68.酒
わしじゃ、アルブレヒトじゃ。
わしの船は船員を得ることが出来た、これで出港の準備は整ったのじゃ!
出発の日は別れの日でもある、ローラはこれまでのように自由には出歩け無くなり、わしらと旅をする事など、もう出来無くなってしまったのじゃ。
まぁ出発前日の安宿に現れて、別れの挨拶をした時点で、もしかしたら本当は誘えば付いてくるんじゃないか?と思ってしまったがのぅ。
ローラはみなと一人づつ言葉をかわして、別れを惜しんでおった。
わしには、
「これまで長い間お世話になりました、ジパングに必ず付いて下さいね。
そして特産品を持って、必ずここに帰って来て下さいね」
と、言って笑うから、
「うむ、土産を船一杯にして戻るぞ」
約束して来たのじゃった。
そして今日港街エンドアを発つ。
まずは大陸伝いに北上して途中から東へ進む、今年の年越しは船の上かもしれぬのぅ。
エイボン王国は木材、特にオーク材が特産品じゃった。
そのオーク材で樽を作っての酒作りも盛んで、お酒も特産品じゃ。
なので今この船には酒樽が沢山積んであるのじゃ。
こんな寂しい気分の時には酒でも飲むに限る、と酒蔵もとい船倉に降りて行くとフィリスがおった。
「なんじゃい、こんな所でミルドとかくれんぼでもしておるのか?」
「そうですけど、アル様はどうしてこんな所にー、お酒ですか!」
「少しな」
「ダメっす、ここのお酒は商品なんで手をつけちゃダメです」
一ヶ月半の航海で随分船員のようになってしもうたのぅ。
「あれじゃ、腐っておらぬか、ちょっと舐めるだけじゃ」
「出港初日でその嘘は何ですか!」
とまぁ色々言っておるうちにフィリスを丸め込むことに成功し、わしは樽にジョッキを突っ込んで、汲み上げてそれを飲んでおる。
「しかし、フィリスも随分飲める様になったのぅ」
「まぁ、冒険者って毎日飲んでますよね、冒険者って冒険で死ななくてもアル中になって死ぬんじゃないですかねぇ?」
「酷い言い様!でもまぁ船に乗っ取るときはずっと飲んでなかったじゃろ」
「船長怖いですからねー、ロープ間違って引っ張って帆を絡ました時なんか、顔真っ赤で鬼みたいですもん」
「まぁ、あれはお前の馬力で間違えると下手すると帆が破れかねんからのぅ」
と、また酒を掬いながら言う。
「せっかくじゃ、クレイ達もこっそり呼ぶか?」
「んーでも、こんな真っ赤な顔して甲板まで行ってたら、他の船員にすぐバレちゃいますよ~」
と、そこへ
「フィリスちゃん見ーつけっ」
と、ミルドがやって来た。
丁度良いので、客室のクレイとシシリーを呼んでくるように使いに出した。
「そういえば、クレイさん達船に酔わなくなったっスねぇ」
「そういえば、ここの所吐いてるのみないのぅ、最初の頃は大変だったのぅ」
クックックッと思い出しながら笑っておった。
「交渉で国々を回っておる時は、夕方には寝て早朝に起きて適度に運動し、冒険者とは思えぬ健康的な生活じゃったからの」
「今思えば、あの時点で船長も船員さんたちも軍人ぽかったですねぇ」
そんな話をしておると、ミルドが戻ってきた。
連れて来たのは船長じゃった・・・
船長はヤレヤレといった態度で、
「アルブレヒト様、初日から何をされてるんで?、船団を組んだ初日に言いましたよね・・・」
わしが年寄りだからか、直情的な怒り方をしない船長に、これはあんまし酷いことにはならないかも、と思ったのじゃ。
その間も船長の話は続いておって、
「・・・・と、言うわけで、お二人にはこれから罰を受けて貰うことになるでしょうな。
罰というよりは罰かもしれませんが」
そう、忘れておったがわしらは船団を組んだ約二ヶ月前に注意されとった。
船では飲酒をするな、大量に飲酒して酔えば、必ず船酔いするからと。
わしとフィリスは翌日、未曾有の船酔いに苦しむのじゃった。




