73.神童
わしじゃ、アルブレヒトじゃ。
わしは、船の中で暇な時にはジパングの言葉を習っておる。
がっ、全く頭に入ってこぬ、覚えたと思っとったのに、次の日にはもう忘れておる。
一週間ならって、挨拶とお礼など基本しか覚えておらぬ、歳は取りたくないのぅ。
そして、フィリスも全くダメじゃ、こっちはやる気もなさそうじゃがのぅ。
船長も忙しいのもあって、割とコッチ側じゃのぅ。
クレイ・リーシャ・シシリーは片言レベル、そしてミルドが恐ろしいまでの神童振りを発揮する。
一週間で普通にユアサと向こうの言葉で話しておる。
しかも皆で褒めるもんじゃから、ますます頑張って好循環を生み出し、わしとの差が果てしなく広がっていくのじゃ。
わしは、孫が良く出来て鼻が高い反面、自分の不甲斐なさにイライラするのじゃった。
わしが、
「むぅ、ごはんはたべられますか・?」
「惜しいですがその場合は、ごはんを食べますか?となります」
ユアサに訂正されても違いが解らん。
・・・言葉かぁ、わしは昔どうやって覚えたのかのぅ?
そんな勉強の日々が過ぎ、水と食料の補給で寄った港で、ミルドが拐われた。
なんでこんなことに、わしが目を話したからかいつもだと誰がカテをつないでいるはずなのに!
すまぬ、わしも混乱しておるな、順序立てて話すと、寄港した港から酒場まで行き昼食を取ろうとしたが、ミルドが何時までたっても来ないので、港の船まで迎えに行くと、船の見張り番の船員は、
「ミルドちゃんなら皆が降りた時に一緒に降りて同じ方向に歩いて行きましたぜ、何かありましたか?」
と言われ、酒場に取って返しても、
「まだ来てないですよ、途中で会わなかったんですか?」
と、言われたのじゃ。
港に着いて貧相な食生活から開放され、舞い上がってミルドの手を引かずに酒場に来てしまった、わしの一生の不覚じゃった。
わしはその場で、船の持ち主としての強権を発動し
「ミルドが見つかるまで、決してこの港からは船を出さぬ。みな手分けして探して来るのじゃ」
と、反発覚悟で宣言したのじゃが、船員たちは、
「おおぉー、拐った奴ら見つけたらタダじゃおかねぇ」
と、ちょっと物騒なテンションで、店から探しに出て行ってくれた。
わしらも、と出て行こうとすると、
「全員で出て行って、帰ってきた時どうするんですか?」
と、シシリーに腕を掴まれ引き戻された。
わしは船に戻り、情報整理をしておった。
最近は暑かった事もあって、ミルドはカツラを付けず尻尾も出して行動しておったから、目立つ格好になっておった。
目撃証言は探せば出てくるのじゃった。
「うん?犬耳の可愛い女の子?見たよ~」
「尻尾生えてる女の子でしょ、後ろ姿だけだけど珍しいから覚えてるわ」
「うんうん、銀髪でフワフワした髪の女の子ね、見た見た可愛かったわ」
路上で遊ぶ子供に、露天のおばちゃんに、オープンテラスでお茶を飲んでいたご婦人に、それぞれ見られておるが一人で歩いておったとの事じゃ。
誰も一緒居なかったのは良いが、それでも油断はできんかった。
見かけられたミルドの足取りから捜索範囲を西に狭めていくと、
「アル様ー、見つけました、街の西の海岸線に居ました」
と、フィリスが連れて来た。
良かったと胸を撫で下ろしたが、
「ミルド、勝手に一人で出歩いて皆心配したのじゃぞ」
と叱るのじゃ、子供は叱らねばならん時もあるでな。
「ごめんなさい、お爺ちゃん。でも助けて、助けてって聞こえたの」
「わしらはあの時何も聞こえておらんかったし、その後ミルドに助けを求める人には会えたのか?会えてはおらぬのだろう」
と言うと、
「居るのは解ってるけど怖くて行けなかったの・・」
わしは、ミルドが叱られるのがイヤで嘘を付く子では無いと思っておったので、話を聞くことにしたのじゃ。




