表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/10

9話

すみません

予定より一日遅れてしまいました。今回一万文字を超えてしまいましたよ…

今回、遅れた理由は文字数が原因でもあるんですが、私のモチベ不足というのもあります。

ですが、次話は九月第一週目の土日に掲載できるよう頑張ります。

「お、やっときたか」

「あ、ルーク。待ってたんだ」

 セラは着替えてから降りてくるといっていたので先に一階へ降りておくことにした。待っててもよかったけど真っ赤になった目元とかあまり見られたくないだろうし、顔とか洗ってから来るように言っておいたから急かしてないということも伝えるためにもすぐそこで待っているのはやめておいた。

「当たり前だろ」

「そっか」

 それはそうと僕、ズボンとか履き替えてないんだが。いや寝間着じゃないし大丈夫か。

「セラはどうした?」

「着替えてから来るって」

「ということは一段落ついたんだな」

「まあね、なんかつかれちゃった」

 ほんとに朝から精神的な疲労が…。結果としてはいいほうに転がったし終わりよければすべてよしということにしとくけどね。

「ハハハッ、割と長く一緒に俺ですらあんな経験したことねえし、他のやつがなってんのも見たことねえわ」

「…それむしろしょっちゅう起こってたらそれは女性と一緒に寝かせるべきだよ」

 あんなのがしょっちゅうあったら理性的に男性側がきついぞ。

 でもこいつとリクならそれはなさそうだな…。ルークは鈍感だから子どもとして扱いそう。リクは…いっちゃ悪いけどそういう勇気なさそう。

「そうだな、つってもあいつはいつもはミラと寝てたしな。たまに俺らと一緒のときもあったけどよ」

 ミラならそんなことがあったとしても黙ってそう。言わないべきことは言わなそうだしね。

 あー…でもそう考えるとセラには悪いことしちゃったかな…。今回ばかりは仕方ないとはいえさ。

「あら、リオンじゃないかい。話とやらは終わったんだね?」

 声が聞こえたほうに顔を向けるとアマンダさんが裏から出てくるところだった。

「ええ、まあはい。一応いいほうに転がったと思いますよ?」

「それはよかったよ。アタシも過去を知ってるだけに色々心配でねえ」

「話?いい方向?何の話だ?」

 一人だけ事情を知らないルークは頭に疑問符を浮かべる。

「なんでもないよ」

 僕がそういうとアマンダさんは合わせてくれたらしく「他愛のない話よ」と内容は口に出さないでくれた。流石というべきか。

「なんだそれ、すげえ気になる」

「いくら気にしても答えるつもりがないから忘れたほうがいい」

「そいつはひでえ」

 睨むな睨むな。睨んでも何も出さないぞ。というか僕は睨むのにアマンダさんは睨まないのな。だから睨むのヤメロ

「こればっかりは言えないよ」

 アマンダさんには話したけど、それ以外は言わないほうがいい。

 睨まれた瞳をキチンと見据えてかえす。

「…わかった、悪い」

 なんとなく事情を察してくれてよかったよ。ふざけ半分だったのを理解してたし、理解してたからこそ、これは真剣な話なのだということが伝わってくれてよかった。


 その流れに区切れをつけようとしてくれたのか七時の鐘が街中に響く。宿の中だろうと例外なく響く。

「さってとー待ってる間ヒマだし、アマンダさんルークの過去の失敗談とか知らない?」

「はぁ!?おまっ―」

 あまりにも唐突すぎる黒歴史掘り返しにルークは慌てて素っ頓狂な声を上げる。

「勿論知ってるよ。聞きたい?」

「ちょっとやめてアマンダさ―」

 ルークの慌てっぷりといったらもうね。面白いのよね。アマンダさんには強く言えないのがまたなんとも。

「すごく聞きたいです」

「リオンてめ―」

 ルークにはどこか昨日の今日ってだけでなく僕に優しくしようと距離が近づきれてないところがあったが、そんなものはなかったように容赦なく制止しようとしてくる。だけどそれを僕はひょいひょいと躱す。流石に捕まってやる義理はない。

「じゃあ三年前のことだけどね。ルークったら―」

「アァァーーーーーー!!ヤメロォォォ!!」

 吠えるなっ!あぁ!耳がっ!耳がっ!ちゃんと三分間待ってやるからどっかの大佐みたいに。嘘です、待ちません。

「ルークうるさい」

「お前のせいだろうがっ!!」

「ルーク!ハウスっ!」

「俺はペットじゃねえ!」


「ふふっ!あははははっ!」

 階段の上から笑い声が聞こえる。聞き覚えがあるけど聞き覚えのない声だ。

「セラ来てたのかよっ!」

 初めて見る彼女の笑い姿。初めて聞く彼女の笑い声。満足そうに微笑むことはあっても聞けなかった笑い声。

「おなかがっ!ふふっ!いたいんだぞっ!あははっ!」

 お腹を抱えて笑っている姿がそこにはあった。

「ルーク!お手!」

「プっ!あはははっ!」

「セラこのやろっ!わらうんじゃねえっ!」

 階段を駆け上がってじゃれつくルークと、とっつかまって頭を拳でグリグリとされるセラ。どっちの顔にも笑顔が浮かんでいてそれを見て微笑ましい気持ちになるのと同時に確信する。

(やっぱ笑ってこそ子どもってものだよ)

 多分、ルークは嬉しいのだ。セラが笑ってくれたことが。別にドМとかそういうことではなくて、今までの重圧から解き離たれたように心の底から笑ってくれていることが嬉しいのだ。事情は知らなくてもなんとなくわかったのだ。溝がかなり埋まっていることに。

 いたいいたいと言いながらもおなかの底から込みあがってくる笑い。それによって出てきた涙を拭うのが見える。

「ほらほらルーク、痛がってるでしょ」

「元はといえばお前のせいだろっ!」

「いえい」

 ピースサインかましたるぜ!

 案の定、僕に矛先が向く。とことんふざけ倒してやるに限る

「てめっ!このっ!」

 苦しそうになるぐらいの笑い。笑いってツボに入ると中々抜けられないよね。

「アンタたち!じゃれつくなら外でやりなさい」

 アマンダさんの声が耳に入る。声こそ大きいが怒りなどまるでない、むしろ込み上げてくる嬉し涙を隠すために出ていってという意味が伝わってくる。

「ほらルークのせいだよ、謝りな」

「俺のせいかよ!すまん、アマンダさん。言われた通り外でこいつ締め上げてきます」

「ごめんね、アマンダさん。お、ルーク散歩かな?リードは僕が持てばいいよね?」

「くふふっ!アマンダさんっ!ごめんだぞ!もうっ!ぷっ!やめっ!リオン!」

「わかったよ」

 流石にもう二人とも可哀想だし。セラなんてもう呼吸が苦しくて顔が赤いし。



「リオンてめえ…あとで覚えてろよ」

 外に出たら開口一番それですか。確かにやり過ぎた感があるのは否めないけど。空気を変える材料に丁度良かったんやもん。その後セラが美味しくいただきました。

「いやはやごめんね、やり過ぎたよ。…ねえ、ルーク。ところでこれってノーカンにはなりませんよね?」

「ならねえ」

 デスヨネー。知ってた。

 こういうのは受け入れるのが筋ってもんだろうけど今回ばかりは拒否させて頂こう。

「あー…そうだ、アマンダさんにルークの黒歴史あとで聞いとこっと。ミラとかに話したら面白いかな?」

 後ろで治まりかかってたのを再び吹き出すのがわかる。セラさんや、そろそろ体がもちませんよ?

「…ノーカンにさせていただきます」

「お、それは良かった」

 ここまでひた隠しにしようとすると逆に気になるのが人間の性ってものだよね。

「もうっ!やめっ!」

「あたっ」

 呼吸できない苦しさから未だに逃れきれてなかったセラに殴られてしまった。だが反省はしていない。

「ハイハイ、やめますやめます。…んーと、ところでどこに向かってるのこれ?ギルド?」

 いやなんかこう流れで歩いてるけども。目的地知らんのやけど。

「あ?」

 ほんとこの人遠慮なくなったわ。いやまだちょっと怒ってる系?

「だから悪かったって。お詫びにそのうち奢るから」

「言ったな、約束だぞ」

「うん、約束するから」

「…わかった、今回のことはそれで水に流してやる」

 今回の目的も恐らくわかってるとはいってもあそこまでやられると思うところもあるのは当たり前だ。

「今はとりあえずお前の言う通りギルドに向かってる。ミラも恐らくもういるだろうし。リクとミラを迎えに行ったら教会の方に戻った旨を伝えるのも含めて一回挨拶にいく感じだな」

「りょーかい」

 確かにもう少し一緒にいるにしても挨拶はいるもんな。僕も挨拶しときたいし。

「わかったんだぞ」


────────


「今日はずいぶんと遅かったじゃないか」

「まあな、色々あったんだ」

 ギルドの中にある修練場。基本的には冒険者たちの研鑽のために作られたのだが、不真面目な人々ばかりであまり人が来ないのだとか。現に今もリクともう一人ぐらいしか見えない。

 流石にもったいないというのもあるので昇級試験は基本的にここで行われるのだそうだ。他にも町民の避難所として使われることもあるとかなんとか。

 外回りから見学できるようになっていてそこからリクを見てる感じだ。

「いつ見てもすげえ集中力だな」

「あれってこっちに気づいてないの?」

「ああ、全く気づいてねえ」

 話題のリクはというと、火の球を四、五個展開し、それを体の周りで同じ方向に動かしている感じだ。

「普段はあんなだけどよ。あんなんでも十分すげえ魔法使いなんだぜ」

「へえ…どのくらい?」

「火に限っては上級魔法を展開出来るぐらいだ、すげえだろ」

 それで凄いなのか。僕の魔力どんだけ飛び出てるんだよ自重しろよ。

 ということは流石に制限が必要かな?少なくともいつもみたいに最上級を下級と同じ速度で打てなきゃ実用段階じゃないとか言ってるとダメそうなのはなんとなくわかる。

「ほうほう」

「…反応薄いな。あのな、結構有名なんだぞ。裏では神童と呼ばれてるぐらいだしな。魔法力はこの街だと3本の指に入るぐらいだ。つっても流石にレベルはまだまだだから展開速度は遅いけどな」

 魔法力は基本的には行使可能な魔法の強さを表す。大体はより上の階級の魔法を使える場合が高くなるのだが、たまに下級魔法を極めて魔法そのものの威力を底上げして低階級の魔法で上回る場合もあるらしい。

「それはスゴいじゃん」

「だろ?」

 僕はそれ以上にどれぐらい制限すればいいかで頭がいっぱいだけど。

「お、一段落ついたみたいだな」

 普段とはまるで違って若干凛々しくすらあったのが大きく息を吐き出すといつもの雰囲気になってしまう。

「リクー!」

「え、あ、ルーク、も、もうそんな時間?」

 ルークが大きな声で声をかけると若干強張ってからこっちへ小走りして寄ってきてからこちらの様子を伺い見るようにそんなことを聞く。

「いつもより遅いぐらいだ」

「あ、や、ご、ごめんなさい」

「んあ?なんでリクが謝るんだ?」

「え?あれ?」

 話が噛み合ってない感があるね、仕方ない手を貸しますか。

「リクー、僕達がちょっと色々あって遅れただけだからリクのせいじゃないよー」

「あー…そういうことか。リオンの言う通りだ」

「そ、そうなんだ…よかった…」

 それは安堵し過ぎな気もしますがねー。これは性分としか言えないけどさ。

「ま、いいわ。とっとといこーぜ」

「わかったんだぞー」

「あいよ」


────────


「なんというかこう…ギャップが…」

「そういうもんとしかいえねえよ」

「そうさね」

 蔦やらで壁が覆われてたり煤けていたりする木造の教会と、新設されて築年数がそこまでたってないであろう建物とで入り口が2つ。片方は大きな開き戸。こちらは教会だろう。もう片方の石造りの建物は暖簾らしきものがかかっているしこちらが銭湯なのだろう。日本人が伝えただけあって所々に懐かしさを覚える。

「そういうもんかー」

「私は先に行ってるんだぞー」

「あ、おい。俺もいくっつーの」

 駆け出すセラを追うようにルークが続く。

「アタシたちもいこうかい」

「は、はい」

「そうだね」

 見ていて若干微笑ましい気持ちが込み上げてくる後ろ姿を眺めながらそれら置いていかれないようについていく。

「リオン」

「ん?なに?」

 突然、ミラに名前を呼ばれる。セラ達の後ろ姿を目で追いつつも、いや目で追っているからこそ呼ばれる。

「色々あったって言ってたねえ」

「うん、言ったね」

「本当に色々あったみたいだねえ」

 いやはやミラの観察眼は凄まじい。あれで、あれだけで見抜かれるか。

「だから色々あったって言ったじゃん」

 まだ昨日あったばかりの僕にこんな重役を押し付けないで欲しい。

「ありがとねえ」

「…なんで僕にお礼を言うのさ」

 僕とは限らないじゃないか。それにミラがお礼を言わなくてもいいのに。

「アイツは何だかんだで不器用だからさ」

「それは…否定できないや」

 人を惹き付ける魅力があるのに、人の心のこととなるとどう対応していいかわからないのが昨日の今日でもうわかるぐらいには不器用だ。やたら人のことを仲間に巻き込むくせに距離の取り方がやけに上手いから親密にはなりきれない。

「え?あ、あの…な、なんの話ですか?」

 一人、意味が理解できてないリク。まあ気づかなきゃなんの話してるかもわからないよね。

「なんていうかな?壊された壁の話だよ」

 でもまあ直接話すような話でもないからね。

「?…ますますわからない…です」

「ははは、そのうちわかるよ」

「…そういうものですか?」

「そういうもんさ」

 ミラの手がリクの頭にのびて、わしゃわしゃっ、とそんな音が聞こえそうな少し強めな撫で方で撫でる。

 なんで撫でられたのかもわかってないリクは困惑しているが、とりあえず一段落ついたので二人が入っていって寂しささえ感じる入り口をくぐる。開け放たれた扉は何者もを拒まず、邪魔せず、僕らを通らせてくれる。

「皆様、ようこそいらっしゃいました」

「リオンーこっちだぞー」

「おせえよ」

「まったく君らが先に走ってったんでしょ」

 仕方がないので歩みを速めてミラ達より一足先に向かう。もう少しこの雰囲気を味わってもいいじゃんか。

「あら、此方の方は初めましての方ですね。わたくし、この教会の神官を務めさせていただいております、フィーシャと申します。以後宜しくお願い致します」

 美人のシスターさんだ。光輝く金髪は神々しささえ醸し出し、ひとあたりがよさそうなのが一目でわかる。そしてなにより…デカい。何が、とは言わないけどデカい。たわわな果実と称すにふさわしい双丘。

「これはどうも御丁寧にありがとうございます。初めまして僕はリオハルトです。呼ぶには多少長い名前ですので是非、リオンとお呼びください」

「リオン様ですね。かしこまりました。改めて宜しくお願いしますね」

 話の流れで自然にフィーシャさんは微笑む。

「ええ、こちらこそ宜しくお願いいたします」

「ルークさん方も無事に帰られたようでなによりです」

「ああ」

 流石にルークでもいつもみたいに気楽に接するわけにもいかないようで、若干硬い声音だった。

「セルトルもおかえりなさい」

「ただいまだぞ」

「あら、セルトル。なにかいいことでもあったのですか?」

 流石に普段一緒にいる分、わずかな言動で気づいたようだ。

「まあな。でも内緒なんだぞ」

「あらあら、それは残念ですね」

 残念と口では言いつつも嬉しさが隠しきれてない。といってもそのことに気づいてるのは僕とミラだけだろうけど。

「みんなは朝ごはんか?」

「ええ、そろそろユート辺りが食べ終わるころだと思いますよ」

「そうなのか。じゃあもう少し待ってるんだぞ」

「話したいことでもあるのですか?」

「ああ、そうなんだぞ」

「そうですか。あら、もう食べ終わったようですね。いってきなさい、セルトル」

 脇から扉の開く音が聞こえたと思うと男の子が顔を除かせる。「フィーシャねーちゃん――あ、セラ姉!帰ってきたんだ!」「うん、今日はもう一回出かけるけどなー。でもみんなに会いに来たんだぞー」と思わず顔がゆるんでしまうような会話が聞こえる。そうしてる間にも「セラねーちゃん!」と女の子の声が聞こえたり、その声で気づいたのか何人かが駆け出したような軽い足音が聞こえたりとセラが慕われてるのがよくわかる。

「…子どもの成長は早いものですね」

 どこか遠くを見るようにボソっと呟いたのは子どもたちの騒ぎ声でかき消される。

「…あ、ごめんなさい。セルトルを雇っていただき今回はありがとうございました」

「うちのパーティはいつも人不足でな。こっちも助かった」

「いえいえ。…あ、そういえば先ほどセルトルがまた出かけると言ってましたが…」

「ああ、なんでもコイツの昇級試験をみたいとかでな」

 僕には背を向けたまま、親指で指される。ちなみに昨日のうちに今日試験があることを言ってあったのでそれを考慮されずに一日中振り回されることはない。

「あらそうでしたか。頑張ってくださいね。あなたさまに神のご加護があらんことを」

「ありがとうございます。頑張らさせていただきます」

 ごく自然な流れで祈られてしまったぞ…。こんなの初体験。

「…まあそいうわけだから今回の用事は挨拶だけだ。だからあとでもう一回来るつもりだ」

「わかりました」

「つってもまだ時間があるし、俺もガキどもと遊んでくるか」

「それは助かります。子どもたちも喜ぶと思いますよ」

「ほいじゃあいくぞ、リオン」

「え、僕っすか?あ、強制連行なんですね」

 自分で歩けますから引っ張らないでくださいよー。

「何してるリクもいくぞ」

「あ、え、まっ、待ってくださいぃ」

 慌ててリクも駆け出し、僕の後ろに続く。

「アタシたちもいこうかい」

「ええ。そうですね」


――――――――――――


 そうして連行された子どもたちが普段遊んだり寝たりしているのがよくわかる程々に散らかった部屋に通され、一人取り残される。ルークたちはちょっかいを出したり、ちょっかいを出されたり…リクなんかはちょっかいしか出されてないけど。僕という初めて来る人にどう接していいかわからないのか、扉のそばで僕は顔が緩む行動をただ眺める。フィーシャさんも隣にいるが、フィーシャさんはこどもと全力で遊ぶタイプには見えないしいつものことなんだろう。

 そうして眺めてると扉から子どもと見間違うようなシスターさんが入ってくる。

「フィーシャさんっ、シズとジャックが食べ終わってないのに部屋を出ていってしまってっ」

「シズ、ジャック、こっちへ来なさい」

 叱るような様子は一切なく、やわらかい口調で二人を呼ぶと。一切抵抗する様子もなく二人の男の子がしぶしぶといった感じで歩いてくる。この人すごすぎではないでしょうか。

「「…ごめんなさい」」

「二人とも早く遊びたかったのよね?」

 二人ともやんちゃそうな男の子だが、素直に頷く。どちらもフィーシャさんの言うことを無視する様子は一切見られない。

「なら、ちゃんと食べきった方があとで呼ばれなくて沢山遊べるとは思いませんか?」

「「…」」

「それにルークさん方はそんなにすぐいなくなるわけではありませんよ。二人とも悪いことをしたとは思っていますね?」

「…うん」「…」

 説教のようだが叱るというより、諭すという表現の方が正しい。

「だったらそういう気持ちがないまま遊んだほうが楽しめるでしょう。ほら、最後まで食べていらっしゃい」

「…わかった」「…うん」

 素直にこの部屋の向かい側の部屋へと入っていく。

「フィーシャさん、ありがとうございますっ!」

「いえいえ」

「ディー、2人は?」

 新しいシスターが顔を出す。だがそれと同時に全身に悪寒が走る。


 でもどうしてだ?どうしてこのシスターを見た瞬間過去がフラッシュバックしたんだ?


 似てるのに違う。違うのに同じだ。


 ―――――あのときの目と


 思い出すのは空の青さ。自分の体の不甲斐なさ。そして背中の熱さ。赤黒い液体。


 本当にどうしてだろう。僕が死んだ時を思い出すのは。特徴は似ても似つかないのに。絶対に違う人なはずなのに。


―――――犯人を思い出すのは


「リオンさんどうかされましたか?」

 慌てないように抑制してるセリフが聞こえる。でも声音はまるで落ち着いてるようには聞こえない。でもその声が僕を現在へと引き戻す。

「いえ、なんでもないです」

「本当になんでもないんですか?」

 いつの間にか足に力を入れて距離をとろうとしてたのを止めて自分を落ち着かせる。

「ええ、大丈夫ですから」

「そんなこと言わずに休んでください!」

 あらら、怒鳴られてしまった。

 フィーシャさんが怒鳴ることなんてめったにないんだろう皆の視線が集まる。

「じゃあすみません。少し座わって休ませていただきます」

「こんなところじゃなくて医務室の方で休んでください」

「ただの立ちくらみですから、少し座ってれば落ち着きます」

 本当は違うけどさ。強がっておきたいんだよ。

「…本当に無理はしてませんか?」

 丁度いいや、思考を整理しよう。それがいい。

「はい、無理はしてません」

 僕は力を振り絞って微笑えんで見せる。多分痛々しい表情だったろうが、大丈夫だと顕示したかったのだ。過去に負けてるようでは多分、未来には進めない。

 目を閉じて思考を巡らせる。どうしてと自問自答を何度も何度も繰り返す。考えを否定してはそれを否定しての繰り返し。


―――そして一つの解を見出す。


 それと同時に気づく僕にも、かつての犯人や、今のシスター、それと同じものが居座っていることに。


解を見つけた安堵と疲労感のせいだろうか…睡魔がドッと迫ってくる。その睡魔に身をゆだね、浅い眠りにつくことにした。

―――――――――


「―――オハルトさん、リオハルトさん」

 目を開けると視界を埋め尽くす白とそこに一人たたずむ女性。

「クシリア様」

「申し訳ございません、少し介入させていただきました」

 深々と頭を下げるという行動。既視感のあるそれに同じ答えを返す。

「だから頭を上げてください。…ってこのやり取りは久方ぶりですね」

「ふふっ、そうですね。あれからもう結構経つんですよね」

 やはりこの神様からは人らしさばかりが伝わってくる。

「ですね」

「おっと感慨に浸っている場合ではありませんでした。今回介入させていただいた(わけ)をまだ話していませんでしたね」

 クシリア様の表情が真剣なものへと変わる。あまり時間もないのだろうか。

「今回、介入させていただいたのは他でもありません。貴方の感じた悪寒についてです」

「やはりそうでしたか」

「はい、そこまで介入している時間もありませんので手短に説明させていただきます」


―――――――――――


 ――――邪気

 貴方が感じ取ったそれは我々の間ではそう呼称されています。

 この世界は魔法と邪気の二つが存在します。それは地球であっても例外ではありませんでした。使えるかどうかは別としてですが。

 そもそも貴方は魔法がなにかしっていますか?

 魔法とは”夢”そのものです。

 貴方に分かりやすいところでいえば幽霊、超能力なんかも魔法の一つになりますね。しかし地球で顕現するのは稀ですよね?その理由は魔法をつかえるかどうか、それに尽きます。稀にあなたほどとはいかなくてもそれなりに魔力の多い魂であっても地球で生まれさせる時があります。

 ――その人たちの体は大丈夫なのか?ですか?ええ、大丈夫な程度の魔力でしかそういったことは行わないので問題は起こりません。では話を続けますね。

 そういった人たちは自らの願い、夢を能力という形で見出すことがあります。それが超能力と呼称されているわけですね。

 幽霊は少しそれとは違いますが、大勢の人のまだいて欲しいという夢が魂を引き留め周囲に魔力を纏い、かつての体と同じ形をとります。地縛霊はまだ死にたくないという本人の強い願いが同様の現象を引き起こしたものです。


 でも邪気は違います。

 邪気は理性で抑え込んでいた自らの欲望、妬み、恨み、それの制御を外すものです。悪魔と呼ばれるそれは邪気から生まれてきます。そして邪気に住み着きます。

 邪気は他人に移ったりしません。でも干渉はします。人にストレスという形で種を植え付けます。そこからただ魔力が変質し変わっていくだけです。しかしこれは理性を強く持てば染まったりはしません。また、ふとした拍子にどこかへ消え去っていくこともあります。

 ですがそれに耐え切れず染まってしまった人が所謂、凶行をおこしてしまうのです。狂ってしまうのです。

 …そうです。魔法と邪気は何も変わりません。その違いは自身の意思を保てるか否か、というだけです。


 そして一つだけお願いがあります。貴方の手の届く範囲だけでいいです。


 邪気に染まった人たちを解放してはくださいませんか?


――――――――――――


「解放…ですか…」

 そんなもの英雄に任せればいい。善人に任せればいい。僕はただの偽善者なんだから。

「…勿論、貴方のおかれている状況は理解しています」

 多分、この胸のあたりにある違和感。吐き出してしまいたいけどすることが叶わないモノ。

「だったら…」

 僕なんかに頼まない方がいい。

「…でもそんな貴方だからこそ頼みたいのです。そんな貴方ならば理解してあげられると思ったのです。それに貴方が抱えてるその問いへの答えに近づけるはずです」

 そんなことを言われたら―――

「……まあそうですね、やるだけやってみましょう」

 引き受けるほかないじゃないですか。

()()に答えを出すためなら」

 この前世からの問いに決着をつけるためならば。

「ありがとうございます」

 その礼が耳に入ると周囲が徐々に辺りの色がなくなっていく。

「あら、時間ギリギリでしたね…」

「そうですか、もう時間切れですか」

 徐々に透明へと近づいていくクシリア様。

「ではいずれまた」

 僕は最後にそう言い残した。

次回は戦闘回の予定です。

あとストック尽きました。悲しい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ