82.魔界の門
わしじゃ、アルブレヒトじゃ。
わしらは、魔法陣を維持しておる魔術師を排除するため、幾つかの班に別れ、街に再び入っていったのじゃった。
わしとクレイが前衛でリーシャとシシリーが後衛、先行してペガサスのフィリスが空から捜索しておる。
門下生や師範も、幾つかの班を作り捜索に応っておるのじゃ。
円の淵まで行って確信する、境目を超えると背筋に走る背持ちの悪いものは、やはり世界を跨ぐ感覚じゃ。
今、この世界と繋がっておる世界は、と幻想郷と魔界じゃ。
ここが幻想郷で無いことは一目瞭然、つまりはこれは魔界、人間界と表裏一体であり魔法陣で行き来できる世界なのじゃ。
この大規模な魔法陣、さぞ沢山の人間が支えておるのじゃろうな。
しかし、魔道士の姿は見付からない、代わりに淵には肉の柱が等間隔に並んでおるのじゃ。
取り敢えず肉の柱を両断してみると、中から出て来たのは人間の臓物じゃった。
これは元は人間、魔道士の成れの果てじゃな。
柱は斬っても暫くすると再生してしまう、これでは魔法陣を止めることは出来ぬ。
わしらは、肉の柱を切り倒しながら、肉で描かれた円の淵を巡っておった。
しかし再生するより早く、切り倒さねばならぬ焦りからか、地面から伸びでた触手への対応が遅れたのじゃ。
クレイは触手に身体を刺し貫かれ、膝を付いた。
リーシャが絶叫する。
「クレイー、いやぁーー!」
触手はグイグイとクレイの身体を手繰り寄せ、肉で包み込もうとしておる。
わしはリーシャの悲鳴で気がついて、クレイに駆け寄り刺さっていた触手を斬る。そして、クレイの肩を掴んで円の外に引きずり出す。
シシリーは必死に回復呪文を掛け、それをリーシャが援護しておった。
見れば、リバイアサンも海中を這ってきた巨大な触手に絡め取られ、身を捩っているのじゃ。
わしは、フィリスを呼び、核に直接攻撃を仕掛けることにしたのじゃった。
昔海賊にしたのと同じじゃ、フィリスの前足に捕まり、空中から近寄って奇襲する。
今ならまだ、リヴァイアサンのブレスで核が露出しておるかもしれぬ、一縷の望みをかけて飛び立ったのじゃった。
円の中心を目指して飛ぶ、500mほど飛んだじゃろうか、眼下に真っ黒で黒曜石の様な、ツヤのある真ん丸の球体が見えたのじゃ。
さらに近寄ると、それは1mほどの大きさで、肉の臓物はそこから放射線上にヒダが伸びておった。
これが核と確信したわしは、フィリスに命じて真上から近寄り、地面すれすれで手を離すと、抜刀し右上段から袈裟懸けに斬りつけたのじゃ。
手応えは十分にあった、黒い玉は右斜め上から左斜め下に掛けて両断され、ズルリと2つに別かれて左右に開くよう転がったのじゃ。
しかし終わらなかった、わしの足元の肉が盛り上がったかと思うと、槍のように伸びて、わしを刺し貫いたのじゃ。
触手は何本も現れ、ザクザクとわしを刺し貫く。
わしが斬ったのは殻じゃった。
転がった殻のなかには、透明な白身があり、その真ん中には黄色い瞳をした黒い目玉が浮いておる。
そしてその目玉は、ぎょろりとコッチを向いたのじゃった。
わしは動かぬ身体にムチを打ち、右手に全力を込め、その目玉を刺したのじゃ。
頭に直接響く、気色悪い悲鳴。
肉の地面は不規則に蠢きだし、魔法陣を維持していた肉の柱は、パンとはじけ飛んた。
そして、肉の地面は、周囲から段々と縮み始め、土の地面に変わって行く。
フィリスは、アルブレヒトの隣に降り立ち、早く逃げる様に促そうとした。
その間にも魔界と現世を繋ぐ門は、縮まり狭くなっていく。
だが、何本もの触手で刺し貫かれ、地面に繋がれたアルブレヒトは動けなかった。
口からは血のよだれをたらし、目は虚ろだった。
フィリスは人の姿をとって地面に降りる。
そして、アルブレヒトに寄り添い、その頭を両手でしっかりと抱いた。
アルブレヒトの耳元でフィリスは囁く、
「アル様。アル様が魔界へ行くと言うのなら、私もお伴します、だから必ず転生して私の前に現れて下さいね。アル様。アル様。アルブレヒト」
魔界の門は閉じ、二人の姿はこの世界のから消えて無くなった。




