ぎ取って入手する必要がある。

 ちなみにもう一つ魔石の入手法がある。いや、厳密に言うと入手法ではないのだが。

 魔石には個体によって属性があるのだが、この属性ありの魔石は生活必需品なのだ。火を起こすにも水を手に入れるのにもこの魔石は使用されている。しかしながら全ての魔物に属性ありの魔石があるわけではなく、無属性の魔石が過半数を占めているとされている。でもそれでは供給が追いつかない。

 ということで属性の変換をする技術が生まれたのだ。

 これは「聖晶石」というある洞窟で発見された物が鍵になるものだとか。この「聖晶石」という物体は特殊な性質を持っていて"周囲の魔力を隣接した属性の魔力に変換する"らしい。しかしこれは非常に危険なもので、素手で触ると体内の全ての魔力を吸いだしてしまうのだ。それだけなら自然回復するだけで済むのだが、どうやら魔力を生み出す器官も停止してしまうらしく、永遠に魔力欠乏症へとなり、最終的に苦しみながら死に至るのだとか。

 これを利用して魔石の属性の変質化を起こすらしい。詳しいことは知らない。

 そしてこのポーチに繋がっているのがそれの下位互換の「魔晶」と呼ばれるものだ。これは素手で触っても特に何も起きず、周囲の魔力をある程度取り込み蓄える性質があるのだ。つまり、壊れない限り魔力の永久機関となるわけだ。まあ、約3年という寿命があるからそうはならないのだけれど。入手も難しい品らしい。強い魔物の中で特別強い個体が体内にもっているらしい。今回のこれはテンペストタイガーのものだ。


 前述が長くなってしまったが、そのおかげでポーチのなかにはある程度の衣類はあるということだ。しかし、先程言ったように寝間着がないのでこの服で寝ることになる。…一応、予備として燕尾服が入ってたりするが、こればっかりは使う機会が来ないと信じたい。

「誰もいないか…」

 鍵をあけ、入るとやはりセラの姿はなく、風呂へ行っていることが窺える。

 そうそう、この宿には鍵を二本渡してくれるという親切さがあった。恐らくは日本とは違い、娯楽目的ではないため個別行動が多い冒険者への配慮だろう。

 現在は光魔法の魔道具であるランプで明るいが外はもう既に夜の(とばり)が下りている。風呂場へと持っていっていた道具を片付けると窓の方へと足を進める。

 窓を開けてみるとそこには二つの月のようなものが浮かんでいた。しかし、それは月よりも僅かに大きいものと一回り小さいものであり、月ではないのはわかる。大きい方が青色に、小さい方は赤色に輝いている。


 僕は昔のことを思い出しながら星空を眺める。

「どうしたんだ?」

「ん?セラか、戻ったんだね。いや、少し昔のことを思い出しててさ」

 振り返りもせず、声からセラだと判断し空を見続ける。

「そうなのか。…村のことなのか?」

 ああ、そういうことになってたっけ。

「いや、違うよ。まあ、確かに村も心配だけどさ。どこかで生きてるってわかってる分、そこまで思うところもないしさ」

「…そうなのか」

「セラがそんな悲しそうにしなくても」

 つまり、嘆いてくれているのだ。会って間もない僕のために。

「…そうだね、普通は悲しんで苦しんで、自分の無力さを嘆くんだろうね。でも、だからこそ僕は違うことを思い出そうとしてるんだよ」

 セラの頭には沢山の疑問符が浮かんでいることだろう。僕の目には遠くに見える弱々しく光り、輝く星々しか目に入らないけれど。それでもなんとなく分かる。

「…訳が分からないよね?でも、それでいいんだよ。分からないままでいいんだよ」

「…なら何を思い出してるんだ?」

 セラにはそれしか言えること、聞けることがなかった。分からないから分かろうとしていたものを分からなくていいと言われて。何を言ったらいいか分からなくなって。

「うーん…見えなくなったものをもう一回見えるようにするための手がかりかな?」

「それはなんなのだ?」

「うーん…何て言ったらいいのかなあ…それはさ、偶然触ってしまうことはあっても自分の意思では触れられないものでさ」

 僕は窓の外の空に手を伸ばす。

「近くにあるのはわかるんだけどそれがどこにあるのか僕には見えないんだ。まあ、他の人にはあるように見せてるんだけどね」

「何を言いたいんだが、さっぱりわからないんだぞ」

 僕からはうかがい知ることはできないけど、セラは難しそうな顔をしていることだろう。

「これもやっぱりわからなくて良いんだよ。ただ僕が誰かに聞いてほしい気分になっただけなんだ」

「そうなのか」

「そうなんだよ」

 風が窓から入り込み、髪がなびく。今は結んでいないので髪の毛が少し大変なことになるがまあ気にしない。先程、風呂場の脱衣所で魔法を使って髪の毛は乾かしていた。

「…綺麗な髪なんだな」

「そうかな?ありがと。まあ、流石に長いから切る予定だけどね」

 遠い遠い星空を眺めるのを切り上げて窓を閉める。するとさっきまで入り込んでいた涼しい風がとまり、僕の髪はなびくのをやめる。それから後ろを振りかえるとベッドに座っているセラの姿があり、可愛い真っ白なネグリジェを来ていた。今もなお、タオルで髪の毛を拭いているがまだまだ髪は濡れたままだった。

「って、セラ。髪の毛まだ濡れてるね。おいで乾かしてあげるから」

 外気に当てられ温度の下がった部屋。セラのお風呂で温まった体を冷やさないためにも。僕みたいに冷えきらないためにも。

「…ありがとうなんだぞ。でもどうやるんだ?」

「まあまあ、見てなって」

 手招きをしてセラを椅子に座らせる。この椅子は部屋の端に置いてあった机の前に置かれていたものだ。その机の上に僕の荷物を置いていたので、そこにあるポーチから先程しまったばかりの木製の櫛を取り出して机の上に出しておく。ちなみにこれは手作りなので手で持つところは少し粗いが髪の毛をとかす部分は丁寧に作ったので問題はない…はずだ。レドナルズ邸にはニスのようなものも従者用の部屋の一つにあったので使って作ったし…大丈夫だと思う。現に使っている感覚には特に違和感はない。

「『乾きを欲する風(ドライヤー)』」

 そう唱えると、左の手の平から温風がふく。

「ひゃっ!びっくりしたんだぞ」

「あ、ごめんね」

 温風にビックリしたのか、セラは可愛い声をあげる。でも少しすると温風に慣れたようで温かい風にリラックスしてくれていた。とりあえず手櫛でとかしながら全体的に乾くように温風を当てていく。

「…便利な魔法なんだな」

「うん、そうだね。…まあそこそこ魔力くっちゃうんだけど」

 継続的に温風を出し続けるのはそこそこの魔力をくうのだ。それこそ中級魔法並みには。



 暫くするとだいぶ乾いてきたので櫛を使っていく。

 櫛をいれた瞬間少し強ばったが、すぐに落ち着いてくれた。

「…気持ちいいんだぞ。なんて道具なんだ?それ」

 僕はセラが櫛がなんていうものか聞いてきたことに表情にこそ出さないものの内心驚いていた。櫛って取り扱われてないのかな?

「あれ?こういうのって売ってないの?櫛っていうんだよ」

「クシ…聞いたこともないぞ」

 やはり浸透していないっぽい。石鹸やらはあったのだが…それは元地球人の功績だ。どうやらこの世界は娯楽に疎いようだ。

「いつもはどうやってるの?」

「手でとかしてるぞ」

「あらら、じゃあ髪の毛の管理とか大変だね」

 そうしてセラの髪の毛をとかし終える。

「はい、終わり」

「おお!綺麗に乾いてるんだぞ。こんなの初めてなんだぞ」

「それは良かった」

 僕は嬉しそうにしてるセラを見て、にっこり笑う。

「ありがとうなんだぞ!」

「どういたしまして」

「普段もやってほしいんだぞ」

 この世界ではドライヤーの魔法は多分僕しか使えない。魔力量がばかみたいに多い僕だからこそためらいなく使ったが、実際、他の人にとっては戦力を思いっきり削ぐようなものだから仮に思いついても試そうと思う機会は少ないはずだ。

「わかったわかった。あ、でも教会に住んでるんだっけ?」

 良く良く考えてみるとこれは教会に住んでいる理由を聞くチャンスだ。

「うん、そうなんだぞ。正確には教会についている孤児院なんだけどな」

 ああ、なるほど。そういうことか。

「…リオンは私に悩み?を話してくれたもんな…やっぱりリオンみたいに私も誰かに聞いて欲しくなったんだぞ。だから少し話すぞ」

 僕の話はやはり分かってはいなかったようで疑問形になっていた。それでも、僕にとって大切な話であったのはわかってくれていたようで、自ら自身の過去を話す決断をしてくれた。それは信頼されている証拠で、信頼が深まった証拠で、僕には酷く重たいものだった。

「…うん、わかった。ちゃんと聞くね」

 セラがベッドに腰かけたので僕もその隣に座る。セラはどこか遠くを見るような目で口を開く。

「私な。昔、お母さんとお父さんと一緒に暮らしてたんだぞ。鬼族って嫌われているみたいでな、周りから酷いイジメを受けてたんだぞ。それで周りの人が好き勝手やって私を殴ろうとした人達から私を庇ってお母さんとお父さんは殴られて殴られて殴られて、そして息をしなくなっちゃったんだぞ」

 凄く凄く重い話。僕なんかより、ずっと不幸で、ずっと辛い過去を持っている。目の前の少女がそれを体験したのだと思うと酷く酷く悲しくて、酷く酷く自分がどんなに小さな人間か思いしらされる。

「それでな、辺境伯様がなんと酷いことをするのだとそのお父さんとお母さんを殺した人々を奴隷流しにしたんだぞ」

 辺境伯はいい人なようで、彼女にとっても尊敬に値する人と思われているようできちんと様付けになっている。

 ところどころ言葉足らずではあっても、伝えたいことは、意味は、伝わってくる。

「辺境伯様は言ったんだぞ『本当にすまない。無論、こんなことを言うだけで許してくれるとは微塵も思えない。…だが、私にはこうして謝罪する以外の方法を持ち合わせていない。だから、せめてもの償いとして最低限の生活は約束しよう』と言って、私を孤児院へと預け、孤児院へ凄い金額の寄付を行ったんだぞ」

 そうか、それが辺境伯にできる最大限のことなのだ。恐らくは養子にとったりして守ってやりたかったのだろう。だが、鬼族の子を養子にしたとなると外見は良くない。外見が良くないと今後、それを理由に今の地位からおろされるかもしれない。そうなると守ることすらできなくなるのだ。

 しかし、孤児院への寄付ならば辺境伯の領土内から文句は言われることはあっても、他の貴族からお小言を言われることはない。なぜならそれは建前上不可能だからだ。

 そして恐らくはその孤児院だけでなく、他の孤児院にも寄付はしたはずだ。不公平にするわけにはいかないからね。

「孤児院のみんなの生活は良くなって、簡単なお風呂もできたんだぞ」

 凄い金額の寄付ってほんとに凄い金額だな、それは。

「へえ、それは良かったね」

「うん、嬉しかったんだぞ。シスターのお姉さん達も優しいし、友達もたくさんできたんだぞ」

 嬉しそうに話す、セラ。ああ、彼ら彼女らのおかげで今のセラがあるのか。

「でも、私もそろそろ独り立ちしなきゃいけないんだぞ。だからシスターのフィーシャさんに頼んで冒険者にして貰ったんだぞ。でも流石に危ないってことでポーターをやって稼ぐことにしたんだぞ。フィーシャさんにはいつも心配かけてるからあまり心配させ過ぎたくはないんだぞ」

「そうなんだ、だったらあまり無茶はしちゃダメだよ」

 ポーター。

 ポーターっていうのはパーティーの荷物を運ぶ人のことだ。剥ぎ取った素材や討伐証明部位などを運ぶ人のことで。ポーター登録することで荷物を運ぶ代わりにランクは自分のランクより二つ上までのパーティーに入ることができる。基本は後衛で支援をしたりするのも兼任しているらしい。

 ただ、ポーターは下に見られることも少なくなく大変な職業だ。一応、ポーターはアタッカー(ポーターじゃない冒険者のこと)と同等の権利を有する。とギルドでも決められており、仮に荷物を運んでいるだけで命の危険が少ないから、という理由で報酬を少なくなくされた場合、ギルド側に訴えるとその主張の正当性が確認された場合、不正を行った人達は処罰される。となってはいる。

 事実、嘘発見器みたいな魔道具が、高価ではあるがギルドに一つずつ置いてある。それを利用して審査するのだが…ただ使用するのにもお金がかかってしまう。実際には使われないことの方が多いのは現状だ。

「勿論だぞ、それに私とパーティー組む人はアルデシアさんと面談があるから悪い人には当たらないんだぞ」

 アルデシアさんは過保護だと思われるかもだが、実際その必要性はあるので特に何も言うまい。子どもを送り出す身だもんね。

「話したら少しすっきりしたんだぞ。この話、誰にもいったことがなかったから人に話すっていいんだな」

 セラは見ている方も心が暖まる子どもらしい笑みを浮かべていた。それが僕の胸に突き刺さる。

「誰にも話したことのない話を僕にしても良かったの?」

「リオンが自分のこと話してくれたから自分のこと話したんだぞ」

「そうなんだ」


 それなら仕方ない。僕に言えることはなにもない。


「さってと、寝ようか。僕、明日試験があるからさ」

「そうなのか、私も今日は眠いんだぞ」

 セラの顔をよく見るとすっきりとした顔、しかし同時に眠そうな顔をしていた。

 枕元にあったランプの魔道具を消すと横になり、タオルケットのようなものをかける。

「おやすみ、セラ」

「おやすみなんだぞ…」

 そういってセラは瞼を閉じる。軽く撫でてやると気持ち良さそうにして、寝息をたて始めた。

(久しぶりに長い一日だったな……)

 僕は隣から伝わってくる懐かしい温もりに身を委ね、眠ろうとする。


(折角の二度目の人生だ…、僕もはやく答えを見つけないとな…)


 着実に眠りへと意識を傾けながらも決意を新たにする。

 しかし、それを妨げるようにセラは僕の腕を抱いてきた。慎ましくはあるが確かにある二つの果実が当たる。が、子どもが抱きついて来ただけだと自分に言い聞かせ眠ることにして目を瞑る。

「お父さん…」

 ただただ温もりを求めるように渇望してやまないように、そう寝言で呟くセラ。乾きばかりが伝わってくる声音が僕の耳にすらも乾きが伝わってくる気がする。いつかこの子には悲しみの雨ではなく恵みの雨が降る日々が来て欲しい。


 僕のように凍ってしまう前に


(ああ…そうか…だから人肌の温もりを感じられるダブルを選んだのか…)

 と今さらながら気づかされる。セラはどんなに大人であろうとしていようともやはり子どもは子どもなのだ。精一杯大人のふりをした子どもなのだ。歪に成長してしまった子どもなのだ。そう思うと何故だか温もりを与えたくなって、この子の頭に手を置いて髪の流れにそって動かすことを繰り返す。


 近くに温もりがあるのだと教えて上げるように


 君は今、一人じゃないのだと教えて上げるように



 もうしばらくセラを撫でていようとしながらも

 でも睡魔は着々と迫ってきていて



 そうして僕は徐々に暗闇へと身を委ね、意識を手放した。

 暗闇の中で感じる温もりと聞こえてくる静かな寝息は、とても心地が良いものがあった。

 次の投稿予定日は8月の第1土曜日です。ストックがほとんどありませんが自分への罰ということで


 別件なのですが、新タイトル気に入っていただけたでしょうか?個人的にはとても気に入っています。だってラノベっぽいタイトルですもの。

 以前の話では凍解は「いてどけ」と読むらしいと言いましたが、凍解は「とうかい」とも読めるそうです。なんでも凍解氷釈(とうかいひょうしゃく)という四字熟語があるのだとか。

 私は春の季語で調べたので凍解(いてどけ)と読むことにしますが、読んでくださる皆様はどちらでも大丈夫ですので。

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