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69.食

わしじゃ、アルブレヒトじゃ。

あれから順調に航海は進み、船に乗っておる時は船員として働いて、街に着くと商人として売買を行った。

酒を売って香辛料を買ったり絹を買ったりしながら北上を続け、5ヶ月ぶりに港街モームまで戻ってきたのじゃ。

エイボン王国に直行した時よりも長い、1ヶ月ほどの航海であった。


船員は上陸したら、まず酒を飲んで肉や特産品を腹いっぱい食う。

船に乗って分かったのは、陸地のバラエティー豊かな食事の有りがたさじゃ。

なにせ船では、干し魚か塩漬け肉、ビスケット、豆のスープ、釣れたら魚の炒め物、海が荒れたら火が使えぬのでビスケットと干し魚のみじゃ。

わしらは意気揚々と船を降り、可哀想な船の見張り番を置いて酒場に繰り出すのじゃった。


酒場で飲んでいるとふとラファエルが目に入る、そういえばわしが彼と初めて話をしたのはこの街じゃったのぅ。

この航海で知ったラファエルは、良く言えば真面目、悪く言えば硬っ苦しい性格じゃ。

着いた街では遊びまわる事もせず、街の調査をしせっせと本国に手紙を出している、決してハメを外さず理性的であろうとしているのじゃ。

今日もカウンターの隅で手帳にメモを走らせ、回りと会話する事無く黙々と飯を食っておる。

「師匠、ジョッキ持ってどちらへ?」

「たまには違う顔みて酒が飲みたいのじゃよ」

と、わしはジョッキを片手に席を離れ、カウンターの席に移る事にしたのじゃ。

「ラファエル、酒場に来てまで仕事かの?」

「あっ、いえ。大した事では有りません」

とメモを畳んで懐にしまい、思い出したように乾杯するのじゃった。

「覚えておるか?わしとそなたが初めて会話したのはこの街じゃ」

「そうでしたね、そしてこの街でローラ様を説得したのでした」

「その前の港で見てはおったがのぅ、しかしあの鉄の玉を飛ばす魔術は見たことがなかったのぅ」

と言うとラファエルは少し照れくさそうに

「あれは、苦肉の策でして。」

と語りだしたのじゃった。

「私はその・・貴族の生まれでして、魔術師の家系ではありませんでしたから、魔力の出力が他の魔術師に比べ大分低いのです。

魔術は、体内の魔力オドを使って、自然界に溢れている魔力マナを操作して発現させるのです。

元のオドが低い私は、操作できるマナも少なく、普通にやってもまともな威力の魔法にはならなかったのです。

そこで、魔法で弾を作って魔法で打ち出すと言うプロセスの弾を作る方を諦め、打ち出すことだけに特化しました。

弾の方は、鍛冶屋で作ったこの鉄球を持ち歩く事にしました」

「苦労してたんですねぇ」

と、途中から話を聞いていたクレイが割り込む。

「苦労していたんだよ、君は盾で尽く弾いて私を海に突き落としてくれたがね」

ラファエルは不満気な顔で言っておった。

「おかげて長年使っていた盾を新調することになったんですから、お互い様です」

クレイも言って返す。

わしは、

「どうじゃカウンターの隅ではクレイは座って話せん、わしらのテーブルに来て話をせぬか?」

と言って、彼をわしらのテーブルに引っ張って行くのじゃった。

一度話してしまえば、皆とも気兼ねなくワイワイと話をするようになったのじゃ。

小一時間ほど過ぎ、そろそろお開きと成る頃、わしはラファエルが懐に隠したメモが、最初見た時から気になっていたので聞いてみる、

「そういえば、さっきカウンターで書いておったメモは何だったんじゃ?」

「あれは、その・・魔術師は何か研究をするのが・・嗜みでして・・」

と口ごもる。

「ふむふむ」

「私の研究は食の探求!早く言えば珍しいメニューのレシピを想像して書き留めてました」

そうかぁ、食の探求か。

彼にとって船の食生活は、誰より辛かったじゃろうなぁ・・・

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