3話
三日目どす
今日、3話の修正してたら日本語が色々酷かったよ、ハハ
意識が戻ってくると瞼に焼きつくのは光。それほど強くなく、風を感じるとその光は点滅する。
ゆっくりと目を開けると一番始めに目に入ったのは視界を埋め尽くす緑。
その間から光の柱が落ち、幻想的な雰囲気を醸し出す。
「森かな…?いや、なんかの敷地内みたいだね」
起き上がり見渡してみる。
(クシリア様に頼んだから人はいないはずだけど…)
僕が倒れていたのは塀のなか、その中に建てられた洋館。蔦が多く張り巡らされ、暗い森の中でも明かりがあるようには見られない。庭は広いが、半分ぐらいは木の葉の陰で覆われている上に長年放置されていたのか雑草は生え放題で、物理的だけでない暗さが漂う。
「確かに人はいなそうだね」
僕は恐る恐る立ち上がる。
「この感じ…懐かしい感覚だ」
この感覚は本当に久しぶりだ。立ち上がるということを久しくできてなかった僕には地面を踏みしめる感覚は懐かしい感覚であり、自分の体重が足にかかる感覚を噛み締めるようにしばらく立ち尽くす。
しばらくそうしてから建物内を目指して、玄関の前につく。
「ごめんくださーい。誰かいますかー?」
一応、ノックまでしてからそう言ってみたが、やはり返事はない。
(こんなこといったところで、いたとしても言語が違うから通じるはずないんだけど)
扉を引き、開け放つとまず目に入るのは両脇にある階段。広々としたロビーには釣り合っているといえる立派な階段だ。多分かなりのお金持ちだったに違いないと僕は思った。
僕の今の格好は不釣り合いな格好であり、髪を束ねていた髪ゴムは転生と同時にどこかへいったらしく、髪型は男らしいとはいえない。クシリア様の好きな色は銀色だったようで、髪の毛は綺麗に光り輝いている。また服はごわごわしていて目は粗い。恐らく地球でいうところの麻のようなものだと思う。ズボンは茶色で上は黒。Vネックのような形をしているが胸元はボタンですらなく紐でとめるもののようだ。
(とりあえず一階からまわってみようかな)
階段下にあった扉を開けてみると両手を広げてもまだ余りのある廊下だ。壁にはランプのようなものがあり、僕はそれを観察してみる。どうつけるかも想像が出来ないからこそ、興味をそそられるものがあった。
よく見ると下の方の出っ張ってる飾りがレバーになっているようで、それを下げると廊下の灯りがすべてつく。
(へえ…これ、連動してるんだ…)
そうやって興味がわいたものを観察しながら見つけた部屋を開けていく。あったのは風呂場や、おおよそいたであろう従者たちの寝室。反対側の廊下には大きな食堂やら、食料庫。厨房など様々な設備が揃えられていた。ちなみに食料庫には沢山の干し肉があった。おおよそ三ヶ月はもつだろう。恐らくクシリア様が入れておいてくれたのだろう。まったくクシリア様々である。
二階に行ってみるとあったのは大きな寝室やら豪華な個室がなん部屋か、あとは書斎。書斎にはもう一つ部屋が繋がっていて、そこには書庫があった。好奇心の赴くままに読もうとしたのだが、いかんせん文字が読めない。
しばらくは解読に勤しむ日々となりそうでわくわくする。知らない言語の解読なぞ、一生に一度できるか出来ないかの体験だ。
それから僕は干し肉を書斎へと移動し、本と格闘する日が始まった。
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僕がこの世界アルモワールに来てから二ヶ月という月日がたった。あれから立って歩くという久々の感覚を思い出しながら、様々なことをやってきた。
ではこの二ヶ月の成果を発表するとしよう。
まずは僅かではあるが文字の読み書きができるようになったのだ。これは非常に大きい。案外、人間やれば出来るものだ。ただ、解読するのは想像だにしないほど難しかった。この屋敷の主だった人や従者の日記や、倉庫の奥深くにあった絵本などを使いながらなんとか読めるように努力した。そうしているうちに文法が判明し、そこからなんとか…といったところだ。
そしてその結果判明したことはまず魔法の種類だ。火、水、土、風の四代元素だけでなく氷、雷、闇、光、回復があった。まあ、これはライトノベルにも結構出てくるのですっと頭のなかに入ってきた。そして聞きなれない魔法が生活魔法と操作魔法、星天魔法。生活魔法は浄化や、発火等のおおよそ生活に必須であろう魔法だ。消費する魔力は少ないらしく、誰でも簡単に覚えられるらしい。これはものによってはラノベで出てきてたな。そして操作魔法はおおよそ念力のようなものらしい。レヴィテーションなどのものを浮かせる魔法の他、その上位と思われるサイコキネシスなどがあり、使い勝手がよさそうな魔法だった。星天魔法は…よく分からない。ただ一つ言えるのは凄く強そうだということだけだ。まだこの辺の解読は曖昧なのだ。致し方ないことである。
あと他にわかったことはこの家の持ち主だ。名前はレドナルス・アルミナトというらしく、研究者だったようだ。そうそう、言語解読のことなのだが、意味がわかり始めた方は読み方が分からない分覚えるのはかなり大変だったのだ。しかし、途中でなぜかクシリア様が夢の中に来てくださって簡単に文字の読み方を教えてくれた。大体、母音やら法則がつかめたのでもう既に発音できる状態にある。
…本来の予定としては文字だけ覚えて耳が今まで聞こえなかった。が、見知らぬ人に治してもらい聞こえるようになった。だからその見知らぬ人の名前を知るためにも文字の読み方を教えて貰おう、というものだったのだが、問題がなくなったので無用の長物となりはてた。ただ、神様があんな簡単に教えに来ていいものなのかは甚だ疑問である。
レドナルスさんは魔物の研究をしていたらしく、生態調査をするために住んでいたらしい。名字があるうえにこの屋敷の設備からいって、貴族であったのには違いない。でもなければこんな魔物だらけの場所に家を建てられるはずがないのだ。十年ほど研究をしていたようだが、病にかかり病死したらしい。庭に墓石らしきものが立てられていたのでまず間違いないだろう。文字を覚えてから墓石に「レドナルス・アルミナトここに眠る」と彫ったのはいい思い出だ。
すべて日記に記されていたことだが、そこには元高ランクの冒険者らしいことが記されていた。「クラス参ではやはり調査できる魔物に限りがあったか…。ソロで活動しているからBランクの魔物が精々であるし…。若いうちに努力し、クラス弐並の力を身につけておきたかったが、既に過ぎたことである。後悔しても遅いのはわかっている」と記されていたのだ。恐らくクラス壱が最高ランクなのだろう。これを読んだときによくあるライトノベルの設定と違ってアルファベット表記じゃないのにがっかりしたものだ。だって、あんまりしっくりこない…。
そろそろ干し肉を食べ続けるのも限界が来ているから、魔物を狩って食べようと思うのだが、いかんせん攻撃手段がないのだ。
さしあたって魔法を覚えようと思っている。一ヶ月でできるかどうかは分からないが、なんとかなると信じたい。
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そう決意してから1年という月日がたった。
それで魔法に関してだが、あれから3週間ほどで辛うじて発現に成功していた。とはいえ、できたのは生活魔法だけで、火魔法やら水魔法などの四代元素の魔法はそこからさらに一ヶ月かかってようやく初級レベルの取得に成功した。とはいえ、それでは狩りにはまだ威力は足らないので、屋敷にあった倉庫から引っ張り出してきたロープを使って、罠を作り罠に捕まった魔物を武器庫にあった槍で遠くからちまちま攻撃して狩るというのが日常になっていた。ただこの罠はくくりわなというもので日本では違法な罠だったのだが、ここは日本じゃないので全くもって問題はない…はずだ。余談ではあるが、最初つくるときは頭にある知識だけで作っていたのでかなり時間をくってしまったのは仕方のないことだ。
ちなみに最初のうちは罠で捕まえて、反撃できない魔物をひたすらナイフで切りつけていたのだ。しかし、1度緑と白の配色の大きな虎を捕まえたときのことなのだが、そのときは流石にナイフでは近すぎて身の危険を感じたので槍を武器庫へとりに帰って攻撃することにしたのだ。だが、それでも風魔法による反撃をくらってしまい、気に叩きつけられて打撲を負ったのではあるが。
あとでレドナルスさんの調査記録を拝見したところ、テンペストタイガーというBランクの魔物だったらしい。道理であんなに刺そうとしても刺さらなかったのかとなっとく納得したものだ。まあ、なんとかなったんだけど。
内容として、途中からは土魔法で真ん中に辛うじて拳を通せるような穴がある壁を作り、その穴から槍で攻撃するという手段をとっていた。それでもまるでダメージを与えている感じがしなかったので火魔法で炙ってた。
この方法は非道な方法だと思われるかもしれない。だが、よく考えて欲しい。あんな化け物みたいに強そうな虎を正々堂々倒せる訳がない。ついこの間まで生き物すら殺さない日本人だったのだ。どだい無理な話である。
虎の話で思い出したのだが重要なことがもう一つあった。どうやらこの世界にはレベルが存在するらしい。ゴブリンや、フットラビットというカンガルーと兎が混ざったような魔物のときは気づかなかったが、虎を倒したときは経験値が大量に手に入ったのか、力が沸き上がってくる感覚があった。ジャンプしたときに二階の窓に手が届いたときは目が点になったものだ。
ただ、どうやら魔法に関してはどういうわけかレベルに関係ないらしい。
テンペストタイガー倒した後と前では威力が変わらなかったからわかったのだ。しかしなぜレベルと関係がないのか、それが不思議でたまらない。常日頃考えているのだがどうにも納得がいかない。答えを出すのはもう少し世界を見てからが良いかもしれない。
余談ではあるが、スライムは罠には引っ掛からない。ロープで吊り上げようとしてもあの通り半液体な生物だから普通に抜けていく。
無論、出くわしたこともあったが、火魔法で火球を飛ばしたら勝てた。スライムは残念すぎる程に弱かった。ゴブリンですら2発だったぞ。最近では一発でもオーバーキルだけど…。
そんなこんなあったわけではあるが、来てから丁度1年がたつ筈だしそろそろここを出なくては勿体ないと身体が訴えかけてくる。本はすべて読み漁ったのでここにはもう用はないはずだ。というか野菜。野菜を食べたい。肉ばかりで栄養が偏ることなんの。本を読んでいたら山菜の図鑑みたいなのが見つかってそれでなんとかしのいでだけども流石に素人目で分かるやつしか取れなかった。もう食べ飽きたよ。
「長い間、クソお世話になりました!」
その言葉を口にして、僕は旅へ出発した。…一回言ってみたかったんだよ。誰もいなくて良かった。
え?あっさりし過ぎてる?仕方ないじゃん。
まだ知らぬ知識がっ!未知がっ!僕を待ってるんだっ!
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数日がたったところでやっと見える範囲に光が見えてきた。まだ見ぬ光景が待っているかと思うと、いても たってもいられず僕は走り出してしまった。
そして急に視界が開ける。僕は眩しさに目を細めるが、すぐに慣れて辺りを見回す。
そこに広がっていたのは見渡す限り続く草原だった。
遠くを眺めるように見ると道があるのがわかるし、点々と魔物が活動しているのも窺える。
(道にそっていけばそのうち町につくかな?)
僕はそう思うと道を目指し歩く、途中一体の魔物に見つかった。ハウンドラットというカピバラサイズの鼠だ。いや、カピバラも鼠ではあるのだが、もっと鼠っぽい鼠だ。魔法を最上級まですべて使えるようにした僕にとって敵ではない!といいたいが、そんなことはなく、氷と雷以外は中級までしか出来ないし、氷と雷でさえも上級が精々だ。まあ、それでも敵ではないのは確かなのだが。流石に時間が足りなかった。
(土結び)
草結びのようにただ相手をひっかけるだけの魔法。走ってくるハウンドラットには十分過ぎる効果であり、後ろ足を引っかけ見事なヘッドスライディングを決める。
(氷柱の弾丸)
氷柱は鼠の額に刺さり、断末魔が聞こえる。
そういえばこの世界の魔法は詠唱は必要ないらしく、イメージ、魔力を練る、術名を呼ぶ、発現みたいな流れで魔法を扱うことができるのだ。呼ぶのでなく術名を思い、描くだけでもいいらしい。ただそれは若干とはいえ口に出すより遅くなるし、魔力の必要量も必然的に増えてくる。今言ったこれらは練式魔法と呼ばれるものの場合だ。その他にも今回使わなかった略式魔法というものがある。これは魔力を練る工程をすらも省くことができるが、魔力を練らない分変換効率が非常に悪い。とっさに使うか、魔法を繋げて使いたいときぐらいにしか正直使わない。ただ魔法を繋げて使う場合、事前に多めに魔力を練って、その中で魔力を魔法に使う種類で分別することも可能という事実も存在する。だが、難易度は高いらしい。出来たけども。略式の利点として敵の動き次第で使う魔法を変化できるという点があるので欠かせないのもまた事実だ。
最後に、これは言うまでもないかもしれないが、魔法は魔力がそれなりにないと発現しない。つまり魔法は誰でも使えるというわけではない。威力を高めれば分相応な魔力を食うし、その分疲弊する。
そうそう、上級魔法とかの話であるが、別に出来なかったという訳ではない。発現そのものはできる。しかし、実用段階ではないという話だ。時間が足りなくなった原因はただ好奇心の赴くままに魔法で実験していたみたいなところだ。例えば火魔法なら温度はどれくらい上げられるのかとか、氷魔法なら硬度はどれくらい上げられるかとか、あとは剣に魔法を纏えるかみたいな感じで遊んでた。
反省はしていない。
そうしているうちに道にのり、適当な方向へ道にそって歩く。
ちなみに今の格好だが、最初の格好とほとんど変わらない状態だ。ただ、あれから髪の毛はさらに伸びてしまい、今では背中まで届いてしまっていた。今は従者の部屋に残っていた布切れを使って髪は束ねてある。結び目は下の方にあるためわりと楽にセットできる。屋敷で生活している間、服を洗濯する必要性があったので屋敷にあった執事の服、つまり燕尾服を着ることになったこともあったが、誰も見ていなかったので問題はあるまい。恐らく同級生の女子に見られたら大変なことになっていたのは想像できる。まあ、今となっては関係ない話だが。
それと武器は武器庫から拝借した短剣と片手剣を一本装備している。短剣は剥ぎ取り用なので戦闘に使うことは少ないだろう。
でははたして剣術は使えるのかという話であるが、正直あまり上手くは使えない。精々テニスの形を真似るだけだ。ではなぜテニスか…となるとなんとなくだ。剣道は活人剣であり、かつ両手持ちが基本となるものだ。それにあれは斬撃というより打撃に特化したようなものであり、今回には向いてない。そこで片手で使う他のものとなると、と考えた結果テニスに思い至っただけだ。
体が動かせなかった分イメージだけでテニスをやってみたこともあったから覚えてはいる、再現できるかは別問題ではあるが。レベルアップのお陰で思ったよりも重く感じないのは好都合だ。
しばらく鼻歌を歌いながら道を歩いていると、後ろから木が固いものにぶつかる音が不連続に聞こえてくる。振り向いてみるといたのは馬。そしてその後ろに荷台。その周囲には剣や弓や杖をもった四、五人の人々、誰もが鎧を来ており、冒険者であることがわかる。周りの冒険者は僕のことをみると顔を見合わせて一人の冒険者が軽く走ってくる。
「おい、そこのお前、こんなところでなにしてる」
走ってきた男は若干声を張り上げて僕にそう言ってくる。
初めて他人から新しい言語を聞いたので翻訳するのに時間がかかり、その分返答は遅くなってしまったが、ギリギリ不自然ではないレベルだろう。
「え、あ。どうもはじめまして」
「はじめまして。ってじゃなくてだなっ!」
挨拶は大事だと思うのです。
「えーっと、なにしてるかって話ですね。まあ、そうですね…大変言いにくいことではあるのですが…恥ずかしい話、道に迷ってしまいまして…」
「道に迷ってってお前なあ…そんな軽装でくるような場所じゃねえっての」
「…まあ、そうですね」
だって本当は迷ってないし。道が分からないのにはかわりないんだけどね。
「どうしてそんな格好でいる」
「その…今まで暮らしていた村が魔物に襲われてまして…その間、多少戦える僕が薬草とかをとりに出かけていたのでその場には居合わせなかったもので助かったのですが…戻ってきたときには遅かったもので、村は崩壊してまっていまして。とはいっても遺体は少なかったので恐らくどこかで生きているとは思うのですがね」
「……そうか、詮索して悪かった」
「いえいえ、あちらの方の護衛をされているのですよね?なら、不審な人物を疑うのは当然ですよ」
僕は悲しみを笑顔で隠すような、苦しそうな笑みを浮かべてみると、バツが悪そうに少し目線を逸らす男性。
「そういえば自己紹介がまだでしたね。僕の名前はリオハルトと申します。気軽にリオンとお呼びください」
「あ、ああ。よろしくな、リオン。俺はノルクス。ルークとでも呼んでくれ」
ルクは手を差し出してくる。僕はそれを握り返し、返事をする。
「ええ、よろしくお願いします、ルーク」
ルクは満足そうな表情を浮かべる。
「こんなところにお前みたいなやつを放って置くわけにもいかないな、バルロッタさんに連れていってもらえるか聞いてこよう」
「ありがとうございます」
バルロッタさんというのは恐らく商人のあの人だろう。ルークが御者に話しかけているところをみると御者も兼任していると見ていいだろう。
同時に他の冒険者にも簡単に説明してくれているみたいだ。
少し待ってるとルークが手招きをする。どうやら話が終わったらしい。