80.日常
わしじゃ、アルブレヒトじゃ。
ジパングで初の夏を経験しておる。
正直砂漠以外でこんなに暑くて、不快なのは初めてじゃ。
湿度が高くて汗は乾かずボタボタと滴り落ちて、水を飲んでもすぐ汗で出ていき一向に喉の渇きが癒えぬ。
そんな中、畑の雑草は元気に育ち、ちょっと目を離すと直ぐに作物が埋もれてしまう。
しかし、悪いことばかりでもない、夏野菜は美味しいものが多いし、夏は風情のある物も多い季節じゃ。
風鈴の鳴る縁側で食べる、水路で冷やしたスイカの旨いこと。
すだれは風を通し、日光を遮り、家の中を涼しくしてくれる。
わしはこういった工夫をこらし、それを風情として楽しむ文化が好きになってきておった。
道場の帰りにひとっ風呂浴びて、帰りに一杯引っ掛けて帰る、なんて事も特に珍しくも無くなっておったのじゃ。
道場でのわしは、兜割りを成功させ、大目録を頂き、免許皆伝まであと一歩になっておった。
環境が良いのか時間が経ったからなのか、沈みがちであったミルドも、最近は明るく天真爛漫に育っておる。
何もかもが順風満帆だと思っておった、そんなある日じゃ。
突然地面が揺れ始め、それはドンドン激しくなり、ついには地面が割れ、家がなぎ倒されるほどの揺れとなったのじゃ。
道場は無事であったが、回りの家々は崩れ川の近くでは堤防が崩れたり、橋が崩れて流されたしておった。
わしとクレイは稽古中であったが、家に急いで戻るのじゃった。
家は、半ば崩れかけておったが、フィリスは無事であった。
おっつけシシリーとリーシャも、仕事場から戻ってきたが、ミルドが戻って来ぬ。
家は郊外じゃが、寺子屋は街の中心に近い寺で行われておったからじゃ。
街の中心近くでは火事も起こり、灰色の煙が上がっておる。
小さな丘に登り、街の方を見たわしらは自分の目を疑ったのじゃ。
街は赤い色をしておった、地割れした地面から赤い物がにじみ出て、街を覆っていくのじゃ。
これは、ただの地震とは思えなかった、すぐにミルドを救いに行かねばならぬ。
わしは、
「これはね只事ではない、わしはミルドを迎えに行く。皆は待っておってくれ」
クレイは
「ここは皆で行かれたほうが」
と言うが、
「ここにミルドが戻ってきたら、そのまま避難して欲しい」
と頼む。
走りだしたわしの後ろには、フィリスが付いてくる。
「力が必要に成るかもしれないデスヨ」
わしは、
「わかった、付いて来い」
と言って、街を目指し走るのじゃった。
近寄って分かった、地面の裂け目から湧き出すものの正体が。
それは肉じゃった、薄い桃色の臓物、そしてそれから生える肉の触手。
それは至る所から吹き出し、ゆっくりとした動きながら人を追い詰め捕らえると肉に取り込んでいく。
おぞましい光景じゃった、わしはフィリスにペガサスとなって上から見て誘導してもらうことにしたのじゃ。
燃える家屋は朽ちて落ち、裂けた地面から肉が湧き出し、さながら街は死の迷路となっておった。




